13.……まさか、女装で来たりしないだろうな?
さて、これで役者は揃った。
仕事や準備に追われていると、瞬く間にダンスパーティー当日が訪れていた。
自前の騎士団の正装に袖を通す。
騎士団に正式所属してから、きちんと自分用を仕立ててもらったのだ。
サイズ的には借り物でもたいして困ってはいなかったが、最近少々パンプアップしてしまったのでこちらの方がありがたい。
殿下の即位も近いということで式典用に用意していたのだが、先にこんな場面で使うことになるとは。
あれからしばらく巫女候補を観察していたが、やはりハーレムエンドを目指していることは間違いなさそうだ。
私にまで粉を掛けてくるのだから徹底している。
個人的にはああいった自分の武器を理解して存分に利活用しているタイプの女の子は嫌いではない――というか、尊敬に値すると思っているが、それはそれ、これはこれ。
我らが初代主人公を軽んじた報いは受けてもらわねば。
攻略対象4人に加えて、隠しキャラとファンディスクの追加攻略キャラ。ここまでくれば大したものだろう。
ゲームですら見ることのできなかった豪華な絵面になること請け合いだ。
学園行事、そしてゲスト参加とはいえダンスパーティーだ。
存分に着飾った攻略対象たちに囲まれるリリアはさぞ見ごたえがあるだろう。
その様子を瞼の裏に思い浮かべようとした、――のだが。
何故か脳裏によぎったのは、豪華絢爛なドレス姿の一同である。
本来ドレスを着用するのはリリアだけのはずなのに、このイメージ映像が浮かんでしまうのはいかがなものか。
学園のダンスパーティーでの出来事は、私の心にたいへんなものを遺していった。もはやトラウマである。5年経っても消えない根深さでがっつり植え付けられていた。
今になって考えてみても何故あんなことが起きたのか分からない。しかも2年連続である。
幸いにして、二度あることが三度なかったことだけは救いだが……
そこまで考えて、ふっと不安が思考を過ぎった。
……まさか、女装で来たりしないだろうな?
いや、まさか。さすがにないだろう。みんないくつになったと思っているんだ。
学園をとっくのとうに卒業して、皆社会人――という表現が正しいのか不明だが、貴族社会に出ていることは間違いないのでまぁ、あながち間違いでもないだろう――になって立派に働いている。
プラプラしているのは私とロベルトくらいだ。
学生の時分なら若気の至りで済むかもしれないが、いい大人はそうもいかない。
女装で社交の場に出る人間などいるものか。
必死で自分の存在を棚上げしようとするが、社交界にはハイヒールしか履かない成人男性がいるという話も聞く。
例外というのは予想の外側に存在するから例外なのだ。
何より私には彼らが何故あの愚行に走ったのかが分かっていない以上、またやらないという確証が持てない。
二度あることは三度ある、というのが経験則に基づく先人の教えである。
ぬかった。女装で来るなと釘を刺しておくべきだった。
突如として降って湧いた不安にここからの動きに思考を巡らせながらも、鏡の前で自分の姿を確認する。今日のメインは私ではないが、きちんと見た目を整えるのは気分を維持するためには重要なファクターだ。
胸元の飾りを直しながら、一つ息を吐く。
まぁ、いい。クリストファーは今から行けば家を出る前に止められるだろう。
あとは念のため、適当な礼服を一着持って行こう。
そうすればアイザックか殿下なら無理矢理着替えさせることが可能だ。
アイザックは少々裾が余るかもしれないが、着られないほどではないはずだ。
万が一ロベルトがやらかした場合は――あいつのことは諦めよう。
そう決断して、まずはクリストファーの部屋へと足を向けた。





