12.ロベルトはれっきとした第二王子である。
「俺にエスコートさせてもらえるだろうか」
「え、えと、は、はい?」
リリアが困惑しながらも頷くと、ロベルトはリリアの手を取ったまま流れるように立ち上がり、彼女の手を自分の腕に捕まらせた。
ゆっくりと歩き始めると、つられたリリアも一歩を踏み出す。
リリアが頭の上に疑問符が浮かびまくった顔をしていることさえ除けば、非常に様になっていた。
「足元に気を付けて」
「うぇ?」
「俺では頼りないと思うが、どうか任せてほしい」
言葉とは裏腹に、ロベルトはスマートにリリアをエスコートしてみせた。
その光景に軽く脳がバグる。
ロベルトが? スマートに? リリアを? エスコート??
乙女ゲームの世界ならば普通どころか最もありふれた光景のはずのそれがどうにもしっくりこないのは、やはりこの世界のロベルトーーとリリアーーがゲームから大きく遠ざかっているからなのだろうか。
ロベルトは歩く速度をリリアに合わせ、リリアの様子を気遣いながらゆっくりとゆっくりと、私の前までやってくる。
上背があって手足が長いので、思わず見入ってしまうくらいに優雅に見えた。
「隊長。こちらリリア嬢です」
「ああ。どうも、お嬢さん」
リリアを紹介する前の礼も、紹介の仕方も。挨拶を含めてすべて完璧な所作だった。
適当に乗っかった私の挨拶に思考停止している隣の大聖女よりも、よほど落ち着いている。
そう。いつものロベルトが嘘のような、落ち着いた、余裕の滲むような振る舞いだった。
――はて。こういう……少々もったいぶったくらいに気障な動作は、どこかで見覚えがあるような。
ダンスの前のポジションを取るところまで一通り流してから、ロベルトが私を振り向いた。
「ど、どうでしたか!?」
一瞬でいつものロベルトの調子に戻ったのに面食らいながらも、思ったところを正直に告げる。
「すごいな。様になっていたぞ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ」
予想よりだいぶ、という続きは一応飲み込んだ。
ロベルトのことだからもっとこう、右手と右足が一緒に出てしまったりリリアをセカンドバッグよろしく小脇に抱えてみたりするかと思いきや、拍子抜けするほどに良い出来だった。
これならこのままダンスパーティーに送り出しても問題ないと思えるほど、攻略対象然とした立ち居振る舞いだ。
「よかった……」
ほっとした様子で胸を撫でおろすロベルト。
先ほどまで浮かべていた穏やかな微笑はどこへやら、妙に切羽詰まった顔をしていたものだから、つい笑ってしまう。
何だ、まるで別人じゃないか。
笑いをかみ殺しながらも、思ったところを正直に告げる。
「お前はこういうの、苦手だと思ってたが」
「城でたくさん、練習しましたから」
私の言葉に、ロベルトが苦笑しながら頬を掻く。
そういえばすっかり訓練場にも騎士団にも溶け込んでいて忘れていたが、ロベルトはれっきとした第二王子である。
そりゃあきっちりとした教育を受けているはずで……王太子殿下がそうであるように、出来て当たり前といえば当たり前だ。
普段のロベルトの姿からまったくと言っていいほど想像が出来なかっただけで。
というか第二王子という事実を思い出してみれば、お前こんなところで遊んでないでもっと城でやることがあるんじゃないかという気がしないでもない。
まぁ陛下や殿下も、変に手出し口出しされるよりはいいと思ってのことかもしれないが。
「百年分、取り戻さなければ、と……必死で励んだ成果が出たなら、嬉しいです」
そう嬉しそうにはにかむロベルトの笑顔がこれまた太陽属性というか何というか、邪気がなくて目がちかちかした。
リリアも私と同意見だったようで、目をしぱしぱさせている。
そこでまた一つ、思い出す。
そうだった。こいつも攻略対象なんだった。
ハイスペックが標準装備の世界の住人である。本来であればエスコートくらい軽く熟せるのがデフォルトだろう。
「それに、俺には最高のお手本がいますので」
「ああ、殿下か」
「隊長です!!」
耳がキーンとするくらいの声量で叫ばれた。
そう言われてみれば身体捌きというか、余裕を持たせた仕草は私が長年にわたって意識して身につけてきたそれと、似ていた気がしなくも、ない。
「エリ様の教育の賜物でしたか……」
「王家の教育だろ、これは」
リリアの言葉に、私は軽く肩を竦めて応じた。





