11.顔にでかでかと「分からない」と書いてある
リリアと連れ立って、訓練場にやってきた。
目当ての人物を探して首を巡らせる――までもなく、すごい勢いでこちらに近づいてくる人影があった。いや、土煙と言った方がいいか。
「隊長!」
「ロベルト」
「どうされたんですか!? 今日はオフでは」
「ああ、ちょっとお前に用事があってな」
相も変わらず例のキラキラを容赦なく顔面に突き刺されて、目を細める。
ロベルトも私と同様第四師団の所属になったし、以前と変わらず訓練場の教官も務めている。
しょっちゅう顔を合わせているというのに、学生時代どころか子どもの頃から変わらないこの熱量は一体どこから来るのか。未だにその謎は解けていない。
不思議そうに目を瞬いたロベルトに、背後のリリアを親指で指し示した。
「今度、学園のダンスパーティーあるだろ。そこでリリアをちやほやしてほしいんだ」
「ちや……ほや……?」
ロベルトが首を傾げた。
顔にでかでかと「分からない」と書いてあるが、首を捻っていたのはわずかな間だった。すぐに表情を明るくして、爛々とした目で拳を握りしめた。
「よく分かりませんが分かりました!!」
あまりにもダメそうだった。
その回答でいいわけあるか。「分かりました」に最もつけてはいけない枕詞である。そう言われて誰が「それなら安心だ」と任せられると思うんだ。
「エリ様。エリ様の教育の賜物ですよ」
「訓練場の教育が悪いんだろ」
耳打ちしてきたリリアを軽く肘で小突く。リリアがウッと呻いて小さく吹き飛んだ。大げさだな。
なお、この訓練場が少々青少年の教育に悪いのは紛れもない事実なので、これは特に風評被害ではない。
とはいえ、ロベルトがお話にならないのはある意味想定内だ。
それこそアイザックに演技を期待していないように、ロベルトにも王太子殿下のようなテクニックは最初から期待していない。
そもそもゲームとは大きく面舵一杯に性格が変わっているロベルトだ。
ゲームの逆ハーレムエンドでは「おい、俺以外見てるんじゃねぇよ……!」みたいな台詞をよくあるツンデレ口調で言っていたと記憶しているが――ふんふんと鼻息も荒く「お任せください!」とか宣っているこのロベルトに、そのような立ち回りなど望むべくもない。
無理に演技でもさせようものなら大根どころか案山子の方がマシな有様になること請け合いだ。
かといって、今のロベルトがどう立ち回るのが正解なのかもなかなか悩ましかった。
犬系男子らしく無邪気に振舞わせるのがいいのか、いや、私や騎士団関係者以外には騎士らしく振舞っている様子だし、リリアに対してならそちらの方が自然なのか。
――まぁ、まずは一度自然に動かしてみて、そこから調整していくことにしよう。
「よし、ちょっとやってみろ」
「はいっ!」
「えっ」
リリアが私の顔を見上げた。そしてロベルトの顔を見上げて、また私の顔を見る。
何やら驚愕と怯えが滲んだ顔をしていた。
「え、エリ様! わたしが真っ二つになったら責任取ってくれるんですか!?」
「その場合責任取るべきなのはロベルトだろ」
「誰一人幸せにならない件!!」
「いくら馬鹿力でもエスコート相手を真っ二つにはしないって」
「この前ふとした拍子にアイザック様を真っ二つにしてました!」
「眼鏡掛けの方は無傷だった」
リリアの抗議を却下して、彼女の背を押してロベルトの前まで追いやる。
いつまでも往生際悪くこちらを凝視しているリリアを無視して、視線でロベルトに決行を促した。
ロベルトが静かに頷く。
さて一体どう出るかと思って様子を窺っていると――ロベルトはおもむろに、その場に跪いた。
そっと恭しく、リリアの手を取る。
「リリア嬢」
「え?」
「俺に、エスコートさせてもらえるだろうか」





