2.そんなに叩くと割れるぞ、橋。
リアルタイムで更新を追うのが初めての方向けにお知らせしますが、岡崎は「寝るまでは今日」システムを導入しています。
つまりまだ土曜日です。よろしくお願いします。
「そんなことをして僕に何の利がある」
「聖女の沽券に関わるんだよ。国が誇る聖女様が、巫女候補に馬鹿にされたままじゃいろいろと問題だろ?」
「僕はそもそも聖女の力とやらには懐疑的だ」
「あれだけ散々目の当たりにしてよくそれ言えるよな」
アイザックの態度に苦笑する。
記憶を失ったり、聖剣で記憶を戻したり。
そうでなくともリリアが怪我を治している姿は何度も見ているはずだ。
それでまだ「懐疑的」とは、石橋を叩いて渡るにも程があるのではないか。そんなに叩くと割れるぞ、橋。
「王立研究所でも仕組みが分かっていないんだぞ。あまりに非科学的だ」
「出た、科学的。君ほんと好きだよな、それ」
「永続的に使えるものとも限らない。そんな不確実なものをあてに出来るか」
アイザックが呆れた様子でため息をついた。
まぁ、確かにリリア個人の能力だし、コンディションによるところは否めない。一日に使える聖女の祈りの回数にも限度がある。
国を営む人間としてはその不確実性を懸念するのはある意味正常な反応なのだろう。
「分かったら他を当たれ」
「……ふむ」
アイザックが私から視線を逸らして書類に目を落とす。
国の利益に、とか、そういう方向性では攻略が難しそうだ。
ならば……次期宰相ではなく、あくまでアイザック個人にアプローチすべきだろう。
となると……次にすべきことはひとつだ。
「じゃあ、『私が喜ぶから』って理由なら手伝ってくれるのか?」
「は、?」
「学生時代に戻ったみたいで楽しいじゃないか。こういうの」
アイザックが口を開け放した。
理論でダメならどうするか。そう、情に訴えるのだ。
意外にも情に厚く、学園でも寂しがりや扱いされていたアイザックである。
これが一番効くはずだ。
「君やロベルトとワイワイガヤガヤするの、私は結構好きだったんだ。君は?」
「そ、れは」
「剣術大会にエキシビションマッチをねじ込んでくれたの、覚えてる?」
「覚えているが」
彼の瞳を覗き込みながら詰め寄ると、眼鏡の奥の深紅の瞳がうろうろと彷徨い始める。
逃がすものかとさらに一歩、距離を詰めた。
「ああいう悪ふざけというか、悪ノリというか。楽しかったなぁ」
「う、」
「たまには童心に帰って、一緒にふざけてくれたっていいだろ?」
小首を傾げて見せれば、アイザックが小さく息を呑んだ。
そしてその後で、ぐいと私の肩を押し返しながらため息をつく。
そのため息の後に出てくる言葉は「仕方ない」とか「今回だけだからな」なのを、長年の付き合いで私はよく知っていた。
何ならつい先日も聞いたばかりである。
予想通りのセリフを呟いたあとでーー今回は「次はないぞ」だったーー彼が眉間のシワをより一層深くする。
「……だが、僕はその、ダグラスをちやほやしろと言われても、何をどうすればいいか」
「ふふ。私は何も行き当たりばったりでここに来たわけじゃない。ちゃんと考えてきた」
戸惑う様子のアイザックに、私は自信たっぷりに胸を張る。
ロイラバの逆ハーレムエンドも何度か見ているし、それ以下の乙女ゲームの逆ハーレムエンドにもそれなりに知見がある。
おそらくこの国で私とリリアがワンツーフィニッシュをするくらいの知識はあるつもりだ。
彼らは元のロイラバ攻略対象からは幾分道を外れてしまっている。約1名元気一杯に道を踏み外してしまった人間もいる。
するとどうなるかというと、無印の逆ハーレムエンドを踏襲しようとしても、どうしても違和感が出てしまうのである。
ではその違和感にどう対処するか。
そこに他の乙女ゲームの知見が生きてくる。元の流れを生かしつつ、今の彼ららしさも取り入れたものにアジャストするのだ。
「君に演技力はハナから期待してない」
「帰らせてもらう」
「待てって」
クローズドサークルもののミステリで二番目に殺されそうな台詞を言って踵を返そうとするアイザックを呼び止めた。
学園の演劇でも素の状態だったし、夜会でも愛想一つ振りまけないのだから当然の評価だろう。粛々と受け止めてもらいたい。





