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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
Bonus Stage2 番外編

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バートン公爵家の末っ子(クリストファー視点)

活動報告にあった小話を引っ越しました。

時系列としては、第2部第6章魔女編の「40.先生みたいに、ですか?」あたりです。

エリザベスに構ってもらえないクリストファー視点のお話です。



「クリス」


 兄上に呼ばれて、はっと我に帰る。

 無意識にスープを食べていたけれど、もうとっくにお皿は空になっていたみたいだ。


「何か、悩みごと?」


 兄上が心配そうにぼくの顔を覗き込む。

 そのやさしい声音で問いかけられると、何でも相談したくなってしまう。


「姉上、最近忙しそうだなって」


 ぽつりと溢れた声が、自分で思うよりも落ち込んでいて、その響きでますます寂しくなってしまう。


 今回兄上と領地に来たのだって、本当だったら姉上も一緒にという話があったのに……例の「魔女」のことで王都に残ると断られてしまった。

 学園でも学年が違うとなかなか一緒にはいられないし、訓練場にももう来ないように言われている。

 ぼくの方も生徒会の仕事の手伝いや兄上の補佐でそれなりにすることがあって、最近は家でもゆっくり一緒に話したり出来ていなかった。


 いつも近くにいるはずなのに、どうしてこんなに寂しいんだろう。


 ぼくがスプーンを置くのを見つめていた兄上が、悲しそうに眉を下げた。


「寂しい思いをさせてごめんね、クリストファー」

「い、いえ、兄上が謝ることじゃ、」

「リジーがお手伝いしてる第四師団だけじゃなく……騎士団だけじゃなく、僕やエドも魔女の対策にはいろいろ動いてるんだけど……なかなか成果が出なくて」


 困った様子の兄上の言葉に、ぼくもつられて俯いた。


 魔女には王都の人みんなが困っていて、それを最前線で何とかしようと率先して動いている姉上は、立派だと思う。

 かっこいいし、本当に「騎士様」って感じがして……姉上は変わらないな、と思う。

 変わらないどころか、年を重ねるごとに強く凛々しくなっていって。


 姉上のそういうところに憧れたはずなのに、好きになったはずなのに……いつからだろう。

 それが、まるでぼくたちだけの騎士様じゃなくなるみたいで、寂しく感じるようになったのは。

 姉上がいつか、誰かのためにその身を犠牲にしてしまうんじゃないかと、不安に思うようになったのは。


 そして何より……分からないことがあったり、ぼくを頼ってくれたりする姉上の一面を知って……ぼくも、守られるだけじゃなくて、姉上のために何かしたいと思うようになっていた。


「ぼくにも、何かできること……ないでしょうか」

「クリス……」


 俯いたぼくのつむじを見ながら、兄上がぼくを呼んだ。


「クリスがそう思ってくれてるって知ったら、リジーはそれだけで嬉しいと思うよ」

「そうでしょうか」

「うん」


 兄上はにっこりとやわらかく微笑む。

 確かに姉上はぼくのことを、弟としては可愛がってくれていると思うし……ぼくよりも姉上のことをよく知っている兄上が言うなら、そうなのかもしれない。


 それでも、と思う。

 ぼくにもっと、出来ることがあったらいいのに。


 膝の上に置いた拳をぎゅっと握り締める。


「それに……きっとね。クリスにしか出来ないことがあるんだと思うんだ」

「ぼくにしか?」

「うん。西の国でもそうだったんでしょう? 王女様が寝室に来ちゃった時に、リジーは他の誰でもなく、君を頼ったんだから」

「それは……ぼくがたまたま近くにいたから」


 ぼくの言葉に、兄上がゆるゆると首を横に振る。


「近くにいるって、誰にでも出来ることじゃないよ」

「!」

「そこまでの積み重ねてきた時間とか努力とか、そういうものが『たまたま』に見えるかもしれないその一回を作っているんじゃないかって、僕は思うな」


 顔を上げて、兄上の顔を見つめる。

 兄上はほっぺたに埋もれて瞳が見えなくなりそうなくらいに目を細めて、へにゃりと笑った。


「っていうか、僕がそう思いたいだけなのかも。僕がしたことの積み重ねが、いつか回り回って君やリジーのためになればいいなって。そう思ってるんだ」

「兄上……」

「だから僕は僕にその時出来ることや、得意なことを一生懸命頑張ろうって、そう思えるんだよ」


 兄上の言葉で、心がふわりと軽くなるのを感じた。

 姉上は強くてかっこいいけれど……兄上の、人の心をあたたかくする言葉をかけられるところも、すごくかっこいいと思う。


 姉上は兄上の、こういうところが好きなのかな、とか。

 ぼくが得意なことや出来ることを頑張っていたら、いつか兄上みたいに、なれるのかな、とか。

 それを考えると前向きな気持ちになってくるから、やっぱり兄上は、すごい。


「だから、今はせっかくだし、領地でしか出来ないことをしよう」

「たとえば、どんなことですか?」

「えーと……あ、昔リジーが描いた絵とか、こっちの僕の部屋に飾ってあるけど、見る?」

「え」


 見たい。

 「領地でしかできないこと」がぼくの思っていたのとはだいぶ違っていたけれど、それが一瞬でどうでもよくなってしまうくらい、気になってしまった。


 昔というくらいだから、きっと「お兄様と結婚する」と言っていた頃の姉上が描いた絵なんだろう。

 姉上はどんな絵を描くのかな。というか、姉上が絵を描いている様子とか、あまり想像がつかなかった。

 ものすごく気になる。


 せ、せっかく領地に来たんだし、いいよね。

 小さい頃の姉上が好きなものとかが分かったら、何か役に立つかもしれないし!


 本当はただ興味があっただけだけど、そう自分に言い訳をしながら、ぼくは「見たいです!」と兄上に返事をした。



 ◇ ◇ ◇



 食事の後、兄上に連れられて兄上の部屋に入った。

 「これだよ」とにこにこ笑顔で紹介されたのは、何だかとっても、すごく、あの……


「…………兄上?」

「そう、僕の似顔絵なんだって!」


 コメントに困って兄上に助けを求めたら、嬉しそうに微笑まれてしまった。

 そういう意味で「兄上」って言ったんじゃなかったんだけど……えっと、これ、人間……だったんだ……?


「ぜ、前衛的……ですね?」

「うん。リジー、画家になれちゃうかも」


 なんとか褒め言葉(?)を絞り出したら、兄上が力強く頷いた。

 ふにゃふにゃと機嫌良く笑う兄上を見て、ぼくは決意する。

 兄上も姉上も、ほんとうに強くてかっこいいけど……バートン公爵家は、やっぱりぼくがしっかりしなくっちゃ。


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