エピローグ(2)
「不思議だったんです。この世界、見た目がいちばんっていうか。外見が良ければいい、みたいな世界観で」
「そりゃ、乙女ゲームだし」
「そんな中で、見た目はイケメンじゃないのに皆から愛されてる人、いるじゃないですか。わたし、それがずっと、不思議で」
はて、誰のことだろう。
頭の中で心当たりを探す私の顔を、リリアがいやに真面目な顔で見つめて、言う。
「エリ様の、お兄様ですよ。次期人望の公爵として、皆に好かれて、愛されてる。不思議に思ったこと、ありませんか?」
リリアの言葉に、目を見開いた。
どうして急に、お兄様の話になる?
お兄様が、愛されている。
それには私も同意する。家族はもちろん、王太子殿下の覚えもめでたい。きっかけはよく知らないが、今はアイザックやロベルト、マーティンとも仲良くしていると聞いている。
その他、お兄様のことを知っている人間と話す機会も多々あるが――誰一人、お兄様のことを悪く言う人間はいなかった。
それを、不思議に思ったことがあるか?
そんなもの。
「あるはずないだろ」
きっぱりと、リリアの目を見て、否定する。
不思議に思ったことなど、ない。
私がお兄様のことを好きなのは、私にやさしくしてくれるからだ。お兄様に恩義があるからだ。
いつもやさしくて穏やかで、それでいて、誰かのために必死になれる人だ。
そんな人間のことを、嫌いになるはずがない。
それこそ人の心がないのかと言われるだろう。
「お兄様は誰にでもやさしいから。やさしくされて嫌いになる方が少数派だろ」
「そういうことじゃないんですよ」
私の返事に、リリアがゆるゆると首を横に振った。
そして膝の上で突き合わせた自分の指を見つめながら、ゆっくりと言葉を選ぶように、話始めた。
「わたし、エリ様のお兄様とお話したこと、あるんです。エリ様が魔女に取りつかれて、倒れたとき」
「え」
「それ以外にも……エリ様のお屋敷で会ったこと、何回もありますよね」
倒れていた間のことは知らなかった。
リリアが以前不穏なことを言っていたのもあって、出来る限りお兄様とは接触させないようにしていたからだ。
だが、私とお兄様が同じ家に暮らしている以上、完全に接触させないというのは無理筋だった。
リリアが来ているときにお兄様がサロンに現れたり、帰り際にエントランスで挨拶をしたり。そういった短時間のコンタクトは発生していたし、私もその場に立ち会っている。
それが一体、どうしたのだろう。
今の話の流れで、その話題に触れることに、何か意味が、あるのだろうか。
「気づいたんです。――わたしの、魅了。効果がなかった、って」
リリアの声が、重苦しく、硬いものに感じた。
魅了が効かない。それは、つまり――心に決めた相手がいるか、さもなくば。
「フグには、フグの毒……効かないんです、よね」
何度も、そのたとえ話を聞いた気がする。
記憶を辿る。
リリアと会った時。確かに、お兄様の目は――ハートになって、いなかった。
西の国にいた頃、リチャードはあんなに一瞬で、目がハートになっていたのに。
モブ特効たる、聖女の魅了。私にも効くそれが、私以上の――乙女ゲームでは立ち絵すらなかったお兄様に、効かない理由。
「聖女の力がある人間には――魅了が、効かない」





