43.最後にもう一個、アドバイス
「そんで。こっからは、アンタのことを好きになった男からの忠告だ」
私に反論する隙を与えずに、彼が言葉を続ける。
「アンタはもっと周りを見ろ。そういう男もいるって思って、周りを見てみろ」
いるわけあるか、と言える雰囲気ではなかった。
私はそれなりに空気が読めるのである。
「オレだけじゃない。アンタはもうちょっと、人の気持ちってもんをちゃんと考えた方が良い」
リチャードの言葉に、思考する。
私は自分が、人の気持ちの機微に聡い人間だと思っていた。
リリアにはよく「人の心がない」と言われるが、それは私が他人よりも我が身可愛さに行動しているからだ。他人の気持ちが分からないわけではない。
訓練場でも「鬼! 悪魔! 人でなし!」と言われているが、あれはあえて鬼教官を演じているからだ。候補生たちの悲鳴はきちんと聞こえている。聞こえた上で無視している。
あくまで、私があえてそう行動しているからだと思っていた。
だがもしかすると――私は人の気持ちというものが、思ったより理解できていなかった、のか。
いや、単に興味がなかったのかもしれない。
軟派系を演じるために、周囲の女の子たちの気持ちは理解しようと努めたし、慮った。
リリアに攻略してもらうために、彼女の気持ちに寄り添おうとしたし、奪おうとした。
あと時々、やむにやまれず上司のご機嫌を窺ったりもした。
そういうとき以外の他人の気持ちというのは、私にとって――確かに、優先順位が低かった。
リチャードが言っているのは、多分そういうことだ。
他人の気持ちに興味を持てと、そう言いたいのだろう。
「そんな感じのくせして鈍いっつーか。自分のことに興味ないっつーか。正直わざとなんじゃねーのと思ってる。気づいたら面倒だからって、無意識のうちに気づかないフリしてるとか。アンタそういうの、すげぇやりそう」
「鈍いって、さすがにご挨拶だな」
「すげぇ、やりそう」
2回言われた。
悲しいほどに信用がない。
「オレが言うんだから間違いない。いいか、ちゃんとしろよ。じゃないと本当に刺されるぞ」
私は空気が読めるので、もう刺されたことがある、とは、とても言えなかった。
リチャードが一歩近づいてきて、私の鎖骨のあたりを、トンと指先で突いた。
「あと最後にもう一個、アドバイス」
「アドバイス?」
「王族は、やめとけ。それから、兄弟も」
彼の出自からして王族というのは頷けるが、兄弟とはどういう意味だ。
もしかして私はお兄様を手籠めにするような奴だと思われているのだろうか。だとすれば甚だ心外である。
お兄様はお兄様だ。そういった云々とは全く別次元の「愛」である。
「お兄様と結婚する!」と言っていた遥か昔のことなど、彼が知る由もないはずだが、何故そういう思考回路になるのだろう。
理解に苦しみ眉根を寄せている私を見上げて、彼がふんと鼻を鳴らした。
そして一歩私から離れると、踵を返して歩き出す。
サロンを出るところで、彼がこちらを振り向いた。
「じゃあな、エリザベス」
「リチャード」
そのまま立ち去ろうとする彼を、呼び止めた。
ずいぶん不本意な、悪口めいたことも言われた気がするが――彼は私のことを心配して、忠告したのだろうことは理解できた。
それなら最後にきちんと、言っておかなくてはならない。
「ありがとう」
「うるせぇ、バーカ」
今度は本当に憎まれ口を叩いて、リチャードは我が家を後にした。





