39.ちょっとそれは……さすがにどうかと
北の国の巫女神子ツインズの尽力もあり、隠し子騒動並びに怨霊騒ぎは極めて穏便に終息した。
「あなたの子よ」事件の発端となった例の女性もツインズの祈祷を受けて無事綺麗な身となり、双子からの操られていたというお墨付きを得て、万一のために見張りをつけた上で故郷へと送り届けられることになった。
何でも北の国との国境に近い地域の出身だそうで――友人である辺境伯に会いに来たレンブラント前侯爵がふらりと街に出たところ、運命的な出会いを果たして、恋の炎が燃え上がったのだとか。
これはあくまで私の憶測だが――あの怨霊のほとんどが、「レンブラント前侯爵被害者の会」だったのではないか。
辺境伯と仲が良く、マーティンの父に家督を譲った後は割と頻繁に行き来をしていたらしい。
寒い土地には悪い気が溜まりやすい、とか何とか。そこに恨み製造機とも言うべき尻軽男を派遣したらどうなるものか、想像は容易い。
詳しくは聞いていないが、すでに隠居中の身だったレンブラント前侯爵は領地に軟禁され、非常に厳しく見張られることになったそうだ。
マーティンたちも悲しむどころかほっとした様子だった。一族全員が相当手を焼いていたらしい。
その扱いを見ていると明日は我が身という気がしないでもないが、幸い撒く種がないのでああはなるまい。
マーティンの姉、カミラさんとサーシャ王子のお見合いの場をセッティングできたことで、姫巫女様はニコニコご機嫌だった。
姫巫女様本人の嫁ぎ先が決まるまでお兄様は隠しておかないといけないが……とりあえずの解決は見た。
ディーも心配しているだろうし、そろそろリチャードとマリーを国に返してやらなくては。
「そうだ。君、姫巫女様はどう? 嫁を連れて帰ればディーも安心するんじゃないか」
「アンタね……」
もう婚約者のフリはお役御免だというのに、律儀に足繫く我が家に通っているリチャード。
その後頭部に思い付きを投げかければ、じろりと冷たい視線を向けられた。
「自分とこに嫁ぎに来た子に何つー対応するんだよ」
「姫巫女様は別に私じゃなくても良いみたいだから」
「マジで人の心ねぇな……」
リチャードがため息をつく。
そしてすっかり金色に戻った瞳で、私を見た。
「オレはいい。間に合ってる」
間に合ってる?
はてどういう意味か、と首を傾げかけて――気が付いた。
あれ。
そういえば先日はマーティンにばかり気を取られていたが――リチャードにも、リリアの魅了が効いていなかった。
確か西の国にいた時には、目がハートになっていたはずだが。
目がハートにならない。
それは、つまり。
……他に、心に決めた相手がいるということだ。
それに気づいて、私が抱いた感想は、1つだ。
「君、好きな相手がいるのに婚約者のフリ引き受けたのか」
「は?」
「ちょっとそれは……さすがにどうかと思うな」
「アンタにだけは言われたくねぇ!」
リチャードに人差し指を突きつけられるが、こちらはドン引きである。
その「アンタにだけは言われたくない」相手である私に苦言を呈されていることを重く受け止めていただきたい。
相手にその気がなければ「婚約者持ち」として完全に対象外になるだけだし、相手に多少その気があったとしても「他に婚約者が出来たのか」と思われて終わりである。
そこを「諦めきれないわ!」とか何とか言って奪いに来るほど情熱的なお嬢さんが相手であれば、こんな茶番をせずともすでに婚約なり結婚なりに至っているだろう。
どのパターンを想像しても悪手だ。
「相手の気を引きたかったにしても、もうちょっとやり方があるだろ」
「何でそうなる」
リチャードが額を押さえて、大きなため息をついた。
ため息の後で、息を吸って。そしてもう一度、大きく吐く。
顔を上げて、彼がまっすぐにこちらを見た。
「アンタだから」
「ん?」
「オレが好きなの。アンタだから」





