37.ファンタジーみのあるあれやそれや
「…………祖父です」
鏡越しにレイの姿を見て、マーティンが頭を抱えながらそう呟いた。
最初は呼びつけられたことに文句ありげにしていたが、事情を説明するとあっという間に顔色が変わった。
予想通り、祖父の素行には心当たりがあったらしい。
レイはマーティンの叔父である。女の子の格好をしているのでますますややこしくなっているが――要するに、マーティンの父親の弟だ。
某奇妙な冒険系少年漫画の第3部主人公と第4部主人公の関係性であり、マーティンの祖父はこの場合、第2部主人公にあたる。
マーティンの父親と言うことは相応の年齢だ。
少なくとも四十代。対するレイはまだ十二歳。
驚愕の三十歳差の兄弟をこしらえるほどお元気なおじいさんである。
他に関係を持った女性がいたとしても、不思議はない。
生涯現役、五十、八十喜んで。血族至上主義、跡継ぎを作ってナンボの貴族としては、ある意味で適性がある。
ただしこうしてトラブルの種を撒いて歩くという意味では、貴族に向いていない。
「こうしゃく」は「こうしゃく」でも「侯爵」だったというわけだ。それも正確には「前侯爵」。
これで私への嫌疑は完全に晴れただろう。やれやれ、よかったよかった。
「ね! おじいさまだよね!」
レイが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
鏡を通してみると壮年のイケオジがその動作をしているようにしか見えないため、何とも珍妙な光景だった。
マーティンがレイの肩を叩くと、レイが認識阻害を解除する。
どこぞの大聖女よりもうまく力を使いこなしているらしい。うちのお騒が聖女、魅了はまだ出力調整がうまくいかないとか言っていたはずだ。
「……レンブラント侯爵家に連なる者の不始末」
「それ、前も聞いたよ」
「申し訳ございません。庇いだては致しませんので、祖父には何なりと処罰をどうぞ」
マーティンがきっちり腰を折って謝罪した後で、あっさりと祖父を突き出してきた。
レイのことは庇おうとしていたくせに、ずいぶんと淡白である。やはりレイのことは「いつもやさしいマーティお兄ちゃん」として可愛がっているようだ。
公爵家のパーティーで小規模とはいえ混乱を招き、一歩間違えればお家騒動になっていた可能性もある事態を引き起こした。本来その犯人は処罰されるべきだろう。
だが今回の実行犯は怨霊とかいう非科学的な存在である。光と消えてしまったあの乳児がそれを証明している。
この場合、原因の一端を担っているマーティ祖父はどういう扱いになるんだろう。
聖女がいるくらいだから、そういったファンタジーみのあるあれやそれやにも対応した法律や規範があるのだろうか。
その辺を加味して、答える。
「別に私が決めることじゃないし。――でも、そうだな」
プレイボーイおじいさんの始末は家族に任せる、と言おうとしたところで、はたと思い至った。
そうだ。怨霊の件では北の国も迷惑を被ったわけだし、レンブラント家には北の国の2人に対して償いをしてもらえばいいのでは。
「姫巫女様。こちらが例の侯爵家次男です」
「え?」
「あら、初めまして! 北の国の第4王女、ターニャよ!」
「は?」
さっとマーティンを姫巫女様に向かって紹介すると、姫巫女様が驚くべきスピードで歩み寄ってきて、速度に見合わぬ優雅さで淑女の礼を披露する。
これが王族というのをまざまざと見せつけられた。圧巻だ。
「君もそろそろいい歳だし、身を固めてもいいんじゃないかな」
にっこり笑ってそう言えば、いつもの無愛想な顔よりさらに一段階目つきを鋭くして睨まれた。
何故だ。他国の王族、しかも超美人。胸部装甲も彼好みのはずだ。……さてはこの唐変木、照れているのか?
にこにこしているターニャ王女を前に、マーティがしばらく沈黙する。そしてすーっと、視線をターニャ王女の背後に移した。
「そちらは」
「ああ、弟のサーシャよ。双子なの」
「……弟君は、お相手をお探しでは」
「え?」
マーティンがぼそぼそと言った言葉に、姫巫女様が目を丸くする。
そしてはっと口元を手で覆うと、言った。
「やだ、そっち?」
「は?」
「ごめんなさい、気が利かなくて。ほら、サーシャもご挨拶!」
「ちが、」
「おや、僕をご指名ですか?」
「違います」
「なになに、レイも仲間に入れて!」
「……ん、何だ、何か頭が、重い……」
マーティンが北の国の双子とレイに囲まれてやいのやいのやっているところで、リチャードがむくりと体を起こした。
彼のちょうど目の前で繰り広げられているのは、知らん男が知らん幼女と二対面目の美男美女に取り合われているような――端的に言えば非常にラノベ的な光景なわけで。
リチャードは混乱した様子で、叫んだ。
「いや、どういう状況!?」





