38.うちの王族への「報・連・相」(リリア視点)
アイザック様とクリストファー様との作戦会議の結果、西の国に聖剣を借りに行くにはやはり王族の協力が不可欠であるということになりました。
西の国の王族……おそらくはダイアナ様になるのでしょうが……と可及的速やかに謁見して、聖剣を貸してくださいとお願いするのが最も早い、という結論に至ったからです。
聖剣はものすっごく重いですけど、エリ様はギリギリ持ち運んでいました。
そのエリ様をして脳筋と言われているロベルト殿下なら、何とかなるのではないでしょうか。
ですが、いくらダイアナ様に頼んだとしても、簡単に聖剣を貸してもらえるとは限りません。
だって聖剣ですよ?
あのダンジョン……というか教会全体でも御神体みたいな扱いだった感じですし。
「貸ーしーて!」「いーいーよ!」では済まない気がします。ひしひしとします。
そこのあたり何か知恵はないかと唸っていたところ、クリスくんが「西の国には貸しがあるから大丈夫」と言い出しました。
わたしとエリ様は王女様を腐女子にしてしまったので、西の国には怒られこそすれ感謝されることではないと思っていたのですが……わたしとエリ様があのダンジョンで繰り広げたドタバタ劇は、「異国の地から訪れた聖女とその騎士が命を賭けて国に蔓延っていた人攫いを成敗した」ということになっているそうなのです。
その聖女というのがわたしで、騎士というのがエリ様のことだそうです。
怒られるどころか感謝されて祭り上げられているらしいです。
完全に初耳でした。
話が違いすぎます。現実とも、わたしたちの認識とも。
あのときわたしたちは王太子殿下やクリスくんにこってりくどくど油マシマシで怒られたのに。
できるだけ穏便に済まそうとしたところに色々な尾鰭がついてそんな感じになってしまったそうなのですが……いいのでしょうか。
わたしたちのせいでダイアナ様は道を踏み外してしまったのに。沼に突き落としてしまったのに。
噂の中ではわたしとエリ様は懇ろな関係ということになっているらしいので、それだけ公式に逆輸入してもらってもいいでしょうか。
この噂のせいで、マリー様の立場は非常に危ういものになっていました。
自国の問題を他国の聖女に解決してもらったばかりか、そんな英雄とも言える聖女様の騎士を第二王女が寝取ろうとした、なんて噂になったら大問題ですからね。
いくら絶対王政といっても革命とか謀反とかそういうのもありますし、姉であるダイアナ様の即位前に余計なゴシップは避けたいはず。
つまり、わたしたちは今、西の国の明るみにしたくない秘密を……弱味を握っている。
そういう状況にあるようでした。
「ですが、バートン公爵家は西の国に正式な申し立ては行っていません。誰に吹聴することもしません。今まで通り、対等な関係で、対等な関税で交易を続けています。……これが貸しでなければ何になるんでしょうか」
にこりと微笑むクリスくんの表情の奥に、何か背筋の凍るダークなものを見た気がして、思わず身震いしました。
こっちだってエリ様をお兄様の身代わりに連れて行くという嘘をついていたのに、それはあっさりなかったことにするみたいです。何かずるい気がします。大人って汚い。
クリスくんは年下ですけども。
ゲームではそりゃあ暗い過去があるわけですし、影はありましたけど……こんなにしたたかではなかったように思います。
「きっと協力、してくれると思いますけど……念のため、ぼくが行って交渉します。絶対に頷いてもらいますから」
きっぱりと言い切ったクリスくんの言葉に、アイザック様もロベルト殿下も神妙な面持ちで頷きました。
わたしも慌てて頷きます。
やっぱり、これもエリ様の影響なのでしょうか。
「姉上はぼくたちの家族です。家族を奪うということが、バートン公爵家に仇なすということが、どういうことか。……しっかり理解していただきましょう」
クリスくんがぽつりと、誰に言うでもなく、自分自身に宣言をするように、呟きました。
かくして、西の国行きのメンバーが確定しました。
交渉役としてクリスくん、運搬役として、ロベルト殿下。
あと残すは肝心の……うちの王族への「報・連・相」です。





