4.ドナドナって言うな。
「……って答えたら採用された挙句、ふざけた誰かが『チキチキ☆』とか付け出して、最終的に」
「ち、『チキチキ☆エリザベス・バートン優先交渉権争奪! 天下一武道会』……」
リリアの言葉に頷く。
誠に遺憾ながらそういうことだった。
「な、なんですその緊張感皆無のタイトルは!」
「大人が悪ふざけするとこうなるらしい」
ため息をついた。
おそらく第四師団の師団長やら先輩やらが適当に修飾していった結果なのだろうが、そうはならんやろ、という感じだ。なっているのだが。
チキチキとか久しぶりに聞いた。まさかこちらの世界にもそういう概念があるとは思わなかった。
「どうするんですかエリ様! もし西の国が勝ったら! エリ様ドナドナされちゃうんですか!?」
「ドナドナって言うな」
ドナドナって言うな。
某腐女子王女の餌食という意味合いしか感じない。
いや、西の国ならまだマシな方で、一番避けたいのは第十三師団が勝つ展開だ。
北の国との国境近くに拠点を構える第十三師団は、国防最前線だ。この平和な国の中では最も危険な場所である。
しかも主な勤務地は辺境伯の領地になる。無論、公爵家からは通えない。
あとあそこの師団長は苦手なタイプだ。言葉が通じない。
だが国防最前線を任せられる師団だけあって、所属の騎士は精鋭揃い。普通に戦えば他の師団では苦戦すること必至だ。
まともに張り合えるのは近衛師団くらいだろう。
今回の大会には近衛師団も参加するそうだが……近衛は勤務地はいいのだが、堅苦しい雰囲気が合わない。
仕事も危険だし、王族の警護で長期出張もある。あまり選びたくない就職先だ。
私としては第四か訓練場の面々に頑張ってもらいたいところである。
しかし、その二つが近衛や十三に勝つビジョンが、いまいち見えなかった。
いや、訓練場はロベルトが出れば、多少は目があるだろうか。
あと皆して私の性別を忘れていないだろうか。本当に国王陛下の許可を取る気なのか。
もはや私云々はどうでもよく、皆で集まってドンチャン騒ぎしたいだけなのではないかという気がしてきた。
当日の観覧席用にと熱心に酒や出店の手配をしている様子を見ると、あながちそれも間違いではないのではと思う。
私がある日突然結婚するとか言い出したらこいつらどうするのだろうかとふと気になった。
結婚したらさすがに騎士業を続けろとは言えまいし、大慌てするのでは。
そう考えると途端に結婚してみたくなるから不思議である。
押すなと言われると押したくなるアレである。
若人の将来をダシにドンチャン騒ぎをしようとしたのだから、そのくらいの意趣返しをされても文句を言えないのでは。
まぁ、もとから当てがないというのに、そんなサプライズのためだけに結婚してくれる酔狂な相手などいないだろうが。
「私は家から通えて危険が少ない正社員なら何でもいいんだけど」
「……なるほど」
私の言葉に、リリアが頷いた。
そしてしばらく考えるような仕草をしてから、口を開く。
「まだ、他の師団の参加受け付けてます?」
「さぁ? 私は知らないけど」
私は適当に肩を竦めるが、リリアはまだ何か考えているようだった。
「……リリア?」
「は、はい?」
「……何か企んでる?」
「べ、べっつにー!?」
リリアがてへっと舌を出して明後日の方向を見る。
ビジュアルはドジっ子主人公じみていてたいへん愛らしかったが、そんなものでは誤魔化されない。
今でも十分収拾がついていないのに、さらに風呂敷が広がっていく気配を感じて、私は遠い目になる。
もうどうにでもなぁれ、だ。





