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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第1部 第1章 幼少期編

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41.ようやく気づきましたか

 おかみさんに勧められ、私と殿下は店先のベンチで休憩することにした。

 お嬢さんは近くの植木に繋いで、待ってもらっている。

 お茶を飲んでぼんやり雲を眺めていると、通りかかった馬車から御者のおじさんがこちらに手を振っていた。


「騎士様! この前はありがとな!」

「この前? 何だったかな」

「脱輪したの、助けてくれただろ!」

「ああ、そういえば。よく覚えているね」

「一人で荷馬車持ち上げるのはあんたぐらいだからな」


 おじさんの馬車が通り過ぎた後も、顔なじみたちが通るたび、「どうした、そんなところで」だの、「調子はどうだい」だの、「儲かってるか?」だの、私に声をかけていった。

 いつも馬に乗ってうろうろしている私が、珍しくベンチでお茶などしばいているから気になるのだろう。最後の奴は私を何だと思っているんだ?


 街行く人と私とのやり取りを黙って見ていた殿下は、紅茶を一口啜り、ぽつりと呟く。


「そうか。きみは私に、これを伝えたかったのだな」


 合点がいったとでもいうように、殿下は頷く。

 殿下の言う「これ」が何か分からないが、私も「ようやく気づきましたか」というような顔を作って頷き返しておいた。


「きみは街の者に愛されている。だから街の者はきみに優しいし、親切にする。身体を気遣ったりもする」

「ええ、そうですね」

「そしてきみと一緒にいる私にも、同じようにしてくれる」


 そう言って、彼は齧りかけのスコーンと、カップに視線を落とす。

 ちなみに私は全部食べてしまったので、いささか手持ち無沙汰になりつつ、彼の言葉を待つ。


「きっと、城の者もそうなのだ。父を……国王陛下を慕っていて、だからこそ私にも、親切にしてくれている」


 国王陛下を慕っている者が多い、という考えには、私も異論はない。

 お父様もお兄様も、今の国王陛下のおかげでこの国は平和なのだと言っていた。

 政治のことは分からないが、話が簡潔で感じが良かったし、治世が平和なのはよいことである。


「もちろん打算ゆえのものもあるだろうね。だからすべてを正直に受け止めるわけにはいかない。だが、それを頭から疑って……疑心暗鬼になって、すべての優しさを受け入れないことも、また同じくらい愚かな行為だ」


 殿下は、自嘲気味に笑う。先日までの「構ってちゃん」オーラはすっかり抜け落ちていた。


「どうやら私は少し、過敏になりすぎていたようだね」


 彼の言葉に、私は大きく頷いた。

 私の思っていた道筋よりもだいぶポジティブなところを通ったが、私が彼を連れ出した目的の2つ目も、無事に果たされたようだ。


 ずっと城にいて、周りは自分のことを気にしている者ばかり。

 顔色を窺われたり、すり寄られたりが繰り返される日々。

 そんな中に身を置き続けていたら、自意識過剰になることもあるかもしれない。被害妄想だってするかもしれない。


 だからこそ、彼を知らない者ばかりがいるところに来てみれば、気づくと思ったのだ。

 誰も彼のことなど気にしていないのだと。

 たまたま彼の周りに、彼のことを気にする人間が何人か集まっているだけで、世の中の大多数は彼に興味すらないのだと。


 それに気づけば、行き過ぎた被害妄想はなくなるだろうと思ったのだ。

 逆に、これまで自分が常に注目されて、話題にされて当然だと考えていたことが、恥ずかしくなったりすればよいと思ったのだ。


 現にこうして、たいして変装していなくても、街の人は誰も殿下の正体に気づかなかった。

 それでも、パン屋の店主は彼にスコーンをくれたし、果物屋のおかみさんは彼を心配してくれた。

 この経験は、きっと彼にとってプラスになっただろう。


 私にとっては予想外の道筋を辿ったが、着地点は悪くない。

 今後、妙な被害妄想をした殿下に呼びつけられて、物憂げなため息を聞かされることはなくなるはずだ。


「これからはもっと、人を信じられるように……強くなれたら良いのだけど」

「いやぁ。坊ちゃんは十分強かでしょう」


 私の乾いた笑いに、殿下はじろりとこちらを睨みつける。ほら、十分強かじゃないか。


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