3.私も攻略対象になればよいのだ
そもそも、攻略対象の男性陣だって最初のうちは庶民の主人公に冷たく接していたはずだ。
好感度が上がってルートに入れば甘い言動も増えるが、シナリオの山あり谷あり部分で主人公を突き放したり、ひどい扱いをする場面だってある。プレイ時には主人公ちゃんに対して「そんな男やめとけ!」と思ったことも一度や二度ではない。
チョイ役のライバルキャラである私なんかよりよっぽど断罪されるべきだと思うのだが、イケメン攻略対象という免罪符ですべてが許されている。
どれだけひどいことをしても、彼らは主人公とハッピーエンドを迎えることができるのだ。
理不尽がすぎる。
いざ自分が不利益をこうむる側になると、この乙女ゲームという世界のあり方と、明らかに優遇される攻略対象たちに腹が立ってきた。
私だって見目は良いほうだし、家柄だってトップクラスだ。性別が違うだけでこうも扱いが違うなんて不公平である。私とだってノーブルでファビュラスな恋愛は出来るはず。
そこではたと気が付いた。
そうだ。
私も攻略対象になればよいのだ。
主人公に攻略されたキャラは大抵幸せになると相場が決まっている。Royal LOVERSはハッピーエンドばかりの「やさしい世界」なので、そこは安心だ。
見目は良い方だし、身分も高い。何より私にはゲームの知識がある。他の攻略キャラのイベントを先回りして潰すことも、横取りしてしまうこともできるだろう。
要は発想の転換だ。
他人を変えることはできないが、自分を変えることはできる。前世でなんかいい感じの人が言っていたいい感じの言葉だ。
我が婚約者殿が主人公に惚れるのを阻止するのではない。主人公を私に惚れさせて、ロベルトルートに進ませなければよいのである。そうすれば、ロベルトがいくらチョロかろうが問題ない。
そして主人公が私のルートに進むことで、私のハッピーエンドは確約される。
どうやって公爵家の名に傷をつけないように、かつ王家を怒らせないように婚約破棄をすればよいのか。その難題に私が立ち向かう必要が無くなるのだ。
何故なら、私に惚れた主人公が、愛のパワー的なものでハッピーエンドに導いてくれるはずなので。
他の乙女ゲームでは、お友達ポジションのかっこいいお姉さまキャラが人気を集めて、アニメでとても良い扱いで登場したり、ファンディスクに友情ルートが追加されたりしたこともあった。ハンディキャップはあるが、決して不可能な話ではないはずだ。
私はぎゅっと拳を握り締める。
主人公と出会うのは、彼女が聖女の力に目覚めて学園に転入してくる17歳の春。それまでに、ロベルト始め他の攻略対象たちに引けを取らない、ノーブルでファビュラスなイケメン(女)に成長しておく必要がある。やらなければならないことは山積みだ。
よく磨かれた窓ガラスに映る、自分の表情に目が行った。
非常に好戦的なその笑顔は、とても7歳児のものには見えない。決意を新たに、小さくつぶやく。
「首を洗って待っていろ、イケメンども」