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7.大事故

(R4.9.25追記)

ヨウのことを覚えていない方が多いことが分かったので、一部説明を追記しました。

確認してみたらヨウが最後に出て来たのは1年半以上前だったので時の流れのエグさに若干慄きました。それは忘れて当然ですね……



「エリザベス!」


 ばこん、と天井板が降って来たかと思ったら、続けて黒装束の男が降って来た。

 黒髪に浅黒い肌、一見人懐っこそうに細められた瞳、わざとらしい片言じみた独特のイントネーション。噂をすればなんとやらだ。

 

 現れたのは予想通り、ヨウだった。

 「RoyalLOVERS」無印の隠し攻略キャラにして、東の国の第6王子ヨウ・ウォンレイ。

 ゲームの中では押しの強い片言キャラだった彼は、原作がねじ曲がってしまったこの世界では、聖女誘拐と戦争を扇動しようとした罪で投獄されていたはずだ。

 何故こんなところを自由に出歩いているのか。


 だいたい、とかげの尻尾切りにあった罪人とはいえ一応は他国の王族だ。

 大事に要人用の牢屋にしまっておかなくていいのか。


「ワタシ、仕えるならアナタが良いデス! どうかワタシを使ってください!」

「嫌」


 食い気味で拒否した。

 仕えるとか使ってくれとかどの口が、というのが率直な感想だ。

 こちらに詰め寄ってくる彼の笑顔は、やはりどこか嘘臭い。


「向こう様が全然引き取る様子がねぇからって頼まれてよ。タダ飯食わすくらいならまぁ何かの役には立つか、と思っていろいろと仕込んでみたんだが……」

「ワタシ、牢の中でいろいろ考えまシタ。アナタに言われたこと。今後の自分のこと」


 グリード教官が髪をがしがしと掻きながら、何とも言えない表情でヨウを見下ろす。

 ヨウはやはり胡散臭い笑顔のままで、揉み手をしながらこちらに近寄ってくる。


「自分がどうしたいか考えて……思ったんデス。もう一度、アナタに罵られたいと」

「は?」

「ああ、踏んでくだサイ! 詰ってくだサイ!」

「はぁ!?」


 足に縋りついて来ようとするヨウを後ろに飛んで躱す。

 跪いた彼の顔を見下ろすと、黒々とした目がこちらを見つめていた。

 ぞっと背筋に悪寒が走る。


 え? これ、本気じゃないよな?

 もっと裏で何か企んでいるんだよな? これは演技だよな?


 頼むからそうだと言ってくれ。


「調教がうまくいきすぎてなぁ」


 無精ひげを撫でながら首を捻るグリード教官。

 うまくいくどころか大事故じゃないか。

 この国の人間、他国の王族の性癖を何だと思っているんだ。リリアと一緒に謝りに行って欲しい。


 白い目でグリード教官を睨んでいると、視界にヨウが割り込んできた。

 私の手を取って、手の甲に頬ずりする。

 またゾワゾワと背筋が寒くなる。鳥肌も立っている。


「また髪を掴んでくだサイ。ああ、もっとひどくして……」

「嫌だ、マジで嫌だ」

「お願いしマス、靴だって舐めマスから!」


 何とかして手を振り解こうとするが、やたらとねっちょり絡みついてきて離れない。

 ぶん殴るなり蹴るなりで引き離したいのはやまやまだが、それで喜ばれたらさらに恐怖が募る気しかしないので踏み切れなかった。


 だいたい靴なんか舐められても私は得をしない。それどころか不快である。

 完全にドン引きしていると、歩み寄って来たグリード教官が私の肩に手を置いた。


「隊長、言っとくけど俺たちだって靴ぐらい舐めるからな」

「誰も張り合えとは言っていません」


 空いている左手で目を覆って天を仰いだ。


 もう嫌だ。この空間まともなやつがいない。

 何故数カ月留守にしただけでこんなに仕上がってしまっているのか。


 教師はアレだし教官はコレだ。この世界にはまともな大人が枯渇している。

 よく漫画やゲームで子どもや高校生が世界を背負った戦いみたいなものに駆り出されてしまうのは、大人がこんな有様だからではないのか。


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― 新着の感想 ―
[一言]  よく漫画やゲームで子どもや高校生が世界を背負った戦いみたいなものに駆り出されてしまうのは、大人がこんな有様だからではないのか。 ↑そうかもっ!
[良い点] 更新感謝
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