31.モテている。非常に順調にモテている。
「姉上、警邏はどうでしたか?」
「楽しかったよ。学ぶことがたくさんあった」
クリストファーに尋ねられて、私は頷いた。私たちの様子を、お兄様はにこにこと笑って眺めている。
学園を卒業されてからというもの、お兄様は領地と王都の屋敷を行ったり来たりで、以前のように一緒にいる時間は減っていた。
それを埋めるかのように、お兄様が屋敷に戻っているときは、夕飯後に3人集まってお茶を飲むのが定番になっている。
琥珀色のきれいな紅茶を啜る。茶葉の違いなど正直分からないが、おいしい。
警邏は確かに楽しかった。
初日は特に何事も起きず、ただ街を流しただけだったのだが、十分収穫があった。
まず、町並みがゲームのスチルで見たことのある物だったことで普通に感動した。
クリストファールートで訪れるカフェ、ロベルトルートでアクセサリーを購入する小物屋、王太子殿下と身を隠した路地裏、アイザックと鉢合わせする書店。
気分は聖地巡礼だ。スマートフォンを持っていたら絶対に写真を撮ったと思う。
次に、街の人々の視線だ。若くて格好いい――もう自分で暗示のように言っていくが――騎士様、それだけで街の女の子たちがキャーキャー言ってくれるのだ。
都合の良いことはよく聞こえる地獄耳なので、方々から「かっこいい」と囁きあう声が聞こえていた。
「何か困ったことはありませんか」と声掛けをしたマダムの表情がとろけるのも目の当たりにした。
私に対する市井の女性の評価というものを、私は今日初めて知ったのである。
モテている。非常に順調にモテている。
最近は侍女には接近禁止令が出ているし、訓練場は男所帯だしで、知りたくても確かめる術がなかった。
お兄様もクリストファーも、「かわいい」「かっこいい」と言ってくれているが、身内贔屓は否めない。
自信を持って進んできたつもりだが、やはり赤の他人の評価がどうであるかというのは気になるものだ。それに対する不安は常にあった。
それが一定の評価を得たという結果により、払拭された。一種の達成感すらあった。この方向性は間違いではなかったのだ。
そのあたりを全部包括しての感想が「学ぶことがたくさんあった」である。
「ぼくも一緒に行きたかったです」
クリストファーが口を尖らせる。容姿に似合った、子どもっぽい仕草が可愛らしい。
年を重ねているはずで、身長も伸びているはずなのだが、年々小動物っぽさに磨きがかかっているように感じるのは気のせいだろうか。
クリストファーの言葉に、お兄様は少しだけ眉を下げ、微笑みを苦笑いに変えた。
ちなみにお兄様は年齢を重ねても変わらずふくふくのわがままボディをキープしている。
「仕方ないよ、クリス。騎士団のお仕事なんだから」
「ぼくも騎士団候補生になります! そうしたら連れて行ってくれますか?」
「さすがに部外者を連れて行ったら怒られると思うな」
「部外者じゃありません、家族です!」
頬を膨らませて拗ねるクリストファー。
そろそろ反抗期を迎えてもよい年頃だと思うのだが、変わらず私とお兄様には甘えたで困る。
家に来たばかりの頃を思えば、ずいぶん遠慮なく甘えてくれるようになった、ような気がする、と思う。
正直昔のことすぎて忘れかけている、というか馴染みすぎて、元からずっと兄弟だったような気すらしている。
子どもなんて案外そんなものかもしれない。
「まぁ、騎士団候補生になるのはいいんじゃないかな。私からも教官に頼んでおこう」
「ありがとうございます、姉上」
ぱっと花が咲いたように笑うクリストファー。ふにゃりとゆるんだ頬に、思わず吹き出しそうになる。
「ただし、お父様は自分で説得するように」
「リジー。自分の時は僕とクリストファーに一緒に頼んでもらったの、忘れちゃった?」
「……覚えていますとも」





