48.端から見たら完全にBのLではないか?
活動報告に小話を置きました。
お留守番組その2、ロベルトの小話です。
ご興味のある方はぜひご覧ください。
ふむ。何なのだろう、これは。
端から見たら完全にBのLではないか? 大丈夫か?
私と殿下の好感度がうなぎ下がりになっている気しかしない。
殿下の頭越しにディーたちの様子を窺う。
護衛として同行していたリチャードが、タオルでぐるぐる巻きにしたマリー王女を抱き上げて、こちらに歩いてくるところだった。
リチャードもひどく真面目な顔をしている。
私たちには目もくれず、横を素通りして湖から離れていった。どこか休んだり着替えたりする場所を確保したのかもしれない。
その2人の後ろを、マリー王女に気づかわし気な視線を向けながら、ディーがついていく。
私たちの横を通る時、ちらりとディーがこちらに視線を向けた。
うん?
その瞳に、違和感を覚える。
今まで彼女の視線からは感じて来なかった、熱を感じたからだ。
リリアや、ご令嬢たちが私に向ける視線にあるそれと、同じ熱だ。
殿下に視線を戻す。結果論にはなるが、どうやら彼の取った行動は正しかったらしい。
友人――ということになっている――の危機に取り乱す姿が、何やらディーの心には響いたようである。
もしくは、妹を身を挺して守った私への視線か?
そのあたり精査をしないといけないが……それにしたって好感度が下がっていそうな対応だと思うのだが。
乙女心というのは、やはりよく分からない。
まぁ、男同士の友情というのは女の子も好きだしな。そういうものだと思っておこう。
殿下とお兄様が友達だというのは事実である。
ふと、気づいてしまった。
この人が今のような肉体的接触を日々お兄様にも行っているのだとしたら……世の大半の女性が裸足で逃げ出すほどの美麗なご尊顔でこんなことを繰り返しているのだとしたら。
ちょっと、話し合いが必要かもしれない。人の兄の性癖を捻じ曲げないでほしい。
一度問い詰めようとした私より早く、殿下が口を開いた。
「私は、きみの兄さんから、きみを預かってきているんだ。何かあっては困る」
一つ一つ、言葉を選ぶように、説得するように言い聞かせる。
「心配させないで」
「はぁ」
殿下は少し身体を離して、私の両肩を強く握って言う。紫色の瞳で、眉と目を近づけた真面目な表情で、まっすぐに私を見つめていた。
どうやら本当に心配していたらしい。
訓練場では着衣水泳も一通り経験しているので、それほど騒ぐことでもないと思うのだが……もしかして、殿下のいた東の訓練場では着衣水泳、なかったのかもしれない。
「すみません。この程度のことでそれほど心配をかけるとは思わなかったもので」
「…………きみの兄さんの苦労がしのばれるよ」
「姉上!」
クリストファーが駆け寄ってきて、私にタオルを被せる。振り返ろうとするが、タオルに包まれて目の前が真っ白になった。
被ったついでに髪を拭きながら視界を確保すると、うるうるした瞳で私を見上げるクリストファーが目に飛び込んできた。
いきなり可愛らしいもので視界が占領されて、目がちかちかする。
「良かった、無事で……!」
「いや、そりゃ無事だけど」
クリストファーがほのかに涙をにじませた声で呟きながら、私の手をぎゅっと包み込むように握った。
子ども体温というのだろうか、手のひらが非常に暖かくて、心地良い。
「こんなに冷えて……」
どうも私の返事は聞いてもらえていないらしい。クリストファーの顔も真っ青になっていた。
今にも泣き出すんじゃないかとハラハラしたが、クリストファーはきゅっと唇を引き結んで顔を上げると、私の手を引いて歩き出した。
「リチャードさんが借りてくれたロッジで、暖炉に火を入れました。こっちです」
「ああ、ありがとう」
クリストファーに手を引かれるまま、ついていく。
何とか泣くのを堪えたらしい弟の背中に、何故だか妙にしんみりしてしまう。大きくなったな、クリストファー。
クリストファーにも殿下にも、ずいぶん心配をかけてしまったようだ。
非常に言い出しにくいのだが……みんな、忘れていないだろうか?
私は羆と引き分けた人間だぞ?
湖ごときで溺れるものか。