35.俺に興味がないなんて、おもしれー女
マリー王女の前にそっと跪いた。
「初めまして、マリー殿下。お初にお目にかかります。ディアグランツ王国、バートン公爵家のエリックと申します」
「バートン……ああ、お姉様の」
こちらを見たマリー王女が、ぱちぱちと目を瞬く。
そして納得したようにふんと鼻を鳴らすと、興味なさそうにそっぽを向いた。
「何でもいいけど、邪魔よ、そこ退いて。あたしはエディに用があるの!」
「はぁ」
一歩ずれて、マリー王女に道を譲る。
殿下の冷たい視線が後頭部に突き刺さっている気がするが、無視する。
ことを急いても仕方がない。マリー王女を口説くにしろ他の手段を取るにしろ、まずは相手のことを知り、戦法を考える必要がある。
その他大勢のご令嬢ならともかく、相手は見た目からして特徴盛り盛りのメインキャラだ。ナンパ系だけでは通用しない可能性もある。それなりの対策が必要だろう。
敵を知れば百戦危うからず。話はそれからだ。
あとまぁマリー王女が嫁いでくるのが国益になるなら正直そちらの方がありがたい。
殿下に言ったら確実に機嫌を損ねそうなので言わないが。
「ねぇエディ、あたしもディアグランツ王国に行ってみたいわ! 帰る時に連れて行って!」
「またいつか、機会があればね」
「いつかって、いつ!?」
「ノルマンディアス王に相談しないと」
貴族的「お断りします」表現で応対する殿下。
このまま押し問答を眺めていても埒が明かないので、割って入る。
「失礼。エドワード殿下はこの後視察のご予定がありまして……時間に余裕が」
「じゃああたしも一緒に行く」
「ですが、」
「あたしはエディのお嫁さんになるんだもの! 一緒にいて当然でしょ!」
後ろで顔を青くしている護衛には目もくれず、「ね?」と殿下の顔を見上げるマリー王女。
横から見ているだけでも可愛らしすぎて食らってしまうほどの、100点満点の上目遣いだった。
あんなに可愛らしく甘えられて冷たくあしらえる人間の気が知れない。
もう言うことを聞いてやればいいのに。
可愛らしい女の子が可愛らしい仕草をしているのは良いものだ。
持ち前の「可愛い」をすべて見事に持ち腐れている某聖女が思い起こされ、思わず素の感想が漏れた。
「エドワード殿下のことがお好きなんですね」
「すっ、」
ぼっと音が出そうなほど瞬間的に、マリー王女の顔が真っ赤になった。
ううん、可愛い。
何故だろう。反応すべてが「正解」すぎて、非常にくすぐられる。理由は分からないが、不思議な既視感を覚えていた。
「ち、違うわよ! エディがあたしと結婚したいって言うから、まぁ、あたしも嫌じゃないし、って思ってるだけで」
ぷいと顔を背けるマリー王女の姿に、衝撃が走る。
何ということだ。
ツンデレだ。
今やもう死語になりつつあるツンデレだ。
既視感の正体に思い至る。
気が強そうな金髪ツインテール、そしてツンデレ。なんという様式美だ。拍手をしたくなるほどのテンプレートだ。
むしろ最近はあまり見なくなった気すらする。絶滅危惧種なのではないだろうか。
少年漫画ならメインヒロイン、少女漫画ならライバルキャラといったところだろうか。
ふと思ったが、金髪ツインテール=ツンデレというテンプレートの初出は何なのだろう。
ツインテールキャラでツンデレというキャラクター、結構思いつくがツンデレではないツインテールもいるし、逆もまた然りだ。
このインプリンティングは一体どこから来ているんだろうか。
「……だ、そうですが?」
「言っていないよ」
そっと殿下に尋ねてみれば、地獄の底を這うような声音が帰って来た。
「『あたしが勝ったらお嫁さんにして』と言って試合を挑んできたから負かしたら『勝ったんだから責任を取ってお嫁さんにして』と言われているんだ」
選択肢が「イエス」か「はい」しかない謎分岐みたいになっていた。
ルート固定じゃないか。
「あたし、エディと出会う前は騎士にも負けたことなかったのよ! エディは強くてかっこいいんだから!」
「そうですか」
ちらりと護衛の騎士に視線を投げる。
西の国と我が国とでジェスチャーの示すところに差がないとすれば、「忖度」とのことだ。
まぁ普通に考えて王族、しかも女性相手に騎士が本気を出してはまずいだろう。
先ほどこちらに駆け寄ってくる際の素早い身のこなしから見るに、一般的なご令嬢と比べればそれなりに動けるタイプではあるのだろうが。
「マリー殿下。私に少しお時間をいただけますか?」
「え?」
「実は私も腕には少々覚えがあるのです。手合わせ願えませんか」
「何であたしがあんたと」
不機嫌そうに眉間に皺を寄せるマリー王女。
ディーといい、この国では私に興味がなさそうな女性とよく会う。あまり女性に邪険にされたことがないので新鮮だった。
これが行きつくところまで行きつくと「ふーん、俺に興味がないなんて、おもしれー女」に進化するのかもしれない。
屈み込んでマリー王女と視線を合わせ、悪戯めかしてウインクをする。
「私が勝ったらマリー殿下とは別行動。その代わりにマリー殿下が勝ったら、今日の視察に一緒にお連れします」
「ほんと!?」
きらりとマリー王女の目が輝く。
護衛が青ざめていたので、「負けないから安心しろ」と目配せしておいた。
軽く袖を引かれる。振り向く前に、殿下の鋭い声が飛んできた。
「手加減したら怒るからね」
釘を刺された。
私が手加減せずに相手をしたら死人が出てしまう。他国の王族を前に何という指示をするんだ、この王太子。外交問題を起こしたいのか。





