32.ミイラ取りがミイラ
待てよ。
使い物にならなくなったリチャードの首根っこを掴んで窓からリリースしたところで、ふと脳裏に疑問が過ぎる。
確かリリアの魅了は、心に決めた相手がいると効果がないのではないか。
何故王女様に気があるはずのリチャードに効いてしまうのか。
リチャードが王女様にお熱なのであれば、リリアの魅了は効かないはずだ。
彼が王女様に対してひとかたならぬ感情を抱いていることは間違いない。だが、彼の目はハートマークになっていた。
そこから導き出される答えは、一つ。
リチャードには、まだ王女様が好きだという自覚がない、ということだろう。
それに思い至った私の感想は、一つ。
面倒くさい。
これに尽きる。
自覚がないといえば天然のもののように聞こえるだろうが、実際のところは違う。
自覚したくないのだ。認めたくないのだ。
そういった感情が根底にあるからこそ、端から見たら「絶対に好きだろう」と思うような状況なのに、本人がそれを認められないという事態に陥っている。
要するに、素直でないだけだ。
素直でない男というのは二次元において散見されるキャラクタリスティックであるが――ロイラバで言えば、ツンデレポジションのロベルトがその立ち位置であった。今では見る影もない――実際に三次元で対面するとなるともう、面倒くさい以外の何物でもない。
「素直になれよ」とでも言おうものなら逆効果だ。どんどん意固地になって「は!? ち、ちっげーよ、バーロー!」とか言うに決まっている。
きっと命の危機にならないと素直にならない。そういうものだ。
ここで彼を命の危機に追い込むという手もないではないが、それをやると私がお縄になる可能性もある。
最終手段としては検討するが……彼が素直にならなかったときのことを想定して、他の男を見繕う線の両方から攻めるべきだろう。
どんな時でも対の選択肢は用意しておくに限る。
王女様の姿を思い浮かべつつ、オススメ出来そうな知り合いを考える。
一番に出てきたのは、殿下付きの近衛騎士、マーティンだ。
年頃も王女様と近いし、侯爵家の次男という身分も、十分とは言わないが悪くない。
何より、彼女の胸部装甲が彼好みであることは間違いないだろう。
……が、彼は王女様の胸部装甲にしか興味が無い可能性が多分にある。
そして非常に残念なことに、彼は乙女心のまったく分からない唐変木だ。理解しようという気もないタイプだ。
一時期狂ったように見合いをしていたが、そのどれもが不発に終わっているほどである。
恋に恋する王女様とぶつけるのは、少々不安が大きい。
そもそもこの場にいない彼を呼び寄せるとなれば1週間はゆうにかかる。
今いる人材を活用する方向で考えた方が合理的だ。
「姉上? 何だか外をふらふら歩いている男の人がいるんですけど……」
ちょうどよいタイミングで、庭園を散歩していたらしいクリストファーがサロンに入って来た。
どうやらリチャードはまだその辺を徘徊しているらしい。
じっとクリストファーを見る。
我が義弟ながら、攻略対象だけあって非常に整った容姿をしている。
人当たりも良いし、素直で頑張りやで、他国ではあるが公爵家の次男坊。
正直、王女様にお勧めするのにとてもちょうど良い物件だ。
だが、仮に彼が王女様の恋のお相手になりえたとして……本当に彼と王女様が結婚するような事態になってしまったら、ミイラ取りがミイラである。
まず間違いなく、お兄様の身代わりにクリストファーを置いてきたと思われて私が家族から袋叩きにされる。
何故ならば、私はそのあたりの信用がまったくと言っていいほどないからである。
それに彼は私と違って優しい子だ。最初から作戦を伝えたなら、王女様の気持ちを弄ぶようなことに反対するだろうし、仮に引き受けたとて、嘘を吐くことを負担に感じるだろう。
うまくやれるか怪しいところだ。
あとそんなことをさせたのがバレたら私が家族から村八分にされる。
となると……もう選択肢は残されていなかった。





