20.返り討ちだと思うけれど
件の王女様との面通しの前に、私たちに居住スペースとして貸し与えられる離宮へと案内された。
王城の敷地内にある建物で、公爵家の屋敷と比べても遜色のない広さだ。
もちろん最上級の賓客にあてがわれる場所だそうで、さすがは王太子様ご一行、VIP待遇である。
まずは殿下がスイートルーム的な部屋へと連れられて行き、次にリリアが案内の侍女に呼ばれていった。
最後に私とクリストファーにもお声がかかり、執事に案内されて、館の中を進む。
執事が扉を開けて、私たちを部屋に招き入れた。
「続きの間でご用意いたしました」
「え?」
「ご兄弟仲がたいへんよろしくていらっしゃると伺いましたので。ご一緒の方が何かと安心でしょう」
言われて、室内を見渡す。
なるほど、リビングというか大きな部屋やバスルームあたりが共用で、そこから続く寝室も隣り合っているらしい。
もともと2人で使うことを想定しているのか、広々としたつくりだ。
調度品も豪奢だし、窓からも庭園が見渡せて景色もよい。ここも十分にスイートだ。
おそらく夫婦の来賓があった際に使うような部屋なのだろうが、良い部屋をと思って割り振ってくれた結果、私たちにあてがわれたらしい。
それはそうだ、他はどの組み合わせも「混ぜるな危険」である。
先日の捕りものの際、クリストファーが怖い思いをしたという話を聞いて、気を使ってくれたのかもしれない。
まずは一服と執事がお茶を淹れてくれて、そのまま建物やら庭園やら歴史やらのうんちくをひとしきり語り、お茶が飲みやすい温度になったあたりで退出していった。
ドアが閉まり、その足音が遠ざかるのを確認するや否や、クリストファーが私の腕を掴む。
「あ、姉上! ど、どうしましょう!」
「どうって」
何やら切羽詰まった顔で私を揺さぶるクリストファー。
どうしたのだろう。あまりのVIP待遇に驚いている……というわけではなさそうだ。
お兄様の補佐として同行することも多い彼は、私よりもよほどこういう「貴族らしい扱い」に慣れているはずである。
何を尋ねられているのかわからないので、とりあえず当て推量で返事をしてみる。
「ジャンケンする? どっちの寝室を使うか。私は別にどちらでもいいけど」
「部屋割りの話じゃありません」
やはり違ったらしかった。
「け、結婚前の男女が、こんなの、ダメです! 寝室に鍵も掛からないんですよ!」
顔を真っ赤にして首をふるふると振るクリストファー。
何とも思春期男子らしい反応だが、さすがに思春期の弟の部屋にノックもなしで入ったりはしないので、安心してもらいたい。
ちゃんとノックをして、返事があってから一呼吸おいてドアを開ける。
私だって気まずい思いをするのは嫌なので、そのくらいの配慮はするつもりだ。
一呼吸の間に、お姉ちゃんに見られて困るものを隠してくれればよい。何をとは言わないが。
ドタバタしているようならきちんと待つし、万が一があっても、できる限り見て見ぬふりをする。
あと公爵家にいる時もそうだが、そもそも私は寝室のドアに鍵など掛けたことがない。
そんなものついていたっけなというレベルだ。
極論ドアの本体が木製である以上、鍵なんて無意味だと思う。
「ぼ、ぼくが姉上を襲ったらどうするんですか!?」
「返り討ちだと思うけれど」
「かえりうち」
錯乱した様子のクリストファーにそう返したところで、ふと思いついた。
そうか。彼の寝室がすぐ隣ということは、お兄様の手紙を回収しに忍び込むチャンスだ。
あと何通あるのか知らないが、何が書かれているか分かったものではない。
さっさと回収しておかなければ、またクリストファーの言うことを聞かされる羽目になる。
手紙で弟の荷物を漁ったりしないよね、と釘を刺されたが、それこそそんなもの知るか、である。
私は自分の沽券を守るためなら弟の部屋にも侵入するし、荷物も漁る。
そういう人間だ。
すまないクリストファー。やはりノックもなしで入るかもしれない。
慌てた様子のクリストファーを適当に宥めつつ、私はいつ忍び込もうかと算段を付け始めた。





