27.お前はよくやったよ
「たいちょぉ~~」
突然肩を組まれたので何かと思ったら、ロベルトだった。
打ち上げの席で無礼講とはいえ、鬼軍曹に対する態度とは思えない。
引き剥がして睨み付けるが、妙に顔が赤いし目がとろんとして、焦点がどことなく合っていない気がする。
じろりと教官仲間に目をやれば、苦笑いが返ってきた。
「すんません、どうしてもって聞かなくて。舐めるだけっつったんですが」
念のため補足をすると、この国には未成年の飲酒を禁ずる法律はない。モデルが昔の欧米諸国だからだろうか。
それでも良識のある大人が一緒であれば、学園卒業前の子どもには飲ませないのが一般的だ。
つまりここには、良識のある大人がいないのだった。
よい子とよい大人は真似をしてはいけない。未成年飲酒、ダメ、絶対。
「こいつの護衛はどうした」
ロベルトは腐っても第2王子。訓練場内であっても、いつも3人程度は護衛をつけていたはずだ。城下街の食堂となれば尚更である。
「そこで潰れてます」
「叩き起こせ」
ロベルトの護衛たちは一足お先に潰されていたようで、「でんかぁ」「よがっだでずぁ」とかなんとか呻いていた。
まぁ、無理もない。ずっとロベルトを身近で見守ってきたのだ。
彼が兄に勝利したこの日を……兄と自分を比べることよりも大切なことを見つけられたこの日を、祝う気持ちは私たちより強いだろう。
だがこれでは何のための護衛だかわからない。
いくら平和な国とは言え、王族付きの騎士がこれでは将来が思いやられるというものだ。
何度押し除けてもまとわりついてくるロベルトに、仲間たちも教官たちも生暖かい目を向けるばかりで、助けは期待できそうになかった。
「たいちょぉ! 俺、やりましたよぉ! 隊長のおかげです!」
「ああ、そうだな。お前はよくやったよ」
私も今日ばかりはあまり邪険にする気になれずに、ぽんぽんと彼の頭を叩いてやった。
きょとんと目を丸くした彼と、視線が交差する。
「お前なら、もっと強くなれるさ」
「たいちょぉおおお!」
ぶわっとロベルトの瞳から涙がこぼれた。
また飛びついて来ようとしたので、顔面を鷲掴みにしてストップをかける。
やめろ。お店でスポ根ごっこをするのは周りの方のご迷惑だ。
「隊長、俺、おれ、ぜったい、絶対もっと強くなります!」
「そうか、それは楽しみだな」
「もっと、もっと! 隊長と同じぐらい、いえ! 隊長よりも、強くなります!」
ロベルトは私の手を顔面から引き剥がし、ぎゅっと強く握り締める。
その掌は豆が潰れた後の皮が硬くなっていて、立派な騎士の手だった。そして驚くほど、熱を帯びていた。
「だから、だから……俺がもし、隊長よりも強くなったら……その、とき……は……」
ふっと、ロベルトの身体から力が抜けた。
机に突っ伏してしまった彼の後頭部を眺めていると、まもなく寝息……というかいびきが聞こえて来る。
やれやれ。どうやら完全に潰れたらしい。握られた手の熱さから、彼の酔い具合が伝わってくるようだった。
その時は、の続きは何なのだろう。
「手合わせしてくれ」だったらいくらでも相手になってやるのだが、平和に生きていきたいので「一緒に革命を起こそう」とかはお断りだ。
打ち上げの話だったので、朝ではなくて昼に上げました。





