5.あなたはエリ様の何なんですか(リリア視点)
「よく来たね、リリア嬢」
生徒会室に入ると、真正面にエドワード殿下が座っていました。
にっこり微笑んでいますが、目が笑っていません。
ビビりなのでそのあたりは敏感です。バシバシに敵意を感じます。
なまじお顔が綺麗なだけあって、迫力満点です。目から冷凍光線的なものが出ていそうです。
椅子を勧められたので、腰を降ろしました。断る勇気がないので言うなりです。
部屋を見渡すと、エドワード殿下の斜め後ろにはロベルト殿下が立っていました。
そして机の左右には、アイザック様とクリストファー様が座っています。
攻略対象が揃っているところをこう正面から見ると、何というか壮観ですね。
皆さんとても整った顔をしています。直視したら目が焼けそうです。
顔面偏差値70ないと生徒会室の敷居は跨げないのでしょうか?
まぁ? 言うて? わたしのエリ様が? いちばんかっこいいんですけどね??
そして皆さんがわたしを見る視線からは、やっぱり敵意を感じます。
いえ、ロベルト殿下だけは特に何も考えていなさそうな目をしていますけど。
そもそも、ロベルト殿下が生徒会室にいるというのもおかしな話です。
クリストファー様は一緒に生徒会室に忍び込むイベントとかもありましたが、基本はここはエドワード殿下とアイザック様のテリトリーのはず。
エドワード殿下と折り合いの悪いロベルト殿下が生徒会室に来ると言うのは、記憶にある限りゲームでは起こらなかった展開です。
あまつさえ、エドワード殿下の背後に控えているなんて……どのエンドでも見ることのなかった光景でした。
わたしが背後に視線を送っているのに気づいたのか、エドワード殿下がやれやれとため息をつきます。
「ギルフォードはともかく、他2人は部外者だから出て行ってもらうよう言ったのだけど」
「部外者って言っても、生徒会の話をするわけじゃないですよね? 職権濫用って言うんですよ、そういうの」
「隊長に関する話でしたら、俺にも聞く権利があるはずです」
やいのやいのと話し始めた攻略対象たちを、眩しさに目を細めながら眺めます。
何だか顔の良い男たちが話しているなぁ、とどこか他人事のように思ってしまいました。
やっぱり顔はエドワード殿下が一番良いですね。推しの欲目かもしれませんけれど。
まさか推しと恋敵になるとは、前世ではとても思いもよらなかった事態です。今世でも思いもよりませんでした。
いくら推しでもそこは譲れません。わたしは腐の者ではなく、夢の者です。
しばらく待ってみたものの、なかなか終わる様子がないので、恐る恐る手を上げました。
「あ、あのう。ちょっといいですか?」
「ん? ああ、何かな?」
「わたし、何で呼ばれたのでしょう?」
当然の疑問に、エドワード殿下は優雅に足を組み替えてにこやかに返します。
「きみから情報を得ようと思ってね。ほら、『友達』なのだろう?」
やたらと強調された「友達」から悪意をビシバシ感じるのは、気のせいではないでしょう。
確かに、今のわたしは「友達」ですけど。じゃああなたはエリ様の何なんですか、というのが正直な気持ちです。
呼ばれた理由を察しました。これはきっと、牽制ですね。
振られたのだから、大人しく手を引けという。
「同じ人間を愛する者同士、協力し合おうじゃないか」
「……あの」
わたしは声を発しました。
若干上擦った声になってしまいましたけれど。
だって仕方がありません。怖いんです。
相手は王太子です。しかも超絶イケメンです。冷たい扱いをされたら心が折れちゃう、と思っていた相手です。
それでも。
それでもわたしは、ここで引きたくないと思ったから。
ここで引くのは、主人公らしくないと思ったから。
がんばって前を見て、攻略対象たちと対峙して、言葉を紡ぎます。
「ど、どうして、わたしとあなた方が同じ、みたいな言われ方、しなくちゃいけないんでしょう?」