78.エンドロール
今日から1日2回更新週間が始まっております!
朝にも1話更新していますので、まだの方はそちらからどうぞ。
ちなみに、まるで終わるかのようなサブタイトルが続いておりますが、お話はもう少し続きます。
「リリア嬢が違うというのなら、誰となら……どういう相手となら、恋人になりたいと思うの?」
唐突に問いかけられ、私は首を捻る。何故今そんな話をするのだろう。
突然そんなことを聞かれても、答えに窮してしまう。
今までずっと主人公に攻略されるために動いてきたので、特にそれ以外の恋愛についてしたいとも思わなかったし、考えてこなかった。
もとは恋愛したくてプレイするゲームだというのに、不思議な話である。
主人公に攻略してもらうという目標が達成された今、攻略対象になるための男装も、紳士的な振る舞いも必要なくなる。
まぁ、普通の令嬢をやっているよりよっぽど楽だしすっかり慣れてしまったので、しばらくはこのままで良いかとも思うが。
いつかは恋愛をしてみても、よいと思う。
珍しく考え込んでしまった私に、王太子殿下や他の皆はもちろん、リリアまでもが興味ありげにこちらを窺っている。
どういう相手。タイプということだろうか。好みの、タイプ……
好きな人、一緒にいたい人……
「あ」
ふっとある人の姿が脳裏に浮かんだ。
「お兄様みたいなひと、でしょうか」
思い付きで口に出したものの、急に恥ずかしくなってきた。かっと頬が熱くなる。
これはあれだ。17歳としては、少々子どもっぽ過ぎる回答だ。
だが7歳で前世の記憶を取り戻してからこっち、主人公に攻略される以外の恋愛関連の事柄を一切合切放り出してやってきたのだ。
年齢と共に形成されていくはずの、そういった感情というか情緒というか、そのあたりのものが7歳時点から更新されていないのである。
口元に手をやって視線を逸らす私に、その場の全員が何とも言えない顔になっていた。
「あ――――……」
「あれは……勝てない……」
「リジー。それは高望みだよ」
「姉上、無茶を言ってはいけません」
「分かっているよ、そんなことは! ちゃんと『みたいな』って言っただろ!」
「バートン伯以外にいるわけがないだろう」
それもそうだった。
似たり寄ったりの反応を返す一同を見て、お兄様の人望を改めて感じる。
イケメンが優遇されまくるこの世界で、随一のイケメンである攻略対象たちをして「勝てない」と言わしめるお兄様。
その存在だけで、この世界も悪くないと思えた。
私がここまで迷わず走ってこられたのは、走り続けられたのは、お兄様の存在があったからだ。
どんな見た目になろうとも、どんな無茶をしようとも、「可愛い妹」と言って憚らず、私の味方でいてくれたお兄様がいたからだ。
お兄様が私にくれたのは、それだけではない。
いくら乙女ゲームの世界といえど、見た目がすべてではない。
次期人望の公爵たるお兄様の存在が、それを証明してくれていた。
お兄様の人望に、見た目は関係ない。イケメンでなくたって、お兄様はお兄様だ。
それだけで、人を惹きつけられる人だ。
それが、私にとっては救いだった。
だって、見た目だけではどう足掻いたって、私に勝ち目などないのだから。
お兄様の妹でなければ、今の私はいなかった。
もしもこれがゲームだったなら、私はエンドロールに「スペシャルサンクス」としてお兄様の名前をクレジットするだろう。
お兄様みたいなひとは、そうそういないだろうが……
「いつか、外見なんて関係ないと言ってくれる人が現れたら……その時考えるよ」
ほとんど独り言のように呟いて肩を竦めると、皆が一斉にこちらを振り向き、宇宙人を見るような目をしてきた。
皆して何だ、その顔。怖い。
ちょっとこの世界の理から外れたことを言っただけでこれである。
どうやら私が私自身の恋愛について考えられるのは、まだずいぶん先の話になりそうだった。