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75.さあ、逃避行の始まりだ

 攻略対象が揃いも揃って、女装して立っていた。

 いや、何で?


 去年の悪夢が甦る。ひどいデジャヴだ。

 しかも去年よりクオリティを上げてくるな。


 そしてクリストファー、去年はあんなに嫌がっていたのにどうして今年はそちら側にいるのだ。

 最近義弟の考えていることがよく分からない。反抗期だろうか?


 4人揃ったところを前にすると、何故だろう。

 四天王とか、四面楚歌という言葉が脳裏を過ぎる。どうにも縁起が悪い。


 そして気づいたのだが、皆どこかにブルーグレーの色を取り入れている。

 てっきりリリアは私の瞳の色だからそのリボンを選んだのだと思っていたが、もしかして、ブルーグレーが今のトレンドというだけなのだろうか。


 だとすれば、うっかりリリアのリボンに言及していたら自意識過剰の恥ずかしいやつになるところだった。

 よかった、何か言う前に気づけて。

 彼らに感謝すべき点があるとすれば、それだけだ。


「え? な、何? これ? 逆ハーレムルート? いや、逆、じゃないの、かな? え? 女装イベなんてあったっけ?」


 リリアが混乱した様子で、早口で独り言を呟いている。

 それはそうだ。「何? これ?」以外の感想を抱けと言う方が無理な話である。


 ダンスホールの中から、仁王立ちしていた4人が私に視線を向ける。

 私たちに用事があるわけではないのかもしれない、という最後の希望が打ち砕かれた瞬間であった。


「隊長! 今年こそは俺と踊ってください! この日のために身体作りに励みました!」

「リジー。誰と踊るべきか分かっているよね? 今この場で、一番尊重すべきは誰?」

「お前のおかげで男性側も女性側もマスターした。僕はどちら側だって構わないぞ」

「姉上! 昨年無理やりぼくを踊らせたんですから、今年も責任を取ってください!」


 私は眉間を押さえた。どうしよう。急激に帰りたくなってきた。


「……バートン様」


 隣に立つリリアが、ちらりと私を見上げる。

 何故だろう、その瞳に仄かに責めるような色を感じた。


 誤解である。

 本当に誤解である。

 いや、何をどう誤解しているのかは分からないが。

 この件に関しては――この件に関してだけは、私は何も悪くない。去年も、今年も。


 ずんずん近づいてくる4人を前に、私は決断した。

 よし。逃げよう。


 さっと屈んで、リリアを抱き上げた。

 おお、さすが主人公。ドレス込みでも羽のように軽い。これならちょっと怪しい鎖骨も問題なかろう。

 なので、これは「無理」には含まれない。


「しっかり掴まっていてね」


 ウインクを決めて囁くと、リリアの顔が一瞬で真っ赤になった。瞳の中にハートマークが揺れている。

 くるりと踵を返して、階段の手すりに飛び上がる。


「悪いね。用事があるから、少し抜けるよ」


 そのまま後ろ向きに、庭園に向かって飛び降りた。

 ダンスホールから、非難混じりに私を呼ぶ声が降り注ぐ。


 さあ、逃避行の始まりだ。


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