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66.彼女を探しに行くべきなのは

「私が探してくるよ」


 一歩前に出る。


 現状、彼女への好感度が一番高いのは私だろう。

 他のキャラクターの好感度上げをしている時間はなかったはずだ。それはリリアとずっと一緒にいた私がよく知っている。


 いくらロベルトがチョロいとはいえ、――そして私と彼女が今少々気まずい状態にあるとはいえ――私より好感度が高いということはないだろう。

 その証拠に、今名乗りを上げなかった。

 他の攻略対象が手を挙げないなら、今、彼女を探しに行くべきなのは間違いなく私だ。


「一人では危険です、俺も行きます」


 ロベルトの申し出に、私は首を横に振る。


「この中で私の次に腕が立つのは君だ、ロベルト。君にはここに残って、先に皆とロッジまで行っていてくれ。もしもの時は皆を守ってほしい」

「で、ですが……」

「その方が、私も安心してリリアを探しに行ける。君だから頼んでいるんだよ、ロベルト」


 彼の肩を掴んで、瞳をまっすぐ見つめた。一瞬揺らいだ若草色の瞳が、真剣な輝きを宿して私を見つめ返す。


「は、はいっ! 命に替えても皆を守り抜きます!」

「ああ、頼んだ。命には替えなくていいけど」

「あ、姉上!」


 横合いから、クリストファーに袖を引かれる。


「それなら姉上も一緒に行きましょう! 先生たちと合流してからリリアさんを探したほうが安全です!」

「いいや。私は今、行かなくてはならないんだ。どうしても」

「危険です!」

「危険でも、だ」


 クリストファーの言うことはもっともだ。それが一番合理的な選択だろう。

 だが、乙女ゲームの攻略対象というのは、時として理屈や合理性では説明できないことをしなくてはならないものなのだ。


「言っただろう? 私は君の、家族のための騎士だ。君が待っていてくれさえすれば、私は絶対に君のもとに帰ってくるよ」

「……ほんとうに?」


 不安そうに、潤んだ瞳のクリストファーが小さく問いかける。私は胸を張って、余裕たっぷりに答えた。


「ああ、約束する。騎士とは、大切な人のところへ帰るものだからね」

「約束、破りませんか?」

「私が君との約束を破ったことがあったかい?」


 ウインクを交えた私の言葉に、弟は一瞬沈黙した。そして少し赤い目元で、私の真似をして悪戯っぽく笑う。


「……破ったら、また兄上に言いつけます」

「これは破るわけにはいかないな」

「バートン、これを」


 アイザックが私の手に、何か小さな物を握らせた。手を開くと、金属製の筒のような物がある。


「これは?」

「緊急用の救助笛だ。もしもの時はこれを鳴らしてくれ。教師や山岳の管理者と合流したら、すぐに助けに行く」

「頼もしいな」


 私が笑うと、彼はふんと鼻を鳴らして、私から目を逸らす。


「と言っても、僕が助けに行くわけではないだろうが」

「そうかもしれないけれど。今私にこれを渡してくれているのは君だよ、アイザック」


 アイザックがこちらに視線を戻す。笛を握らせた私の手を、その上からもう一度握った。


「本当は行かせたくないが、止めても無駄だろう。かといって、僕がついていっても足手まといになるだけだ」

「心配してくれているのか?」

「言わないとわからないのか?」


 いつも通りのやりとりをして、目を合わせて笑う。


「無理はするな。お前がいなくなったら困る」

「はは。分かったよ。私も友達は多くないからね」

「じゃあ、行こうか」

「何を当然のように一緒に来ようとしているんですか。ダメです、待っていてください」


 殿下が本来の行き先と逆の方に歩きながら、私に声を掛けてきた。慌てて前に回り込んでそれを止める。


「私だってそれなりに腕に覚えはあるよ」

「そういう問題ではありません。王太子を危険に晒したとなれば、私とリリアの首が飛びます」

「……ロベルトには、頼りにしているからだとかもっともらしいことを言ったのに。私にはそれしかないの?」


 どこか拗ねたように呟く王太子殿下。この人は時々面倒くさいことを言ってくる。


「もし盗賊相手だったら、私を人質に差し出して逃げられるよ。この中で人質としての価値が一番高いのは私だ」

「困らせないでください」

「きみが私を困らせるからだ」


 私はやれやれと肩を竦めてため息をつく。殿下の顔色を窺ってみるも、そう簡単に読ませてくれる相手ではない。


「人の上に立つ御方だ。この場を率いるべきは、貴方です。王太子殿下」

「30点」

「私がいない間、ロベルトの手綱を握れるのは、殿下。貴方だけです」

「50点」

「殿下。お願いします」

「……60点」


 その言葉に、私はにやりと笑った。今度は殿下がため息をつく番だった。


「及第点ですね」


 彼はまたため息をつくと、私に道を譲った。


 やれやれである。

 彼らが何をそんなに心配しているのか、私には分からなかった。


 実際のところ、リリアはただ段差から滑り落ちて足を挫いているだけだ。

 助けに行ったからとて、私の身に危険が及ぶようなことはない。そうでなければ、1人で助けに行くなどと言うものか。

 私はこの世で一番、我が身が可愛いのだ。


 だいたい、皆忘れていないだろうか。私は鉄だって斬れるのだ。そんな奴のことを、心配して一体何になる。

 私の心配をする暇があったら、自分の心配をしてもらいたいものだ。


 適当に行ってきますとか何とか言い残して、私は後ろ手に手を振った。



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