53.街デートのイベント
「たいちょーーーー!」
キラキラが突き刺さるような声がした。振り返れば案の定、こちらに駆けてくるロベルトの姿があった。
返事をせず睨みつけてやると、私の隣に立つリリアに気がついたのか、ロベルトは露骨に「やべっ」という顔をする。
すぐ傍まで来て、ロベルトは逡巡した後、今の呼びかけなどなかったかのように私に声をかけた。
「バートン卿、どうしてこんなところに?」
「……リリアと一緒に買い物でもと思ってね」
隣に立つリリアに視線を向ける。街デートのイベントを狙ってリリアを誘ってみたのだ。
一応メインの目的はウインドウショッピングと流行りのカフェということになっているが、おそらく彼女も何かしらのイベントを期待していることは間違いないだろう。
ちなみに今日のリリアは淡い水色のストライプ柄のワンピースだ。
夏らしいし、清純派という感じがしてとても良い。ハーフアップの髪型もすっきりとしていて爽やかだ。
あと顔が良い。何度見ても顔が可愛い。
「そういう君は?」
「はっ! 自分は騎士団の警邏に同行させていただいていたところです!」
「そうなんだ。精が出るね」
「はいっ! やはり騎士団の方々の動きは参考になります! 先ほどもスリの一味を捕まえる際、後衛を任せていただいたのですが……連携がとれた動きは素晴らしかったです!」
騎士団の素晴らしさをご機嫌で報告してくるロベルトだが、私は別のところに気を取られて話が入ってこなかった。
「スリ? いま、スリの一味といったかな?」
「は、はい。ですがすでに全員捕らえられましたので、心配はご無用です」
胸を張って答えるロベルトに、リリアが小さく「えっ」と呟いたのが聞こえた。
そう。スリはイベントに必要なファクターだった。
それがすでに捕らえられてしまっているようでは、イベントの起きようがない。
ゲームでは、クリストファーとの街デートイベントで、主人公がスリに遭いそうになる。
それをクリストファーが未然に防ぎ、普段のふわふわした弟キャラのクリストファーではなく、意外と腕っ節が強い彼の姿に男の子らしさを感じて、主人公もといプレイヤーはきゅんとなる、という寸法である。
クリストファーも騎士団候補生の訓練に来てだいぶ揉まれていたし、見た目よりかは戦える方かもしれないが……私の方が、間違いなく強い。
そもそも剣術はこういったイベントを颯爽と格好よくこなすために始めたのだ。
乙女ゲームの攻略キャラたちはたいして強そうに見えないキャラでもやたらと腕が立つという設定がついて回る。
今回のようなスリ撃退やナンパ撃退に始まり、暗殺者や傭兵の手合いを相手取るようなアクション系のイベントが随所に散りばめられていた。
ただでさえ顔面偏差値は向こうの方が上なのだ。彼らと張り合うには、強さで負けるわけにはいかないだろう。
……まぁ、途中から身体を鍛えるのが趣味になっていたので、そればかりが理由ではないのだが。
しかし、すでにスリが捕らえられているとは。内心舌を打つ。
本来ならこのまま別の……聖女誘拐を狙う豪商の傭兵あたりにターゲットをシフトしたいところだが、今私たちと会話をしているロベルトが身にまとっているのは騎士団候補生の制服だ。
少し離れたところでは、顔見知りの警邏の騎士がこちらに敬礼しているし、控えているロベルトの護衛も私の視線に気づくと会釈を返してきた。
どう見ても騎士団と知り合いだ。
そんな相手を、わざわざ騎士団が近くを見回っている今日、襲うような輩がいるだろうか。
答えは否である。
これを回避するには、待ち合わせの時点でリリアがナンパされるのを待つという選択が正しかった。
だがその時点の私にとっての本命はスリ事件ないしは誘拐未遂事件だったので、ナンパを待つよりリリアを待たせないことを選択した。
こうなることは予測不能であり、決して責められる選択ではないだろう。
長々言い訳をしたが、要は失策だった。
過ぎたことをくよくよとしても仕方がない。せいぜい楽しくデートをすることにしよう。
スリ関係のいざこざがなくなるのであれば、時間に余裕も出来るはず。
予定通り通りを冷やかして、気になっていたカフェでおいしいケーキをアテにコーヒーでも飲もう。
活動報告に、興味本位のアンケートを置きました。
もしお時間ある方はぜひ、覗いてみて下さい。