14.羽のように軽い
「おい、いたぞ!」
いらぬ心配をしていると、男の野太い声がした。振り向くと、50mほど後方に身なりの悪い男の姿がある。
先ほどのごろつき、もとい人攫いだ。
「お兄様!」
「うん!」
私が呼ぶと、お兄様はすぐさま私の背に負ぶさった。
「クリストファーも、早く」
私はしゃがんだまま、クリストファーに向かって両手を広げるが、彼は動かない。
のんびりしている余裕はないのだが。
「失礼」
仕方がないので、一言断ってから彼の膝の裏に腕を差し込み、持ち上げる。
人形を抱っこする腹話術師のような形だ。
ひょいと抱き上げれば、なんということだ。
「羽のように軽い……」
「ふぇっ!?」
思わず呟いた私に、クリストファーはまん丸に見開いた目を向ける。
ふわふわした癖のあるストロベリーブロンドが、わなわなと揺れていた。
「しっかり掴まっているんだよ」
「あ、あの」
「クリス、口を閉じていないと舌を噛むよ」
慣れた様子で私の首に腕を回したお兄様が、クリストファーに忠告する。彼がきゅっと口を真一文字にしたのを確認して、私は地面を蹴った。
お兄様はさすがに羽のように軽いとは言わないが、ごろつきを撒く程度、軽く走れば十分なので造作もない。
お兄様はよくお父様と出かけているだけあって、城下街の地理に明るい。
地図代わりに連れ出して、街を案内してもらうこともあるくらいだ。もちろん、両親には秘密だが。
背中からの指示を受けながら、狭い路地を選んで駆け出した。
キリのよいところで切ろうとしたら、非常に短くなったので、本日2回更新します。
夜にも更新します。