30.順調に攻略してもらえている
「あ、あの! バートン様……こ、これ!」
教室でリリアから渡された招待状を見て、私は内心ガッツポーズをする。
教会で催される大々的なチャリティーイベント――通称教会イベントの招待状で、ゲーム内では好感度を上げたいキャラクターを選んで渡すものだ。
つまり、リリアは私の好感度を上げたいと思ってくれている。
順調である。順調に攻略してもらえている。
中間試験の結果も予定通りの位置につけられたし、文句なしだ。
ちなみに、今回の試験は見事アイザックが1位へと返り咲いた。
リリアからしてみれば当然の結果だろうが、実際のところはいろいろあったので感慨深いものがある。
……何故かロベルトが山籠もりしていた割にいい成績だったのは納得いかないが。
剣術大会からこっち、少し様子がおかしいのでまた「有能なロベルト」になっている可能性がある。
不安要素があるとすればそこだろう。
「せ、聖歌隊とか、楽団の演奏もありますし、ば、バザーとかもありますし、貴族の方も、たくさん見えますし、おすし」
最後の一言は聞かなかったことにした。
惜しい。何故今お寿司を我慢できなかったんだ。
どうしても言わなくてはいけなかったのか、それは。
「わ、わたしも一応、みんなの前で、お祈りを捧げることになっていて……ほんと、手をこう組んで、俯くだけなんですけど。も、もし、よろしければ」
「もちろん。私が君の誘いを断るはずないだろう?」
ちらちらと私の様子を窺うリリアの手から、招待状を受け取る。
ほっとしたように微笑みを見せるリリア。見るたびに感動を覚えるほど可愛らしいので本当にびっくりする。
主人公らしくしようと頑張っている姿ももちろん可愛いが、ふとしたときに見せる素の表情まで愛らしいので時々当てられそうになる。
うっかりすると顔が溶けそうだ。
招待状を眺めながら、ゲームの中の教会イベントを思い出す。
孤児院の子どもと戯れるロベルト、パイプオルガンを弾く殿下、バザーを手伝うクリストファー、神父のコスプレをするアイザック……いや、最後のは二次創作だった気がする。
「楽しみにしておくよ」
誰のイベントを横取りするかを考えながら、リリアに微笑みかけた。
……パイプオルガンは無理だな。一瞬で「弁償」の二文字が脳内を駆け巡った。