29.ナイスアシストだ
「で、では、何故、リリア嬢と一緒にいるのですか……?」
本気で分からないという様子で狼狽して問いかけてくるロベルト。
何故とは野暮だが、しかしナイスアシストだ。
ゲームの中では、悪役令嬢としてさんざん私がアシストしてやったのだから、たまにはいいだろう。
視界の隅にちらりとリリアを捉える。リリアはどこか期待に満ちたような瞳で、私を見上げていた。
「何故、か。改めて言われると、私にもうまく説明出来ないけれど……」
少し考えるような素振りで顎に手をやりながら、今度はしっかりとリリアに視線を向ける。
そして優しく、思わず溢れたとでも言うように、微笑んだ。
「不思議と、放っておけないんだよ。頑張り屋さんで一生懸命な彼女のことを。ついつい目で追ってしまうんだ」
そう、それはまるで、無自覚な好意の告白めいた言葉で。
「私は彼女に笑顔でいてほしいんだ」
リリアの頬が赤く染まり、瞳がきらきらと輝き出す。
この言葉に嘘はない。
主人公の行動は常に目を離すことなくチェックしているし、同じ世界に転生した同郷の女の子が楽しく笑顔で過ごせたら良いなぁと思う気持ちはある。
私の不利益にならない範囲で。
まぁ問題は嘘かまことかということではなく、私の方にこれが告白のように聞こえる言葉だという自覚が大いにあるところだと思うが。
「隊長……」
リリアと対照的に、私を呼ぶロベルトの表情は曇っていた。
迷っているような、縋るような目で私を見つめて、一歩距離を詰めてきた。
「た、隊長は、強い者よりも、弱い者が大切なのですか?」
「……騎士とは、そういうものだろう」
彼は、突然何を言い出すのだろうか。
リリアがいなければ叱りつけているところだ。こんな質問、騎士道以前の問題である。彼も当然、分かっているはずのことだ。
「か弱い者を守るのも、騎士の務めだ。私は君たちに、そう教えてきたつもりだったけれど」
「でも、……隊長の隣に並ぶために……俺は……」
「ロベルト」
彼の名前を呼ぶ。普段だったらしゃんと伸びるだろう彼の背筋は、そのままだ。
「君と私とは一緒に戦う仲間だ。国のため、王のため、そして国民を……弱き者を守るために戦う騎士だ。そういう意味では、君たちは十分、私の背中を預けるに足る存在だと思っている」
若草色の瞳が不安げに揺れている。そこに映る私は、彼を正面からまっすぐ見据えていた。
「そしてリリアは守るべき国民であり、この国にとって必要な聖女の素質を持つ女の子でもある」
ロベルトは、やがて苦しそうに私から目を逸らした。
いつもの彼とは違う元気のない様子に、私は内心首を捻る。いったい、何がどうしたというのだろう。
「私が君たちと共にあることと、リリアと共にあることは、両立するはずだ。違うか?」
「そう、ですね……」
ロベルトはそう頷きながらも、どこか納得していないように見える。
「その、はずなのですが……」
小さく呟いたロベルトは、それ以上は声をかけて来なかった。
なんと! ファンイラストを描いていただきました! やったー!
活動報告でご紹介しておりますので、ぜひご覧ください!