28.どうにも、話がかみ合っていない
さて、ゲームならば剣術大会のイベントはここで終わりになるのだが、現実はそうもいかない。
いかにお貴族様の学校といえど――いや、だからこそか?――学校行事のお片付けは生徒が行うものなのだ。
リリアと私、それにロベルトは倉庫に片づける荷物を運ぶことになった。
もちろん、リリアには重いものは持たせていない。
「ば、バートン様……きょ、今日の試合、すごくかっこよかったです」
歩きながら、リリアが私に話しかけてきた。
これは剣術大会のイベントで、主人公がロベルトに言う台詞だ。
「ありがとう」
「そうだろう! たい……バートン卿はとても格好良いんだ!」
私の返事に割り込むように、ロベルトが鼻息荒く言う。何故お前が自慢げなんだ?
「先ほどの試合の『斬鉄一閃』も素晴らしかった……強いことはもちろん、剣術に打ち込む真摯な姿勢、俺たちへの指導……どれをとっても理想的な教官だ。リリア嬢もぜひ訓練場に見学に来るといい」
「わ、わぁ! 行ってみたいです!」
勝手に私の技に名前を付けるな。
ぐいぐい来るロベルトに若干怯えながらも、リリアはきちんと主人公らしい台詞を返して見せた。頑張っているなぁ。
確かに、私の強さを見せるには訓練場に呼ぶのも悪くないかもしれない。部活のマネージャーのような感じだろうか。
タオルとはちみつレモンを差し入れに来るリリアを頭に思い浮かべたところで、自分が鬼軍曹だったことを思い出した。
いけない。せっかく学園ではナンパ系騎士様で通しているのに、これはちょっと、100年の恋も冷める可能性がある。
私は適当に笑いながら、「そのうちね」と返しておいた。ちなみに、お貴族様の「そのうち」は一生来ないものである。
私とリリアを見ていたロベルトが、ふと思いついたようにリリアに問いかける。
「そういえば、ずっと気になっていたんだが……リリア嬢はどんな武術を極めているんだ?」
「え?」
「見たところ、そこまで筋肉量があるとも思えない……合気道の類か? それとも、弓術等の遠距離型の武術だろうか?」
「え? あ、あの、特に……何も……?」
「何も?」
リリアが首を傾げながら返事をすると、ロベルトも怪訝そうな顔をする。
何を言っているんだ、こいつは。
全員頭にクエスチョンマークが浮かんでいる気がする。どうにも、話がかみ合っていないらしい。
不思議そうな顔をしたロベルトが立ち止まり、リリアから私に視線を移して、質問をぶつけてきた。
「た、隊長は……その者が強くなる見込みがあるからそうして目をかけているのではないのですか!?」
「え? 違うけれど……」
「え?」
「え?」
私とロベルトの「え?」が交互に響いた。
1日2回更新週間、無事完走しました! やったー!
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来週からは1日1回更新に戻りますが、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。