15.空気を読んでもらいたい
今日から1日2回更新週間開始です! 頑張ります!
「ところで」
殿下が妙にわざとらしい咳払いをして、私の背後を覗き込む。
「そちらの、ご令嬢は? きみが誰かといるなんて珍しいね」
まるで人を寂しいやつのように言わないでもらいたい。
学園内では単独行動を取ることが多かっただけである。
「ああ。彼女は……」
紹介しようとリリアの方を見ると、彼女はベンチでこちらを振り向いたままの状態で硬直していた。
その視線の先は、王太子殿下である。
そういえば、彼女は前に「王太子推し」とか口走っていたかもしれない。
まずい。これは非常にまずい。
完全に殿下の顔面の美しさにノックアウトされているようで、目の前で手をひらひら振っても反応がない。
何故帰ってきてしまったのだ、この王太子。帰ってくるにしろ、もう少し先でもよかったはずだ。
しかも何故、今日に限ってさらに顔の良さが引き立つ華美な正装で現れたのか。
空気を読んでもらいたい。
「リリア、りーりーあ」
「っふはひ!? な、ななん、何でしょう!?」
肩を叩きながら名前を呼ぶと、やっとこちらを見た。どうやら息まで止めていたらしい。
その顔は上気していて、私は事態が非常によろしくないことを理解する。
よし、ここはプランBだ。いや、何がプランAかは知らんけど。
「殿下、ご紹介します。彼女はリリア。私の恋人です」
満面の笑みで言い切った。
一瞬沈黙が訪れる。
「っどぅえ!?」
「ふふ、なんてね」
リリアが悲鳴とも何ともつかない声を上げた。
その反応に、私はおかしそうに笑って見せる。
「……面白い冗談だね」
リリアを見ていた殿下が、ふっと冷笑しながら私に言った。いつも以上に貼り付けた笑顔である。
なお、この場合の「面白い冗談だね」は、貴族用語で「くだらない嘘をやめろ」の意味である。
いや、別に殿下を騙せなくてもいいのだ。これでリリアの意識がこちらに向きさえすれば、成功である。
私は殿下の冷ややかな視線を受けて、軽く肩を竦めた。そして今度はきちんとリリアを紹介する。
「リリアは聖女の力に目覚めたそうで、この春から転入して来たんです。リリア、こちらはエドワード殿下だ……なんて、紹介するまでもなかったかな」
「お、王太子殿下!」
リリアは慌てた様子ながらも、きちんと淑女の礼をしてみせた。
その様子に、不覚にもじーんときてしまう。
少し前の彼女なら、王太子を前にしてスライディング土下座をかましていてもおかしくない。
特訓の成果が出ていてとても嬉しい。
「お、おは、お初に、お目にかかります。聖女として、この学園に転入させていただくことになりました。り、リリア・ダグラスと申しましゅ!」
「あ……ああ」
噛んでしまったが、挨拶も及第点だ。私は心の中でリリアにスタンディングオベーションを贈る。
どこか上の空の様子だった殿下は、目の前で頭を垂れるリリアに視線を向けた。