魔女の処刑~守護竜の思い~
魔女の処刑の守護竜の話です。
とある国は、守護竜と魔女に守られていた。
はるか昔より、その国を守り続けた守護竜と魔女。
真っ白な鱗に覆われた神秘的な白竜——守護竜。
美しき黒髪を持つ魔法を使う女性――魔女。
守護竜と魔女は、友人たちが作ると決めた国を守護していた。友人が命を失うまでの間――、友人たちとのんびりと過ごしながら笑いあいながら守護竜と魔女はこの国を守り続けていた。
「ありがとう、ユーア、ドアンローザ」
「二人とも大事な友達だわ。誇りだわ。ありがとう」
友人たちは、国を守護してくれている守護竜と魔女の事を慈しんでいた。誇りだと思い、尊重していた。
守護竜と魔女は、国を作った友人たちと笑いあうのが好きだった。
普通という枠組みから外れている守護竜と魔女のことを受け入れた。守護竜と魔女はそれが嬉しくて、その空間が心地よくて、彼らがなくなった後もこの国を守ることにした。
*
守護竜はよく覚えている。
魔女と初めて会った日の事を。
強い力を持つが故に、疎まれていた守護竜。
守護竜は独りだったけれども、寂しさは感じていなかった。
ただ守護竜は生きていた。何も考えることもなく、ただ自分の思うままに自由気ままに生きていた。
「竜?」
不思議そうな顔をして自身を見つめる魔女に、守護竜は驚いたものだ。
自身のことを恐れることなく見る人など初めてだった。好奇心に満ちた目を浮かべている魔女は、そのころはまだ幼さが残っていた。
人の街で暮らしているとは思えないほどに、汚れ、ボロボロの服をきた少女。まだ少女だった魔女と、守護竜はともに過ごすことになった。
無邪気に守護竜の名を呼ぶ魔女と過ごすことが守護竜にとっては心地が良かった。
「ねぇ、ドアンローザ」
優しい声で守護竜の名を魔女は呼び、守護竜もまた魔女を慈しんだ。
そして長い時を経た後に、守護竜と魔女は、国を作ることになる友人たちと出会った。
守護竜は彼らのことを警戒していた。人と違うが故に、人に傷つけられた魔女を人と関わらせたくなかった。
魔女の事を慈しみ、魔女の事を思っている守護竜は魔女が傷つけられないようにしたかった。
けれど、
「お前たちは大切な友人だ」
「楽しいわ。二人といると」
人間でありながらも守護竜と魔女ににこやかに笑いかける二人のことを守護竜も友人と認めた。
その建国の人間がなくなってからも、守護竜と魔女は共にそこを守ることにした。
この国を守り続けて、長い時が経過する。
いついかなる時も、守護竜は魔女と共に居た。ただずっと魔女の傍に居て、この国を守り続けていた。
守護竜は、国の人々との距離が開いて行っていることに気づいていた。
最初の頃、この国が出来た頃は、守護竜と魔女と国の距離は近かった。けれども徐々に開いていった。
守護竜はそれでもいいかと思っていた。
守護竜は国を守っていた。それは国を大切に思っていたから、友人の国だからということはあるけれども――、一番の理由は魔女がこの国を守ろうとしているからだった。
守護竜は魔女が望むから、魔女が守ろうとするから――だからこそ、魔女と一緒にこの国を守り続けていた。
守護竜は魔女の事を心から大切に思っていて、守護竜にとってみれば魔女と言う存在は一番大切な存在だった。
長い間、守護竜と魔女はその国に留まり、その国を守った。
守護竜と魔女が守り続けたからこそ、その国は栄え続けた。平和な国を作ったのは守護竜と魔女であり、守護竜も魔女も国を大切に思ってた。
――長い長い時が過ぎた。
魔女は圧倒的な、巨大すぎる魔力量を持っていた。だからこそ長い寿命を持ち合わせていた。それはもう、守護竜よりもずっと長い寿命だった。
――守護竜は自分の命が尽きることを知った。
その時に真っ先に思い至るのはやはり魔女のことだった。
いつしか少女から、女性へと成長した魔女。
その魔女に対する気持ちも、徐々に変わっていった。子供を見ているような気持から、徐々に変化した気持ち。
守護竜は魔女をいとおしく思っていた。
たった一人の、大切な女性。ずっとずっと一緒に過ごしていた大切な存在。
「俺はもう長くはない」
そんな魔女に、こんなことを告げなければならないことがつらかった。
そんな魔女を、置いて逝かなければならないことがつらかった。
「……寿命なの?」
悲しそうな顔の魔女を見て、胸が痛んだ。
けれど、こんなこと魔女にしか頼めなかった。
それに大切な魔女以外には、守護竜を殺すことなど出来なかったのだ。
「ああ。——ずっと一緒に居たお前だから、頼みがある」
「頼み?」
「竜は最期に暴れてしまう。——暴れて、この国を壊したくない」
ああ、魔女が悲しんでいる。
こんな魔女を置いて逝かなければならない。おいていきたくはないけれど、寿命には守護竜も勝てない。
「私に、殺してほしいのね」
「ああ。一思いに殺してくれ。そしたら俺はこの国を壊したりしなくて済む」
こんなことを思うのはおかしいかもしれない、とそんな風に思うが。それでも守護竜は殺されるのならば、魔女に殺されたいとそんな風に思っていた。
そして、その時がやってくる。
美しい涙を流しながら、魔女は言う。
「……すまない。こんなことを頼むことになって。でもユーア。お前にしか頼めない」
「……ええ。分かっているわ。ドアンローザ」
「――ごめん。ユーア。ありがとう」
最期に見た魔女が何処までも美しくて、なんて綺麗なんだろうと見惚れながら守護竜は生き途絶えた。
*
命を失った後、命が何処に向かうのか。それを守護竜は知らない。
例え消えてしまったとしても、魔女を守れたらいい。そんな風に考えていたら気づけば、真っ白な空間に守護竜はいた。
――とはいえ、巨大な竜の体でというわけではない。
自分がそういう場所にいること、そして体を失っていることに不思議に思いながらも守護竜は穏やかな時を過ごしていた。
そして考えるのは、魔女はどうしているだろうか。元気にしているだろうかということだった。
どうか、魔女が幸せに生きますように。
ただそれだけを願っていた。だけど――。
『ごめんなさい』
なんだ、貴様は。
『……私はこの世界をつかさどる神の一柱です』
神か。何故謝るんだ。
『貴方の大切な魔女が処刑されます』
は?
『本当にごめんなさい。私が余計なことをしてしまいました』
ある日現れた美しい女性は、土下座する勢いで守護竜に謝った。
守護竜は訳が分からなかった。
そして魔女が処刑されるという言葉に守護竜は思わず声をあげてしまう。
愛しい魔女が、慈しんでいた魔女が処刑されるなどと許されることではない。
思わず怒気を含んだ守護竜に、神を名乗る女性は言う。
『ごめんなさい。私は国を守護してきた貴方と魔女を助けたかった。だから聖女を遣わしました。けれど、聖女は神託を間違えました。あの国は神託を勘違いしました。——魔女は狂い、守護竜を殺したとそんな風に考えてしまったのです。そして魔女は処刑されることになってしまいました』
なんと愚かな。あの国の人間がそのようなことを……。誰よりも国を大切にしていた魔女に、なんて恥知らずな。
『そして貴方の大切な魔女は、諦めてしまいました。国のためならいいかと処刑されることを選んだようです』
……ユーアは、優しい子だから。
守護竜にとって魔女——ユーアは心優しい女性だった。国を慈しんでいたからこそ、そんな選択をすることが分かる。
ああ、何故。
あんなに国を思って、あんなに国を守っていたユーアを。
どうして殺すのだ。
そんな怒りの気持ちがわいてくるものの、この真っ白な空間の中だと、その怒気も徐々に静まっていく。
この空間にはそんな効能があるのかもしれない。
『——貴方の大切な魔女は此処に来ます。本当にごめんなさい。償います』
……それはどういう意味だ。
『貴方は魔女を愛しているのでしょう? 人と竜という種族の差からその気持ちを言わなかったでしょうけど』
神はそう言って笑った。
確かに守護竜は魔女の事を愛していた。いつしか、愛しいという感情を彼女に抱いていた。それでも、人と竜という種族の差は大きく、守護竜はそんな気持ちを魔女に告げることもなかった。
ただ魔女と一緒にいれるだけでも幸せで、過ごす時間があまりにも穏やかで、その日々に満足していたからというのもあるだろう。
『私は貴方と魔女の幸せを願っているのです』
穏やかに笑ったその女性は、それだけいって去っていった。
その真っ白な空間の中に留まる守護竜は、魔女のことだけを考えている。
何故魔女が処刑されなければならないのかという怒り。
魔女に幸せになってほしいと願う気持ち。
魔女と過ごした穏やかで幸せだった日々のこと。
その不思議な空間だからこそ、守護竜は怒りで暴れることはなかった。
ただ魔女のことを考えて過ごしていれば、その時が来た。
白い光のようなものがそこにやってくる。
それが魔女だということが守護竜には分かった。
――ドアンローザ!! 貴方なの!?
そんな声をあげる魔女に、守護竜はまた会えた嬉しさと、魔女が死んでしまった事実に胸を痛ませた。
そこにあの女性が現れる。
『本当にごめんなさい。聖女を遣わしたせいであのようなことになってしまい……、私は聖女に魔女の手伝いをしてほしかったのです。だけれど、聖女は間違えてしまいました。本当にごめんなさい』
女性はそう言って頭を下げる。
ただ魔女は守護竜にまた会えると思っていなかったので、守護竜に会えただけでも嬉しかった。
そして守護竜が傍にいるというだけで幸せで、神が告げている言葉など言ってしまえばどうでもよかった。
『貴方達に償いをします』
償い? またドアンローザとまた離れるのは嫌よ。
『それは安心してください。貴方達が生きて幸せになれるように、そんな償いです』
神の言葉の意味を問いかける前に――、神が何かをした。
それと同時に守護竜と魔女の意識は薄れた。
*
おぎゃあおぎゃあ。
赤子の声がする。小さな赤ん坊が泣いている。
守護竜はその泣き声が聞こえた時、驚いた。自分のような竜の傍に赤ん坊がいるのは危険だからだ。
だけど、次の瞬間、その泣いている赤子が、自分自身だと守護竜は気づいた。
自分が人間の子供になっていることに、守護竜は驚いた。
それと同時にあの神を名乗る女性の言っていた意味が解る。
――生きて幸せになってほしいと、あの女性は言っていた。
それはおそらく、また生まれなおさせるからそして幸せになってくれという意味だろうと守護竜は捉えた。
なら、魔女だってきっとどこかに生まれ落ちているはずだろう。
そう守護竜は理解する。
――ユーアにまた会おう。
――そして、またユーアと共にあろう。
そんな決意をして、守護竜は「おぎゃああ」とないた。
魔女 ユーア
人間として生まれたが、魔力量から長命種。寧ろ寿命がないみたいな人。
守護竜の事を大切に思っていた。国も大切だった。
守護竜に頼まれ、手を下した。そんな中で悪とされ、もういいかと処刑を受け入れた人。
神様に転生をさせられる。何処にいるかは不明。
守護竜 ドアンローザ
長く生きていた真っ白な竜。長命種だったが、寿命には勝てない。
魔女のことは大切に思っていた。国も大切にしている。
魔女に頼んで、命を散らしてもらった。
神に転生をしてもらい、人の子として生まれ落ちる。目標はユーアを探すこと。
神様
魔女を助けるために聖女を遣わしたつもりだったが、聖女の勘違いと国の思い込みにより魔女が処刑されてしまった。
そのため償いとして転生を実行した。