最速討伐2
ステータスボードを穴が空くほど見ていた二人は
とりあえず現実のことは気にせず今を楽しもうと考えていた。
「一」
「なに?零」
「マラビラス森林に行くぞ」
「そうだね、どんどん探検しに行こう!」
そうして二人は一旦、マオボヌの町に入った。
オートラス草原で狩りをしていた時間は3時間程度だったようで、まだ陽は明るかった。
この世界の時間のは現実世界と同じだと説明書に書いてあった。
つまり、現実世界では昼の3時だということだ。
町を歩いていると俺がログインした時と余り変化はなかった。
しいて言えばプレイヤーたちが露店商を見て周り、買い食いをしていた。
たしか、感覚は現実世界と変わらないとベータテストプレイヤーが言っていたので味覚も変わっていないのだろう。
「また今度、食べ歩きしてみるか」
「ん?零なんか言った?」
「いや、なにも」
そんな町を東に抜け、門を潜ると見たことのないの大木が生い茂り、森を形成している光景が目に入った。
「うぉー!大きいなぁ!なんだこの木!見たことないよ!ヤバスギィー!最高だな!なんて日だっ!ワッショーイ!」
そう言えば一はマラビラス森林を見たいと言っていたが、流石に最後の方は喜び方がおかしいだろ。
頭のネジが外れた一は無視し、早速、森林に入ることにした。
森林に入ると、大木が陽の光を遮っているようで、夜と同じぐらいの暗さだった。
ところどころから射し込む光があったので歩くのはそこまで苦ではなかった。
少し歩みを進めていると赤色のウルフと遭遇した。
[レッドウルフ]
と赤色のウルフの頭上に表示されていた。
俺はそのレッドウルフを狩ろうと刀に手をかけた
するとレッドウルフは口の中を光らせていた。
いや、あれは燃えてるようだった。
そしてレッドウルフが口を大きく開けた途端その燃えていた口内から火の玉が飛び出してきた。
だいたい球速100kmぐらいだったので、すんなりと躱すことができた。
その火の玉が俺の後ろの大木に当たり、当たった部分の大木が炭になっていた。
もう一度レッドウルフが口の中を燃やしていたので火の玉を飛ばされる前に首を斬り落とした。
「レッドウルフって火の玉を飛ばせるんだね。ファンタジーだね!」
「そうだな。まるでRPG見たいなモンスターだった」
「もしかするとレッドウルフ100匹討伐とかでファイアーボール覚えたりできるんじゃない?」
「その可能性はあるな。時間もあるし、やってみるか」
「二人でいたら100匹になかなか、ならないから別行動で討伐にしよう」
「おっけー、制限時間は?」
「5時までで、狩り終わったらマオボヌの町の東門集合で」
「じゃあ、どっちが速く狩り終わるか勝負しようよ!」
「いいぞ。」
そうして二人は各自レッドウルフ100匹討伐するため森の中を駆けた。
零は順調にレッドウルフを狩っていた。
「これで97匹目」
残りあと3匹といったところで体長6M以上はあろうかというぐらいの巨大な黒い熊らしき生物と遭遇した。
「グレーダーウルフより一回りデカイな」
その熊はこっちを見ながらダラダラと凶悪な口から涎を溢していた。
「マラビラスベアーか、こいつは俺を餌さだと思ってるのか」
熊の頭上にマラビラスベアーと表示されていた。
零の身長は1.7M、対して、この熊は6M。
普通の少年ならここで怖じ気づくだろう。
だが、この零という少年は普通ではなかった。
なぜなら、この危機的状況にも関わらずニヤッと笑い、むしろ、この時を待ちわびていたかのような、そんな顔をしていた。
そして
「来いよ」
さっきまで本当に幼馴染と会話をしていたのか?と、別人を窺わせるような、腹の底から殺気の籠った低い声を出した。
熊はその殺気の籠った声に反応し、零に勢いよく襲いかかった。
「ボォガォォォォ!」
その熊の突進は異常に速かった。
熊は高速の突進に会わせて持ち前の長さ1M以上ある鉤爪を上から振りかざしてきた。
その攻撃を零は横に大きく飛び退いてなんとか回避した。
全神経を熊に集中させなければ回避できない。いや、回避できてはいなかった。
零の右肩に鉤爪が擦っていた。
零の右肩から血が噴き出す。
「っっ!ぐっ!」
痛い。
今までこの世界で1度も傷を負ったことがなかった零は初めて恐怖した。
グレーダーウルフの時はただの一方的な狩りで俺が狩る側で相手が狩られる側。
そう思っていた。
しかし、今、相手が一方的に狩る側で俺が狩られる側なのだと。
弱肉強食の世界。
これこそが生物の生存競争なのだと。
零はまた笑っていた。そして熊がこちらを向き熊も嗤っていた、零にはそう見えた。
零は極限までに感覚を研ぎ澄まし、次の一撃こそは完璧に回避してやる。
と、己を奮起させた。
また熊は高速で突進し、鉤爪を振りかざしてきた。
極限までに感覚が研ぎ澄まされた零には、その動きがさっきとはまるで比べ物にならないぐらいスローに見えた。
零は熊の攻撃を横に大きく避け、そして熊に向かって全力で地を蹴った。
熊は零の動きを捉えることができなかった。
熊が獲物はどこだ?と思った瞬間首筋に衝撃が走った。
「「「ガィィン」」」
鈍い音が周囲に鳴り響いた
「ッチ………硬い」
攻撃を加え熊から距離をとった零は少し刃こぼれした刀を見てそう言った。
今の攻撃でジンジンと手が痺れた。
熊は零の動作を見て自分が攻撃されたのだと理解し、そして憤った。
熊はすこし離れたその距離から零に向かって両手の鉤爪をクロスさせるように上から振り下ろした。
すると、零に向かって暴風が吹き荒れ零の胴に鉤爪で切り刻まれたような傷口ができた。
「っぐほっっぁっ!」
零の傷口から血が大量に噴き出す。
零は堪らず刀を持っていない手で胸を抱え膝をついて蹲った。
弱りきった獲物を、熊は見て嗤った。
漸く捕食できると思ったのか熊は涎をダラダラと溢し始めた。
そして、熊が突進し、鉤爪を零に振りかざした。
「グォォォォオァァァァァ」
と喚き声を上げたのは熊だった
熊を見ると熊の目には零の刀が突き刺さっていた。
そして零は突き刺した刀を熊の内部から切り裂くように振り下ろした。
熊はその瞬間また喚き声を上げ
絶命した。