メルボルとの約束
「おはよう蓮弥」
いつもと変わらず爽やかな笑顔で直輝は俺に声をかけてきた。
「おはよう直輝」
「そういえばNLGの運営が今日の12時に新機能追加するって」
「あぁBASだろ?戦闘のシステム的アシストをしてくれるっていう」
「そう、それ!」
「どんな感じなのかはまだ分からないが期待はしてる」
「楽しみだね」
NLGの会話を直輝としているうちに学校に着いた。教室に入ると相変わらずNLGのことで騒ぎ立てていた。
自分の席に着くとタッチパネルを使い今日の授業の内容を確認する。周りのクラスメイトがNLGの話をしていたので少し耳を傾けてみた。
「そういえば北にでっかい壁みたいなのあるじゃん?あそこダンジョンになってるらしいぞ?」
「ヌベラスの塔だろ?」
「そうそうそれそれ!」
「そういえばまだ行ってなかったな、で?どんなモンスターがいるんだ?」
「RPGゲームとかでよく出てくるスライムとかゴブリンがいるみたいだぞ」
「へぇーウルフより強いのか?」
「スライムは魔法のファイアーボール撃てば倒せるっぽいからウルフよりは弱いんじゃないか?ゴブリンはウルフといい勝負とか」
「俺まだウルフ倒せてないんだよなー」
「えーマジかよ」
「あの素早い動きで魔法躱されるとキツイ」
「俺は剣で三回切ったらウルフのHPを削れるからそれで何回も戦ってレベル上げして今レベル2だぜ?」
「もうレベル2かよ」
クラスの男二人がそんな会話をしているとその後ろから二人の肩に腕を回して会話に乗っかるように入っていく一人の男がいた。
「なんだなんだ?お前らまだレベル2なのか?俺はレベル3だぜ?」
「わっ!橋本君かびっくりした」
「え!?もうレベル3になったの?すごいね!」
「ま、才能ってやつ?俺にかかればこれぐらい楽勝楽勝」
「橋本君今度一緒にプレイしない?」
「ん?どーしよっかなぁー?お前らどーしても一緒にプレイしたいって言うんだったらやってやらないこともないけどー?」
「お願いします!橋本様!」
「一緒にプレイしてください橋本様!」
「ふっふっふ、仕方ねぇーな!一緒にプレイしてやるよ!」
「あざす!」
「さすが橋本君!懐の広い御方だ!」
といった会話をしていた。後半部分は特にどうでもいい会話だったが前半部分の北のヌベラスの塔がダンジョンでスライムやゴブリンが居ることが分かったのはいい収穫だ。今日、メルボルの所に刀を受け取りに行ってから試し切りとして行くのもアリだな。そしてモンスターが何か魔法を使っていたらその魔法取得のために倒しまくるのもいいな。直輝は今日どうするのか後で聞いてみるか。そんな風に今日の計画を立てているとチャイムが鳴り教室に担任の山下先生が入ってきた。
それと同じくしてクラスの生徒たちが自分の席へと座っていき、今日の学校での1日が始まるのだった。
学校が終わり直輝とメルボルの店で6時に落ち合う約束をした後、別れ帰宅すると俺は早速NLGの世界へとログインした。
昨日、ログアウトしたマラビラス森林の中に出た。ログインすると運営から
《BAS機能を導入致しました。》
《BAS機能をONにするならばステータスボードの{設定}からONを選択してください。》
「とりあえず、ONにして試してみるか」
{設定}からONを選択し、刀を軽く振ってみることにした。すると体が勝手に動くような感覚があり気づくと刀が勝手に振り下ろされていた。
「確かに、この刀の軌道は俺が振ろうと考えていた軌道だが、体が勝手に動くのは変な感覚だな」
今度は横に刀を振ってみたが、同じように体が勝手に動くような感覚があった。
「少し試してみるか」
ONとOFFの両方を比べてみた結果、ONの方は確かに戦闘をする時、主に刀を振ったり攻撃を避けたりする時などはだいたいイメージをした通りの行動ができた。が、体が勝手に動く、だいたいイメージをした通りに動くというだけで、全力の動きをしようとしたときにはアシストが遅くなっていたり、針の穴に糸を通す様な正確な動きは難しいようだ。予めインプットされた攻撃行動、回避行動などがあり、プレイヤーが行動しようとした時にインプットされた動きに一番近いものをシステムが選んでいるような気がした。あくまで予想だが。システム的な観点で言ったらそんなところなんだろう。その予めインプットされた動きが数多くあるからこそイメージと似た大まかな動きができるんだろうな。戦闘の未経験者からしたらイメージ通り動いているように感じるんだろうが、
逆に戦い慣れしている人からすると動きづらいという印象なんだろう。
BASをOFFにし6時まで時間があったので昨日マラビラスベアーを狩りまくって取得した【風刃】を使う練習をすることにした。両手で刀の柄を握り心臓辺りに意識を向け【風刃】を使うようにイメージをする。そして心臓辺りから腕にかけて熱いものが流れていくのを感じ、マラビラスベアーの様に風の刃を飛ばすイメージをする。
『風刃!』
刀を上から下へと振り下ろしながら頭の中でそう言葉を発した。
すると一本の透明な刃が刀から飛び出したかの如く木に向かって飛んでいく。が途中で透明な刃は威力を失い、消えていった。
「ふむ、まずは成功したな。」
威力は魔力の込める量が少なかったから弱くなってしまったのだろう。
「しかし、火玉は体からしか出せなかったが、【風刃】は刀からも出せるのか」
失敗するだろうと思いつつもマラビラスベアーは鉤爪から風を飛ばしていたこともあり【風刃】は刀から斬撃を飛ばすようにイメージをしてみた。結果斬撃を飛ばすことができたのでラッキーだった。
「今度は、魔力の込める量を増やしてやってみるか」
【火玉】を使い魔力を消費しつつ全回復してからまた使うということをその都度行っていたので魔力量は116と少し増えた。魔力を回復させるMPポーションがあればいいんだがあるだろうか?町に戻った時にでも探してみるか。とりあえず今は【風刃】を使い色々と試すことにした。
【風刃】のことは色々と分かったので町に戻りMPポーションを探すことにした。探している間にメルボルと直輝との待ち合わせ時間になるだろうと思いつつ町を歩いていた。
「やはり最初の町だから人が多いな。さっさと次の町に行った方がいいだろうか?」
そんなことを呟きつつ露店商のタレの効いたラビ肉を買い食いしながら歩く。このゲームの隠しパラメーターかどうだか分からないが現実と同じようにこの世界に居るだけで腹が減るようになっている。何か食べなければ空腹状態から徐々に体力が削られていく。これはβテストの時かららしくステータスの名前の隣に【状態異常:空腹】となるらしい。腹が減ったと感じたら何か食べないとそうなってしまうようだ。だから今、こうして一串500円のラビ肉を食べている。少し高い気もするが旨いから良しとしよう。何の肉なのか売っていた露店商のおじさんに聞いた所、ラビットの肉らしい。
「お、薬屋あった」
さっきの露店商のおじさんに薬屋の場所を聞きラビ肉を食べつつ歩いていると薬屋を発見した。
看板には「薬屋」と書いてあったから分かりやすかった。店内に入るとドアの向かいにはカウンターがあり、カウンターの下のガラスケースには様々な形のガラス瓶のポーションが入っていた。
右から順に
[体力回復ポーションLv1]緑1000円
[体力回復ポーションLv2]緑5000円
[体力回復ポーションLv3]緑10000円
[体力回復ポーションLv4]緑50000円
[体力回復ポーションLv5]緑80000円
[魔力回復ポーションLv1]赤1000円
[魔力回復ポーションLv2]赤5000円
[魔力回復ポーションLv3]赤10000円
[魔力回復ポーションLv4]赤50000円
[魔力回復ポーションLv5]赤80000円
[毒消しLv1]紫10000円
[毒消しLv2]紫50000円
[毒消しLv3]紫80000円
と並んでいた。
ポーションLv1からLv5まであるのか毒消しはLv3か、毒消しがあるってことは毒を持つモンスターが居るということか。オートラス草原とマラビラス森林ではそんなモンスターがいるという情報は聞いていないから、ボレス道か北のヌベラスの塔か?あそこはダンジョンらしいから毒を持っているモンスターも居るかもしれないな。
それにしてもLv1からLv5までの違いが分からないな色は同じ色にしか見えないし、やはり値段もそれだけ違うということは効果が大幅に違ってくるということか。聞いてみるか。
「すみません、体力回復ポーションのLv1とかLv5とかの違いが分からないのですが、どういった違いがあるのですか?」
カウンターの中に居る丸眼鏡をかけたお婆さんにそう聞いてみた。
「またその質問か。仕方ないの、Lv1は最大体力の1割の回復Lv2は最大体力の2割の回復といった違いじゃよ。魔力回復ポーションも同じじゃ。毒消しはLv1がLv1の毒を50%の確率で消せる。Lv2はLv1の毒を80%の確率で消せてLv2の毒を50%の確率で消せる。Lv3はLv1の毒を100%消せてLv2の毒を80%消せてLv3の毒を50%といった具合じゃの、ただ、ポーションのLvより上の毒を消すことは出来ん。」
また、ということは俺よりも前に誰か同じ質問をしたのだろうな。それにしても一番高いポーションで最大体力の5割か、マラビラスベアーと初めて戦闘し、傷を負った時、体がダルく中々動けなかったが少しすると和らぎ動けるまでにはなった傷は痛かったが。その時以外で傷を負ったことは無かったため、まだ可能性の範疇だが魔力と同じように体力も時間経過と共に少しずつ回復していたのでは?ステータスを見ていなかったことが悔やまれるな。それにしてもマラビラスベアーの鉤爪からの【風刃】で体がほぼ動けなかった程だレベルアップして体力が増えてなければ即死だったかもしれない。回復はステータス上の回復だけなのだろうか?切り落とされた腕などは生えてくるのだろうか?さすがにそれをこのお婆さんに聞くのは躊躇われるな。聞くか?どうする?聞かぬは一生の恥、聞くは一時の恥とも言うから聞いてみるか。最悪、このお婆さんはNPCだ。好感度パラメーターなんかもあるんだろうとは予想は立つが今、聞いておかないと後々後悔するかもしれないからな。
「なるほど、ありがとうございます。体力回復ポーションなのですが、切り落とされた腕なども回復できるのでしょうか?」
「あんた何を言っとるんだい、切り落とされた腕が回復できる訳なかろう。体力回復ポーションは疲れた時に飲むと疲れがとれるとか、擦り傷切り傷が治るとかそんぐらいじゃ。そんなことできるのは神官や聖女様だけじゃ。」
お婆さんは奇異な物を見るような目でこちらを見ながらそう言ってきた。
しかし、いい情報が手に入った。やはり聞きたいことはその時に聞かねば損をするな。
神官と聖女?神官は僧侶の上位互換だろうか?それともNPCのみの職業なんだろうか?分からないな。
「聖女様はどこに居られるのか知っていますか?」
「いや、知らんの。わしも噂で聖女様のことを耳にするぐらいじゃ」
「そうですか。すみません。変なことを聞いてしまって。」
「いや、プレイヤーの奴は皆変な奴らだからの」
そうして俺は薬屋から出ることにした。
ステータスボードを開いて時刻を確認すると丁度待ち合わせの時間に近かったのでメルボルの店に行くことにした。
路地裏に入り道を右へ左へと数回曲がったところにメルボルの店を発見。そのままドアを開け中に入った。
どうやら俺が最後だったらしく二人はカウンター越しに会話をしていたが俺が入って来たと同時に二人ともこちらに目を向けメルボルが声をかけてきた。
「お!零!久しぶりだな!刀できてるぞ」
「あぁ久しぶりだなメルボル。」
「僕はもう弓貰ったよ。ホラこれ」
一がそう声をかけながら俺に新たな弓を見せて来た。グレーダーウルフの牙を使ったその弓は前回一が使っていた弓よりも大きかった。
「長弓か弦はどうやって作ったんだ?」
「あっ、弦はね初期装備の弓の弦を使ってるんだよ。このゲームでは取り外した弦を新たな弓につけるとその形に合わせて変化するんだよ」
「すごいな、それは」
「ただ、初期装備の弦なだけあってあんまり良い弦じゃないみたい。」
「弦の素材は何からとれるんだろうか?」
「さぁ?なんだろうね。それっぽいのがドロップしたらまたメルボルの所に持って来るね」
「うん、いいけど今のままでは弦は作れないかもしれない」
「え!?そうなの?」
「鍛冶士は剣とかの武器は作れるんだけどね糸とか鎚を使わないとなると作れなくて、そっち系のスキルが居るかもしれない。実際スキル道場には裁縫だとか糸生成だとかのスキルがあったし、それをとればいけるかも。お金足りないけど」
「スキル道場?」
「あっ、零はまだ知らないんだ」
「あぁ、初めて聞いたな」
「スキル道場っていうのとスキル獲得機能っていうのが今日の12時に追加されたんだよ」
「BASだけじゃないのか」
「そうなんだよ、スキルも取得できるようになったんだよ」
「で、そのスキル道場とかスキル獲得機能ってのはどんなものなんだ?」
「スキル道場は最初にログインしたときにあった大きな会館の隣にあって入ったらそこに居るNPCがスキルを教えてくれるんだよ。
スキル獲得機能はステータスボードから色んな項目の一番下にあってそれを押したらスキルが表示されるね。
スキル道場のスキルはスキル獲得機能とは覚えれるスキルが違うみたいで、スキル獲得機能には無いスキルをスキル道場で覚えれて、スキル道場には無いスキルをスキル獲得機能で覚えれるって感じで、スキル道場の方がスキルのランクが高くてお金も高いね。」
「そうなんだよ!零!スキルすごいんだよ!」
「一はスキル獲ったのか?」
「うん!【索敵】を獲ったよ」
「敵を探すスキルか」
「うん、魔力を使った分だけ索敵範囲が広がるんだよね」
「そうか。スキルと言えば、レッドウルフの件予想通りだったぞ」
「えっ!!?ほんとに?」
「あぁ。200で【夜目】500で【火玉】だった」
「結構な数だね。性能の方はどう?」
「【索敵】と同じように魔力を使った分だけ威力も上がる【夜目】は魔力無しで効果が発揮される」
「そうなんだ。僕も頑張って獲るよ!」
「お二人ともレッドウルフの件って?なんなの?」
「レッドウルフは口からファイアーボールみたいなものを出して攻撃してくるんだが、それを取得できないかと思ってレッドウルフを狩ってたんだ。」
「え?そんなことやってたんだ。僕は鍛冶士だからレッドウルフ?は倒せないから聞いてもあまり意味が無かったね」
「このことは秘密にしておいてくれ」
「もちろん秘密にしておくよ、それよりはいこれ刀、もとい刃だ」
メルボルがそう言いながらカウンターに刃をアイテムボックスから取り出した。
「刀も弓と同じで柄と鞘は造れなかったか」
「そうなんだよ。これもたぶん【加工】っていうスキルが要るかもしれない。けど、弓も弦を取り替えれたように刀もできるんじゃないかな?」
そうメルボルが言ったので俺は初期装備の刀を鞘から抜き、カウンターにある刃を手に取った。すると目前に
《刃を取り替えますか?》【はい】【いいえ】
と表示されたので【はい】を押してみた。すると初期装備の刃がメルボルが造った刃の置いてあるカウンターの位置と入れ替わった。
「すごいなこれは」
「良かった。予想通り刃だけ入れ替えることができたみたいだね」
「そうみたいだ」
俺はメルボルが造った刃に光を反射させながら眺めた。
「零と一はこの後どうするんだい?」
「俺はスキル道場に行こうと思う」
「僕はレッドウルフを狩ろうかな?」
「そうか、じゃあ僕は次に依頼された時に良いものが造れるように腕を磨いておくよ!」
「その時はよろしく頼む。今日はありがとう」
「メルボルも頑張ってね!弓ありがとう」
そうして俺と一はメルボルの店を出た。




