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神と悪魔、天使と人間  作者: 根無草士郎
すべての始まり
7/11

第1話ー6


「よし。これでいいかな」

 次の日の朝。ユオはイグニスを見ながら、頷いた。

 イグニスの身には、旅立ちの装備がされてあった。水、携帯食料、薬やナイフ、剣、盾など。そして最後に、ローブの様なマントをイグニスに着せた。

「いいかい。君は贖罪の悪魔だ。それを、なるべく他の存在に知られてはならない。君は弱い。・・・少なくとも、弱い普通天使一人や聖職者には負けないだろう。だが、それだけだ。君の魔力は恐ろしく高い。君の弱さに釣り合わないくらいに。それは、君が他の者たちにとって最高峰の素材でしかない、という意味になる。君は贖罪の悪魔だと知られてしまえば、恐ろしいほどの数の天使や悪魔に狙われることになるだろう。その時に戦闘経験が浅ければ、君はいともたやすく殺されてしまう。だから、ある程度の経験を身につけるまでは絶対に、贖罪の悪魔だと知られてはならないよ。ただの一冒険者として、使う魔力もセーブするべきだ。いいね?」

 イグニスは頷いた。そして聞いた。

「もし悪魔が僕を殺したら、悪魔はどれくらいの段階まで進むの?」

 ユオは頷いて答えた。

「そうだな・・・一段階目の悪魔なら、一気に四段階目までいくだろう。五段階目の悪魔であれば持っている魔力の、倍くらいの魔力を得ることになるかもしれないな」

 それは大変だ、とイグニスは思った。想像以上に、自分は高級品のようだ。

 イグニスはフードを被った。ユオは納得するように頷く。

「・・・そうだな。うん。それがいい」

 ユオは独り言を呟くと、遠くの街を指差した。

「あの街まで一緒に行こう。俺は、はぐれの聖職者ってことにしてさ。道中、魔物が出てくるだろうけど、俺も戦おう。それで向かいながら、この世界のだいたいの常識を教えよう」

 イグニスは頷いた。両腕にぐるぐると布を巻きつける。紋章を隠すためだ。

「それじゃあ、行こう」

 そうして、イグニスとユオの短い二人旅が始まった。





「魔物・・・って、どんなの」

 森を歩いている時に、不意にイグニスがユオに聞いた。ユオはちょっと考えてから言った。

「そうだな・・・動物の、かなり凶暴なやつだよ。作物を荒らすやつがいたり、家畜を食っちまうやつもいるし・・・魔法を使える奴もいる。基本的に大きな奴が多いな。あんまり、食用にはされていない。一部は食えるらしいが。基本的には人を襲う動物、と考えていい」

「・・・そう」

「まあ、そのうち出てくるさ。この先、嫌という程戦うことになるからな。・・・でも、そうだな」

 ユオは一旦言葉を切った。

「俺も、君がいなかったら旅に出ようだなんて考えもしなかっただろうな。俺じゃ、魔物には勝てないから・・・弱いんだ。俺は。君よりずっとね」

 イグニスは少し探るようにユオを見た。ユオは、嘘をついているようには見えない。

 そして、少し広い場所に出た時、どこかからうなり声のようなものが聞こえた。

「・・・さあ、噂をすれば何とやら、だ。森は焼かないように気をつけてくれよ」

 すると背の低い木の陰から「魔物」が現れた。

 イグニスが想像していたものよりもずっと大きく、獰猛そうだった。鋭い爪と牙を持っている。目はぎらりと、イグニスたちを見据えている。何と言うか、少し熊に似ている。熊よりはもっと毛深くて、爪も鎌のように大きい。

「ガァァアオオォォ!」

 見た目にあった、やはり獰猛な叫び声が森に響く。まるで、餌を見つけた、と言わんばかりの声だ。

「・・・来るぞ!」

 言われるまでもなく、イグニスは構えた。両手に刃を構え、じっと魔物を見据えた。

 どう動く? そう考えた瞬間、魔物は突進してきた。イグニスはぐっと足に力を込めると、魔物を飛び越えた。少し、浮遊魔法の力も借りている。イグニスはそのまま後ろから魔物に斬りかかった。グオオ、と言う声とともに魔物が仰け反る。そして、その毛皮に火が燃え移りメラメラと燃え始める。恐ろしく獣臭い。さらなる魔物の雄叫びが響く。

 ユオが動いた。両手を前に構え、呪文を唱えた。すると、ユオの両手から強い風が吹き、それが鎌鼬のように魔物の体を切り裂いた。

 魔物はユオに向かって鋭い爪を振り下ろそうとした。しかし、その前にイグニスの投げた刃が魔物の後頭部に突き刺さった。うまいこと首の関節に突き刺さったらしく、魔物はその場に力なく崩れ落ちた。

 ユオはひどい汗をかいていて、肩で息をしていた。顔は真っ青だ。その場にどさりと座り込む。

「・・・し、死ぬかと・・・思った。ああ・・・イグニス。助かった」

 イグニスは首を横に振った。

「ユオが狙われていたおかげ。囮みたいに。ありがとう」

 イグニスは魔物の後頭部に突き刺さっていた刃を抜くと、魔物の首に突き刺し、とどめを刺した。魔物はうめき声をあげると、そのまま絶命した。

 ユオは一つ息を吐くと、頭を振った。

「まあ・・・こんな感じのやつだ。魔物っていうのは。うん。・・・やっぱり、俺一人じゃ勝てなかったな。全く、三十にもなって魔物一体にも勝てないなんて・・・低級聖職者なだけあるよなあ・・・」

 そう言って、自嘲的に笑った。

 イグニスは刃を消して、ユオに向かって手を差し伸べた。

「・・・得意、不得意は誰にだってある。でしょ?」

 ユオはその手を掴んだ。勢いをつけて、何とか立ち上がる。

「そうだな。俺は雑用に関しては誰よりも得意だったからな・・・。うん。そういうこともある。誰だってなりたいものになれるわけじゃないもんな。気を使わせて悪かった」

 イグニスは首を横に振った。

「・・・じゃあ、行こうか」

 イグニスとユオは再び歩き出した。


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