言葉を選ばない正直さは美徳とは違うからね?
結果から言うと、この4人には誰も勝てなかった。
これには先週の狩猟に参加していなかった女子たちもさすがに驚いたようで、4人を見る目が変わった。
それは貴族としてちゃんと訓練されてきたから——とかそんな理由であるわけがない。彼らはトッチョの取り巻きで、勉強だってぎりぎりのぎりぎりになって、俺の「永田町の常識は世間の非常識」作戦によってようやくやるようになったくらいの連中だからだ。
でも、である。
トッチョがやると決めたことには、彼らはとことんついていくのだ。
トッチョが槍の訓練を始めたことで、彼らもまた朝練を始めた。ただどうやって訓練していいかわからなかったのだろう——俺に言われたことを思いだしてやっていたらしい。ただひたすらに素振りをする。そう、スヴェンがやっているアレである。
実のところ、1週間で最もスキルレベルが伸びたのはこの4人だったりする。
「ぜーはー……」
「やべ、死ぬ……」
「もう無理……」
「…………」
まあ、他のチームとの模擬戦でバテてしまったあたり、基礎体力はまだまだっぽいけどな。
「マ、マジかよ……こいつらいつの間にこんなに強くなったんだ!? お前らの中に誰か別の人間が入っているんじゃないだろうな!?」
「おいトッチョ。お前がいちばんビックリしてどうすんだよ」
「や、だってよ……こいつらだぜ? 俺が言わなきゃなんもやらない、わっかりやすいダメ貴族だぜ? 成績もカス、武技もゴミ、『学園に入ったのは奇跡』とか『貴族の武技試験免除がなければ100パー受かってない』とか『カンニングの名手』とか言われてるんだぜ?」
言い過ぎィ! 見ろよ、4人が泣き出したぞ!? 動けないから寝そべったまま!
「と、とりあえずだな……あいつらはちゃんと、俺が言ったトレーニングを愚直にやったんだ。そのおかげで実戦経験は少ないが武器の扱いは急速に伸びた。戦ったお前たちならわかるだろ? お前らとアイツらの差なんて、この1週間で簡単に覆るものだったんだ」
負けた他のクラスメイトたちは、神妙な面持ちで聞いている。
「プラス、こいつらはよくしゃべる。べらべらべらべらとよくもまぁ飽きないなというくらい毎日つるんでしゃべってる。ということはお互いのことをほぼほぼ把握できているってことだ。そういうヤツらはチーム戦で強い」
俺、褒めてるんだけど、トッチョの言葉でトドメを刺された4人はぴくりとも動かない。死んでないよね?
「今日は森に入る前に、しっかりチームで話し合いをしてもらう。仮説を立てて、検証する。検証のために森に入るというイメージで行こう」
むやみやたらと動かない。PDCAを回すことが大事なのだ——そう、就職活動しているときに読んだ本に書いてあった。ビジネスで生かす前に俺は会社を整理して凍死したけどな!
各チームが話し合っている間に、俺はオリザちゃんのところに向かった。彼女が女子をまとめてくれているからだ。
「オリザちゃん、対抗戦のチーム分けだけどどうする?」
「ソーマは気が早いねぇ……まさかとは思うけど対抗戦でも上位狙ってるとか言うんじゃないだろうね?」
「そりゃもちろんトップ——」
ハッ、女子たちがめっちゃ警戒して俺を見てる!
「……トッププライオリティにはするけど、で、できる範囲でやっていこうかなって思ってるよ?」
と言うと、みんなホッとした顔をした。
俺氏、ようやく統一テストのときのスパルタ授業が彼女たちの心に暗い影を落としているのだということに気づく。
「そのくらいでいいよ。アタシと違って、女子は武技はそこそこのほうが嫁ぎ先は多いんだ」
「そうなの? オリザちゃんの蹴りなんて可愛いものじゃん」
「っ!? ア、アンタねえ、次にそんなこと言ったら蹴っ飛ばすよ!?」
13歳女子にすごまれてもそんなに怖くないどころかむしろ可愛らしいんだよなぁ。しかも顔赤いし。
これだけ可愛ければオリザちゃんの嫁ぎ先なんて山ほどあるだろうね。だがマール、バッツ、シッカク、お前らはこっちに聞き耳立てているんじゃない。「さっきの模擬戦で無様をさらしたから蹴ってもらえるかな……○」とかヒソヒソ話しているんじゃない。
「そ、それでチーム分けだろ!? アタシは、男女別のほうがいいと思う」
「どうして?」
「今から女子を入れてもチームワークもなにもないじゃないか」
「それは正論だね……でも逆もまた真なり、だな。チームワークができあがっていない今だからこそ、男女で混ぜるチャンスなんじゃないかと」
「男女で混ぜてなにかいいことあんのか?」
「ある」
俺は親指をぐっと立てた。
「男子が燃える」
4人チームに1人女子がいるだけで3人の男子は奮起する。これは間違いない。世界の真理だ。だからオリザちゃん、そんな呆れた顔をしないで欲しい。
夕方、学園に戻ってきた俺たちは相変わらずの大猟だった。いや~、レッドアームベアがいなくなったおかげで小動物の警戒心が下がって獲りまくりですわ。
オービットのチーム以外にも、鳥や狸を仕留めたチームがあったのも収穫だな。半分はそれでもまだ猟果ゼロなんだけどね。
ただまぁ……狸は食えないから止めとけと言ったのに「獲った以上は絶対食う! これは俺たちの肉だ!」と言っているトッチョの取り巻き4人衆は、アレだ、どうなっても知らんぞ?
「ん……なんか騒ぎになってるのか?」
敷地内の道を、黒鋼寮へ向かって歩いている俺たちは、前方に人だかりを見つけた。
「学園新聞部です! 是非ともハンマブルク様にインタビューを!」