白熱の準決勝第2試合、そして決勝へ
●前回あらすじ:
準決勝第1試合、キールvsマテューは、マテューが奥の手のエクストラスキルをぶっ放したがキールがそれをしのぎきった。マテューは体力切れで負ける。
第2試合はいよいよスヴェンと蒼竜トップのヴァントール。ふたりの対決が始まる。
「なっ……」
誰かが声を漏らした。
だけどその後は、絶句していた。
「オラアアアア!!」
「キエエエエエ!!」
竜巻のように剣を振り回すふたり。
剣と剣はぶつかり、火花とともに悲鳴のような金属音を立てる。
その速度は、マテューとトッチョがぶつけ合った槍のそれよりもずっと早い。それはそうだ、剣と剣との戦いなのだから。
「なっ、なんなん……」
「すげ……」
「すげえ、すげえぞ……!」
観客が我に返ると、地面からせり上がってくるような歓声が会場を包んだ。
最初こそスヴェンに否定的だった生徒たちも、目の前で行われている戦闘を見ればそんなこと忘れてしまう——それほどまでに鬼気迫る戦いだった。
だけど俺は、
(……マズいな)
少しばかり、焦っていた。
(スヴェンが圧倒して勝てると思ってたのに、予想以上にヴァントールが強いぞ)
スヴェンは「剣の隘路を歩みし者」という天稟を持っている。
それは剣のスキルレベルこそ上げられるものの、他のスキルは一切上がらないというピーキーなものだ。
(スヴェンはエクストラボーナスで体力や筋力を稼ぐことができない。そのぶん、過酷な修行……もとい、トレーニングで自分の身体能力を底上げしてきた)
だけどヴァントールは……あいつ、持ってるな。
(エクストラボーナスはレベル200だ。入学時点ではキールくんの累計レベルに勝ってなかったはずだから、入学してから手に入れたとしても1種類がいいところだろう。【剣術】の「瞬発力」か……いや、【格闘術】とかの「筋力」とかかもしれん)
エクストラボーナスの恩恵はすさまじく大きい。
それこそ、【剣術】しかレベルを上げられないスヴェンからしたら「ズルだ」と言いたくなるほどの恩恵だろう。
「どうしたァッ、三下! 鈍ってきてんぞ!!」
「…………!」
ヴァントールが押し始めている。
明らかに余裕がないのはスヴェンのほうだ。
ヴァントールの剣がかすり始め、スヴェンの服が切れ、切り傷が出来はじめる。
「——行けぇ、ヴァントール!」
「——一気につぶしちまえ、黒鋼なんて!」
「——やっぱりヴァントール様よね!」
歓声はヴァントールの味方だ。
(……どうする、スヴェン。まだ1年だぞ)
スヴェンがひとつのスキルしか上げられない以上、2年3年と学年が上がっていけば、エクストラボーナスを手に入れる他の生徒も増えていくだろう。
これから先はもっとキツくなるのだ。
この問題はずっとつきまとうのだ。
「——スヴェン、なにやってんだよ!」
そのとき、俺の横に座っていたリットが立ち上がった。
「お前、毎日修行修行言ってたじゃないか! お前の力はこんなものなのかよ!」
すると、
「そ、そうだ……そうだぜ、スヴェン! お前の努力はここにいるクラスのみんなが知ってる!」
「ああ、あきらめの悪さも知ってるぞ!」
「ねちっこいんだよな!」
「そうそう! だけど、お前の力がこんなもんじゃないってことも知ってるぞ!」
黒鋼クラスのみんなが立ち上がって声援を送る。
この声はスヴェンの耳にも届いたはずだ。
だって、アイツの口元がにやりってなったもんな。
……で、さ。
ちらっ、と横目でこっち見やがった。
俺を。
「……ったく、しょうがねーな」
俺は頭をがしがしやりながら立ち上がる。
ちょうどヴァントールとスヴェンは距離を取って向かい合ったところだ。
肩で荒く息をしているスヴェンと、落ち着いているヴァントール。
どちらも汗はひどくかいているけどな。
「スヴェン!」
俺は声を張り上げた。
「——やっちまえ」
親指を地面に向け、首の前で左から右にキュッとやってやった。
「承知しました!!」
もうやだ、アイツ、めっちゃうれしそうな顔するんだもん。
「——なんだあのガキ!」
「——アイツ、今日参加もしてねえ黒鋼生徒だぞ」
「——アイツが師匠かよ? 冗談!」
「——ガリ勉引っ込んでろ!」
わかってた。ヘイトが俺のほうに向くってことは……。
ブーイングが雨あられのように降り注ぐ中、スヴェンはむしろ楽しそうにヴァントールへと向き直った。
「……うぜぇ。さっさと終わらせんぞ。俺の目的は優勝だけだ」
ヴァントールは吐き捨てるように言った。
「そうか、目的は優勝か……小さいな」
「……てめえ、今なんと言った?」
「小さい。小さすぎるな、お前は」
「てめえ! ……ッ!?」
その瞬間、スヴェンの身体が大きく膨れ上がったように俺には見えた。
遠目の俺ですらそう感じるのだから、目の前にいるヴァントールはなおさらだろう。
なんだ、なにをしたんだスヴェンは。
「……『森の死神』、それに勝った師匠に比べればあまりにも小さい」
そうか——「森の死神」。
スヴェンも一度レッドアームベアを見ている。
確かにあの巨体。俺たちを食おうとして迫ってきた脅威に比べれば武技個人戦での「優勝」なんて小さく感じるよな。
「やるじゃん、スヴェン」
スヴェンの目標ははるか先にあるんだろう。
この個人戦など関係なく、レッドアームベアすら倒し、その先に。
「キエエエエエ!!」
スヴェンが一歩前に出るとヴァントールは警戒して半歩引いた。
次の瞬間、スヴェンの身体が前に飛びだした。
その速度はハンパない。
今までの戦いがデモンストレーションで、これからが本番だとでもいうかのように——速い。
あいつ……手に入れたな。
レベル200のエクストラボーナス「瞬発力+1」を。
「くっ!」
ヴァントールは反応が一瞬遅れたが、下段から斬り上がってくる剣を正面から受け止める。
ふつうなら剣ごと吹っ飛ばさそうなほどの威力だったが、ヴァントールはなんとかこらえた。
「てめえ……こんな奥の手を隠して——」
「セアアア!!」
「!!」
剣を引いたかと思うと突き。ヴァントールが身体をひねってかわすと横薙ぎ。
「くううっ!」
ヴァントールも——腹が立つチンピラではあるけれども——その才能は本物だ。
ただの反射神経と動物的な勘でしのいでいく。
だけど……勝負あったな。
——ギィンッ。
ヴァントールの剣は跳ね上げられ、後方へ吹っ飛んでいった。
スヴェンの剣の切っ先がヴァントールの鼻先に突きつけられる。
「ッ!」
ヴァントールはさっきの戦いで、すでに勝負がついているのに白騎クラスの男子を攻撃した。
だから自分もそうされるかもしれない——と身構えたのだが、
「…………」
スヴェンはスッと剣を鞘に戻した。
「勝者、スヴェン=ヌーヴェル君!」
審判がスヴェンの勝ちを宣言すると、割れんばかりの歓声が湧き起こった。
スヴェンの勝利に驚く声、ヴァントールを非難する声、スヴェンへのブーイング、ヴァントールを励ます声——。
「——うおおおお、すげえ、スヴェン!」
「——お前はやるって思ってた!」
「——かっこいい!」
我が黒鋼クラスからはもちろん温かい声が上がっている。
(スヴェン……お前、無茶しすぎだぞ)
汗びっしょりで、立っているのもやっとという体だ。
控え室に戻る足取りはしっかりしてるが、ふらふらだった。
審判が、次の決勝戦は15分後に開催すると伝えていた。
「ん? どしたん、ソーマ。立ち上がって」
「ちょっと控え室行ってくる」
俺はスヴェンがいる控え室へと向かった。
そこではやはり、ベンチにぐったりと寝そべっているスヴェンがいた。
「おい、スヴェン」
「……し、師匠、見てくださいましたか」
「見てたよ。よくやったな」
エクストラボーナスによる身体能力向上は確かにすばらしいものだけど、万能なものではない。
「筋力」が向上しても、それを扱うのに必要なエネルギーも増えるから燃費が悪く腹が減る。スヴェンが手に入れ、俺も持っている「瞬発力」は文字通り「瞬発」的な力だ。
その一瞬で使うならいい。
だけど持続して使い続けるものじゃない。
ましてや、その「瞬発力」の受け皿となる「筋力」のエクストラボーナスを俺は持っているけれど、スヴェンはない。スヴェンは【剣術】だけなのだ。
筋肉への負担、エネルギーの枯渇、その両方がスヴェンを襲っている。
「うつぶせになれ、スヴェン」
「……師匠?」
「俺は『決勝は棄権しろ』と言うつもりだったけど、どうせお前は『出場する』って言うんだろ? それならせめて、マッサージくらいしてやる。あとこれも食っておけ」
俺はスヴェンにハチミツを固めた飴を、袋ごと渡してやった。
舐めないより舐めたほうが多少はマシだろう。
「……ありがとうございます、師匠」
ぐでーとなったスヴェンは、袋から飴をつかみだすと口に放り込んでバリバリ食べ始めた。
俺はと言えば、スヴェンの背中に手を触れる。
……熱いな。かなりの熱を持ってる。
「スヴェン、決勝に出てもいいが短期決戦だぞ」
「…………」
「スヴェン?」
俺は気づいた。スヴェンはもう眠っていた。
「……しょうがねーなぁ」
マッサージを続けながらもスヴェンは寝かせてやることにした。
決勝戦まであと10分もない。
だけれどそれでも、スヴェンには必要な休息だろう。
決勝戦はあっという間に決着がついた。
俺がわざわざ「短期決戦」を言う必要もないくらい。
最初からキールくんは全力だった。畳みかけるようなラッシュでスヴェンの剣を弾き飛ばし、決着がついた。
ぜえぜえと息を吐いたスヴェンは最後までキールくんをにらみつけていたが、勝負は勝負だ。キールくんが優勝となり、観客たちも納得の結末となったってこと。
後から思ったけど、キールくんとて万全の態勢じゃなかったんだよな。マテューのエクストラスキルで明らかに手首やっちゃってたっぽかったし。
だから短期決戦に持ち込みたかったのはキールくんも同じ。
消耗した同士でも、スヴェンの消耗具合が上だったってワケだ。
まあ……お互い体力満タンで戦ったとしても、キールくんが上かなぁとは俺は思うけどね。
「……あの小僧、今度は絶対勝ちます」
って闘志を燃やしてたから、まあスヴェンは大丈夫だろう。
ちなみに、翌日行われた女子の個人戦は参加者以外の観戦が許されていなかった。
えっ、なんでだよ、見たい見たい! ってゴネてもダメ。
なんでも緋剣クラスの情報は国としても隠したいとかいう理由らしく……。
ともあれ、順位は発表された。
・武技個人戦男子 順位・1年生・
1位 キルトフリューグ=ソーディア=ラーゲンベルク(白騎)
2位 スヴェン=ヌーヴェル(黒鋼)
3位 ヴァントール=ランツィア=ハーケンベルク(蒼竜)
3位 マテュー=アクシア=ハンマブルク(黄槍)
5位 トッチョ=シールディア=ラングブルク(黒鋼)
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・武技個人戦女子 順位・1年生・
1位 リエルスローズ=アクシア=グランブルク(緋剣)
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5位 オリザ=シールディア=フェンブルク(黒鋼)
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オリザちゃんはめっちゃ悔しそうな顔してたっけ。
上位の半分を緋剣クラスが持ってった。
「……アタシもまだまだだな」
ってマジな顔してたから、かなり気合いは入ったみたいだ。
いやまあ、リエリィはさすがの一言だわな。
こうして——武技個人戦は幕を閉じたのだった。
後1話か2話で本章は終わりとなります。
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