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激戦の準々決勝

前回あらすじ:

白騎獣騎士団に推薦すると言われたソーマだったが丁重にお断りし、学園長との対話を終えて武技個人戦の会場へと戻った。

そこでは勝ち進んでいたトッチョ取り巻き四人衆のひとり、アッサールが蒼竜リーダーのヴァントールと当たりボロ負けにされているところだった。アッサールはぎりぎりまでもがいていたが実力の差は歴然。

悔しがるアッサールにかわって仇を取ろうと言ったのはスヴェンとトッチョだった。

ベスト8組み合わせ・

第1試合 キールvs蒼竜男子(キール勝利)

第2試合 トッチョvsマテュー ←今ここ

第3試合 スヴェンvs蒼竜男子

第4試合 白騎男子vsヴァントール

 始め、のかけ声と同時に双方ともに動いた。


「うおおおおおおおッ!!」

「せええええええいッ!!」


 繰り出された槍と槍が激突して火花を上げる。

 ふたりとも最初から全力だ。


「オオオオッ!」

「ぜえい!」


 振り回される槍と槍が激突し、火花とともに鈍く低い音が響き渡る。

 穂先だけでなく柄も金属製の、重量級長槍によるぶつかり合いだ。

 会場を沈黙が支配した。

 誰しもがこれほどの戦闘になるとは思っていなかったのだろう。

 応援に来ているクラスメイトだけでなく、見学に来ている上級生すら唖然としている。


 ——ソーマ、マテューは強くなってるよ。


 俺の隣に座っているリットはそう言っていた。

 確かに強い。

 こんなに強かったのかこいつは、ってくらい。

 それと同じくらいトッチョも強い。

 基礎的なパワーはもちろん、フットワークも軽く隙を突いた攻撃を繰り出している。


「『正突(ピアース)』!!」

「!」


 先に仕掛けたのはトッチョだ。

 接近戦。

 逃げる余地はない。

 エクストラスキルの「正突」は一点突破に優れた槍の技だ。いくら刃がない槍だとは言え、正面から受けたら骨折は免れない。

 きゃぁっ、と悲鳴のような叫び声が観客席から上がる。


「————ッ」


 だが、俺は見た。

 マテューの口元がにやりとするのを。


 ——ギョリギョリギョリギョリッ。


 金属の削れる耳障りな音が響き渡る。

 マテューは槍の柄を使って「正突」をうまくいなした(・・・・)のだ。


「焦らせんじゃねーよッ!」

「!!」


 エクストラスキルを使ったトッチョには隙が生じ、マテューはそこに前蹴りをくれた。

 トッチョの胸が蹴り飛ばされて上体が煽られる。

 だが槍を手放すことはない。


「うおおおおおおおおッ!」

「チッ」


 引き戻した槍を強引に振るうトッチョと、横に転がってかわすマテュー。


「ぜえええああああッ!」


 転げたマテューに向けて何発も突きを放つが、ごろごろごろごろと転がったマテューは、最後にはぴょんと飛び上がって距離を置いた。


「ふぅ————」

「ふぅ————」


 ともに離れ、再度槍を構えると息を整えた。


「お……」


 誰かが声を漏らし、次の瞬間には、


「——おおおおおおお! すげえ!」

「——なんだあれ、全然見えなかったぞ!?」

「——マテュー様! 負けないで!」

「——トッチョおおおおおお前やっぱすげーよ!!」


 観客席からは割れんばかりの歓声が上がった。

 まさかこんな戦いを見られるとは思っていなかったのだろう。

 試合場にいるトッチョなんかは、


「あ? なんだ、うっせーな」


 額の汗をぐいと拭って観客席を見上げる。

 この短時間でびっしょりと汗をかいているのだ。それほどまでに消耗したのだろう。


「ははは、1年生がここまでできるとはみんな思ってなかったってことだろう。俺もだよ。お前を見くびってた」

「……それを言うならこっちもだぜ。見た目だけの黄槍クラスかと思ったら、なかなかやるじゃねーか。少なくとも俺と同等くらいには」

「同等、ね……」


 マテューもまた汗をかいていたが、息は整っている。

 エクストラスキル1発ぶん、トッチョが疲労しているということか。


「す、すごいね、ソーマ。互角の戦いだよ」


 リットが俺の服を引っ張りながら言う。

 だけど、


(……いや、違うな)


 俺はピンと来た。

 マテューはまだなにか隠している。隠し球があるのだ。


「そんじゃ、続き行くぞ!」


 トッチョが吠えると、マテューはくいっくいっと手首で手前に振って「来い」と示した。

 それからは——互いに決め手を欠いた戦いとなった。

 槍と槍がぶつかり合い、火花が散る。

 ともに持っている槍はでこぼこになって、少し曲がってさえいた。

 かすり傷も増えてあちこちに血が飛んでいる。

 とはいえ重いダメージは受けていないので審判も止めることができない。

 応援の声はますます上がる。

 ふたりはもう、土砂降りに降られたんじゃないかってくらい、汗でびしょ濡れだった。

 それもそうだ。


(ずっと全力疾走しているようなもんだからな)


 これはどちらかが体力切れになったら負ける。


「や、や、や、やるじゃ、ねえか……ただのいけすかねえイケメンかと思ってたのによ……!」

「お、お前こそ……もう寝て休めよ」


 ふたりは息も絶え絶えという感じだったが、まだなんとか立っていた。

 いや、余裕があるのはマテューだ。やはりエクストラスキルを使ったぶん、トッチョは不利だ。


(……もしかして使わされた(・・・・・)のか? 確実にかわせる自信があったから)


 俺はそんなことを考えた。

 だとしたらマテューは最初から、トッチョを「油断できない相手」だと考え、持久戦に持ち込む気だったということになる。


「うおおおおおおッ!」


 ふたりの長い戦いは、やがて終わりを迎える。


「ぜいっ!!」


 踏み込んだトッチョの一突きは甘かった。もう膝が笑うほどに力が残っていなかったのだ。

 それをマテューは槍ではね飛ばし、トッチョの手から槍は離れた。


「——勝負あり!」


 マテューの穂先がトッチョの鼻先に突きつけられると、審判の声が響いた。

 ワッ、とまた観客席が沸いた。

 マテューへの称賛が多いのはもちろん、トッチョの健闘を讃える声も多かった。


「くそっ……!!」

「……また()ろうぜ」


 うなだれるトッチョの肩にぽんと手を置いたマテューはふらつきながらも黄槍クラスの控え室へと戻っていく。

 とぼとぼと戻ってくるトッチョに、


「——顔上げろよトッチョ!」

「——カッコよかったぞ!!」


 黒鋼クラスのみんなが声を掛ける。


「!」


 こちらを見上げたトッチョは涙目だったけど——それは情けない涙でもなんでもなくて、俺たちは拍手でトッチョの帰還を出迎えた。




 第3試合はスヴェンと蒼竜クラスの男子だ。

 先ほどの熱戦の興奮冷めやらぬ会場でふたりが向き合う。


「……ったく、黒鋼クラスの平民なんぞがこの俺と戦えるんだから、光栄に思うんだぞ」


 ニヤケ顔で蒼竜男子が言ってくる。

 蒼竜男子の得物は斧槍(ハルバード)で、かなりの重量級だ。


「…………」


 スヴェンは相変わらずの無言だった。


「なんだ? お前、無愛想だな。それとも震えてんのか? ああ、さっきみたいな持久戦に持ち込んで勝とうとかは止めろよ? ヴァントール様のサンドバッグにされてた黒鋼のヤツもいたけど、ああいうのマジで迷惑だから」

「…………」


 スヴェンは相変わらずの無言だった——のだが、俺にはわかる。


「君、試合の前の私語は止めなさい」


 審判が止めに入る。


「へいへい」

「それでは双方構え」

「…………」


 俺にはわかるんだ。


「——始め!」


 スヴェンは怒ってる(・・・・)って。


「うおおおおおおおッ!!」


 蒼竜男子が駈け出し、ハルバードを振りかぶる。


「ちょっとくらいの傷は覚悟しろや!!」


 ぶうん、と振り下ろされる速度はなかなか速い。

 それは確かに、ベスト8に残るほどの実力はあるのだろう。

 まして1年生だったらこの迫力を前にしたら足がすくんでしまう者もあったかもしれない。

 だけど、


「…………」


 ウチのスヴェンは違う。

 人間相手どころか、レッドアームベアに遭遇したりもしたんだぜ。

 振り下ろされるハルバードを完全に見切って、半歩だけ身体を動かしてかわした。

 ハルバードの先端が地面にめり込んだ。


「なっ!?」

「…………」


 スヴェンは剣を抜かず、すたすたとまた離れた。


「……は?」


 蒼竜男子がぽかんとする。

 だがスヴェンはそこに突っ立ったままだ。


「は……ははっ、はははは! そうか、そういうことか、お前、ビビッたんだろ!? 俺の攻撃にな!」

「…………」

「早く降参しろや!」


 ハルバードを引き抜いた蒼竜男子は今度は横薙ぎに振るうが、すっ……と身をかがめてスヴェンはそれをかわす。

 次の振り下ろしも半歩ずれるだけでかわす。

 突きなんてへろへろだ。背後にジャンプしてかわす。


「ちょ、ちょこまか動くな!」

「…………」


 いくら身体的に恵まれているとはいっても、13歳とか14歳の身体だ。ハルバードを振り回して平気な顔ができるほどの筋肉はまだない。

 蒼竜男子はハァハァと肩で息を吐くがスヴェンは平然としたままだ。


「おらぁ!」

「…………」

「そりゃあ!」

「…………」

「に、逃げんなっ!」

「…………」


 ぶうんぶうんと振り回されていたハルバードも、だんだん速度が落ちてくる。

 見かねた審判が、


「……君、ちゃんと戦いなさい」


 とスヴェンに指導を入れ、スヴェンは小さくうなずいた。


「はあ、はあ、はあ、どうしたんだ、お前、まさか対人戦で剣を抜くのが怖いとか——」

「——少々のケガは覚悟しろ」

「へ?」

「そう、お前が言ったのだぞ」


 ようやく口にした言葉がそれだった。

 剣を抜いたスヴェンは、下段に構える。


「いや、ちょっ、待っ——」

「キエエエエエエエエエッ!」


 すり足で踏み込んで行く速度はかなりのもので、蒼竜男子はハルバードを構えるほどの元気もなかった。

 駈け抜けざま、打ち込まれた胴の一撃に、蒼竜男子の身体が少しだけ浮いて——倒れた。


「う……げっ、おげえええええっ」


 口から大量の吐瀉物をまき散らして。


「そ、そこまで! 勝者スヴェン=ヌーヴェルくん!」


 審判は勝負の終わりを宣言しながら、医療班を呼び寄せた。

 どよめきが観客席を包んだが、それは今の戦い方に否定的な響きが含まれていた。


「——なんだよあれ、あんなのアリかよ?」

「——疲れさせてそこをグサッ、だろ? 卑怯だよな。黒鋼らしいっちゃそうだけど」

「——あれは蒼竜がかわいそうだ」


 そんな意見だ。

 でもスヴェンはどこ吹く風で、蒼竜の控え室から出てきていたヴァントールに向けて剣の切っ先を向けると、それを鞘にしまってすたすたと歩いて戻ってきた。


「…………」


 おいおい、スヴェンさん。なんですかその煽りは。蒼竜のチンピラことヴァントールさんの顔が大変なことになっていますよ。


「師匠、やりました」


 俺に手を振らないでよ!? ほらヴァントールさんがこっちをにらんでる!




 第4試合はそのヴァントールと白騎クラス男子の戦いだった。

 これは正直、そこまで大きな見所はなかった。

 白騎の男子も結構強かったけど、強くなればなるほど実力差があると一瞬で勝負がついてしまう。

 剣と剣で戦ったのも悪かった。

 ヴァントールのパワーが圧倒的に強く、数合打ち合うと剣を弾き飛ばされてしまったのだ。

 本来ならばそこで試合は終わりなのだけれど、


「そこまで——」


 と言いかけている途中で、ヴァントールは剣を振り下ろした。


「っぎゃああああ!?」


 その剣は、白騎男子の左肩にめり込んでいた。肩か、鎖骨あたりを折ったらしい。


「君! 勝負はついていただろう!」


 医療班を再度呼びながら審判が注意をすると、ヴァントールは平然とした顔で、


「連撃の途中だったもので。大体、実戦を想定した武技戦で止めてもらえるなんて思うほうがおかしいでしょうが」

「しかしだね——」


 審判の注意は続こうとしたが、ヴァントールはさっさと会場から出て行った。


「……ボク、あいつ嫌い」


 俺も同意見だよ、リット。だってヴァントール、会場から出る直前、また俺のほうを1回にらみつけてきたもんな……。




 こうしてベスト4が選出された。キールくん、マテュー、スヴェン、ヴァントールだ。

 時刻は夕方になろうとしていたけれど、このまま最後までやりきるのだという。

 この時間帯になると最後の優勝者を見ようと観戦の上級生が増えてきて、会場は大混雑になってくる——まあ、黒鋼クラスの上級生なんて誰も来ないんだけどな。

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主人公は二刀流大谷どころじゃない多刀流なので、打力勝負となると生徒の上位程度、大人のベテランにはボロ負けとなります せいぜいが全ステータス2倍の子供(必殺技あり)で、プロの大人は一部ステータス5〜1…
[気になる点] ソーマのレベルは大リーグでも伝説クラス。 学園はリトルリーグみたいなもので、そこにどんな天才児がいようとも、マイナーリーグ以下だろうに。 どうもその辺の力量差がうまく描けていないような…
[一言] 面白すぎ。最高っす
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