終業式
翔の通ってる高校の終業式は体育館で行われる。学年がそれぞれ2クラスしかない小さな学校だ。
──あちぃなぁ…
翔は額から流れてくる汗を手の甲で拭った。
この日差しの強い7月の下旬、そんな中ここまで全速力で走ってきたのだ。次から次へと汗が吹き出してくる。
こんな式、早く終わらないかと翔は内心苛立ち始めてきた。
「続きまして校長講話です。校長先生、お願いします」と司会進行の声が静かな体育館の中に響いた。
昔ばなしに出てくるたぬきのような体型をした校長が階段を登り、ステージに上がった。
今にもスーツのボタンがブチンと飛んでいきそうなくらい腹回りには肉がついてる。
いつそのボタンが飛んでいくのかという方が気になり、殆どの生徒は校長の講話などに耳を傾けてはいない。
10分ものの間、交通安全に気をつけろだとか生活のリズムを崩しすぎないようにだとかの話をされたがところどころしか覚えていない。
教室に戻ったときにまた同じ話を担任からされると考えたら気が滅入る。
トントンと後ろから肩を軽く叩かれ、後ろを振り向くと倉持奏多がニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「なんだよそんなにニヤけて…。気持ち悪いぞ」
「んなこと言うなよ。傷つくだろ。…で、どうなんよ。夏休みだろ?“彼女”とはどっか行く予定でもあんの?」
奏多とは親同士の仲が良く、小さい頃からよく一緒に遊んだりしていた。
小学校と中学校は地区が違うため別だったが高校で再開し、今となっては誰よりも信頼できる友だちだ。
「誰か言うかよ…!」
自分の顔が赤くなっていくのを感じながら、奏多から目を逸らした。
「んなのと言うなよ。悲しくなるじゃんか」
そう言って奏多は両頬にえくぼを作って笑う。
奏多とは小さい頃から仲が良かった。元々親同士が仲が良かったのでお互いの家に遊びに行ったりお泊りしに行ったりしていた。
地区が違うため、小学校と中学校は別々だったが高校の入学式で再開し、また一緒に遊んだり時々は泊まりにも行ったりする。
今となっては一番信頼のできる友達だ。
「まぁ、もしかしたらどっか行くかもなぁ…」
そう言いながら自分の顔が赤くなってくのを感じ、奏多から目をそらした。
「顔、赤いぞ」
そう言いながら奏多がニヤけているのが顔を見なくても分かった。
「うるせぇな。お前が彼女できたら俺も同じこと言ってやるぞ」
「何年先になるんだろうな。いやー。彼女欲しいわ」
そんな他愛もない話をしながら教室へ戻っていった。




