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(24)〜魔女の少女の決着〜※

 岩陰に隠れ、セレスタイトはヤツが来るのを待っていた。


 ---大丈夫。きっとうまくいく。


 そう自分に言い聞かせたその時だった。


「小娘ぇェ…ドコいっタぁァァ」


 地を這うような低い低い唸り声、地鳴りのような足音が、時折メキメキバリバリと木の倒される音と共に近づいてきた。

 間違えようもない。


 ---ヤツだ。


 認識した途端、心臓の音が耳元で煩く暴れ回る。

 呼吸が浅くなり、思わず手で口元を押さえる。

 その間もゆっくりゆっくりと、アンジーの魔力を吸って増々強くなった禍々しい気配は、セレスを探しながら距離を詰め、近づいて行く。


 もう後には引けない。


 セレスは息を吐き切ると、岩陰から一気に飛び出し、大きく息を吸って声の限り叫んだ。


「私はここよ!私の魔力が欲しければ、ここまできてみなさい!」


 その声につられて「悪しきもの」がセレスタイトの方を見、そしてニッタリと笑うと、「イタッ、いたぁぁぁァァァァ」と言いながら木々をなぎ倒してやってくる。


 セレスは提げていた肩掛け鞄から母の手帖と手帖の「封じの陣」があるページに挟んでおいたナイフを取り出す。


「もう遅いぃぃ」


 間合いに入った「悪しきもの」はやって来る勢いそのまま鋭い爪を振りかぶった。



 が、


「遅いのはそっちよ!」


 セレスの声とともに「悪しきもの」はその格好のまま急に動かなくなる。


「なンだ…ナんダァァこれハァァ!!」


 突然動かなくなった身体を動かそうと「悪しきもの」が陣の中で暴れる。

 しかし、「悪しきもの」の強大な力でもその場を一分も動くことが出来なかった。


「やっと、陣が効いた。これであなたを封じれる!」


 やっと岩陰に隠れる前に仕掛けておいた「足止めの陣」が効き、「悪しきもの」が動かなくなったことを確認したセレスタイトは、ナイフの刃を手の上に滑らせ、ナイフを手放すと、手帖に描かれた「封じの陣」に血が流れた手を押し付けた。


「お願い!効いて!!!」


 その刹那、陣から蒼い光が漏れ出し、すぐにあたりに溢れ始めた。

 陣から出た光は瘴気を吸い込み、あたりを飲み込み、まるで水のように、川のように森中を清めながら遠くへ遠くへと流れていく。


「あァァァぁぁおのれぇオノれ小娘ガぁぁぁギャァァァァァァぁぁ」


「悪しきもの」は「足止めの陣」の中で苦しそうに身を捩り、断末魔をあげながら蒼い光に飲まれていった。


 セレスは陣の描かれた手帖を必死で握り、そして光に飲まれる瞬間、


「セレス!!」


「えっ?」


 そこで聞こえたのは聞こえるはずの声、そして声の方を振り返ると、そこには居るはずのないライゼの姿があった。


 ---ああ、やっぱり来ちゃったんだ……。


 そう最後に思って微笑んだ直後、セレスは静かに光に飲み込まれた。

 ライゼはセレスの姿が光に飲み込まれる直前、微かに微笑んだセレスの頰を伝う涙を見た。


 ###


 セレスタイトの魔法は蒼い光を伴って夜に森の中を隅々まで行き渡り、森にあった瘴気、魔物達を吸い込み全てを浄化した。


 そして、森を包み込んだ光がだんだん小さくなって消えた後、カシャンという音と共に地面に何かが落ちた。


「セレス!」


 光が収まり、視界が戻ったライゼがパッと髪飾りの元に駆け寄る。


「……セ、レス。なあ、そんな…嘘だろ?」


 膝をつき、そっと蒼い髪飾りを手に取る。

 その髪飾りはライゼがセレスタイトにあげた物のようだった。

 しかしそこには、透き通るような明るく淡い、まるでセレスタイトの魔法のような蒼い色の華が咲いていた。


「セレス!!!」


 森にセレスタイトの名前を呼ぶライゼの声がこだまし、白み始めていた空に朝陽がゆっくりと昇り始めた。



 その光は暗闇に包まれていた森に夜明けがやってきたことを告げる。






 後からやってきた討伐隊は、誰一人として口を開こうとせず、少し離れたところでただただその光景を眺めているだけだった。






 のちに彼らは口をそろえてこう語る。


「今まで見た中で一番美しい光景だった」と。

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