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(16) 〜魔女の少女は旅商人少年と街に行く~


「送ってくれてありがとう」


手帳を見つけた翌日、セレスタイトはの薬屋の夫婦の顔が見たくなり、ライゼに頼んでガスパルの引く荷馬車で街まで送ってもらった。


「このくらいお安い御用だよ。……あのさ、セレス」


セレスが荷馬車を降りた時、不意にライゼに呼び止められる。


「どうしたの?」

「…いや、やっぱり後でいいや……。じゃあセレス、また帰りはここの辺りで」

「あ、うん、わかった」


ライゼを見送った後、セレスは薬屋に向かった。


街は『悪しきもの』や魔物の影響からか、まるで冬の日のように外に出ている人が少なく、閑散としていた。


店の扉を開けると、扉に付いた鈴はいつものように客が来たことを告げる。

しかし、一歩店に中に入ると店内の様子はいつものそれとは違っていた。


「おかみさん!こっちの傷薬を四つ。あと包帯ね」

「こっちにも同じものね!」

「ここの棚の薬の在庫があるか?」


「ハイ只今!いらっしゃい。ああ、セレスタイト。ごめんよ、今ちょっと手が離せないから、そこらでちょっと待ってておくれ。」


 鈴の音を聞いたおかみさんは、店の奥のカウンターからセレスの姿を確認すると、そう言ってすぐに接客に戻っていってしまう。


 魔物の影響からか、狭い店内には薬を買っておこうとする人々がごった返し、人が多いためか、いつものこの店独自の薬品の匂いは薄く、ぎっしりと隙間なく薬が置いてあるはずの棚も、ところどころ空いている所が見受けられた。


 セレスはおかみさんに一つ頷くと、他の客の邪魔にならないように店の隅に立ち、慌ただしい店内を眺めていた。


 〜『浄化封じの魔法陣』浄化を目的とする封印の陣。


 魔法学理論上『悪しきもの』も封印可能。



 しかし、実験不十分のため何が起こるか分からない。


 最悪の場合、術者が浄化対象と共に陣に取り込まれる可能性あり。〜


 考えもしなかった『代償』。


 ---私が母さんの術を成功させれば、きっとここにいる人たちは助かる。でも、その場合私がどうなるのか分からない……。私がいなくなったらおかみさんとおじさんは、ライゼはどう思うのだろう………。


 そんな事をぐるぐると頭をよぎる。


 ---母さんが陣を使わなかった。いや、使えなかった理由が今ならよくわかる。…私だ。……私がいたから、私を一人に出来なかったから母さんは陣が使えなかったんだ。


 せっかく見つけた打開策。

 なのに何故か躊躇っている自分がいる。

 せっかく見つけたのに決断できない自分がいる。

 それがひどく辛かった。


 セレスが店の片隅に立っていると、突然。

「おい、聞いてくれ!」そんな声と共に乱暴に店の扉が開かれた。

 店内に鈴の甲高く暴れ回る音が響き渡り、人々が一斉に店の入り口の今やってきた男の方を見た。

 やってきた男はくしゃくしゃになった紙を握り締めていた。


「どうしたんだ?そんなに慌てて」

「これを見てくれ!さっき魔物の討伐隊が動く事が決まった!」

「なんだって?」

「しかも二日後に出発だ!ようやく魔物どもが退治されるんだよ」


 男は店の真ん中で持ってきた紙を広げ、周囲に見せた。

 わあと店の中で歓喜が湧き起こる。


「これでようやく祭りができる!」

「やったな、おかみさん」

「ええ!本当にこれで安心だわ!ねえ、セレスタイト。あんたもそう思わないかい?あれ?セレスタイト?」


 おかみさんはセレスが立っていたはずの店の片隅の方を振り返った。


 が、そこにはただ薬が陳列された棚があるだけで、セレスの姿はどこにも見当たらなかった。

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