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その花 第七章 : 葬天の刻 6



 精密機器工場をあとにしてから、三十分後――。



 再び南町エリアに戻ってきた花たちは、海岸堤防の陰から夜の闇に目を凝らした。見えるのは黒い海と、波打ち際に広がる黒い砂浜。そしておよそ一キロ先で燃え盛る無数の炎――。


「……たき火の数が多い。かなりの人数が集まっているようですね」


 草間がヘルメットの内部ディスプレイをズームしながらポツリと言った。続けて藤沢も険のある声で吐き捨てる。


「あいつら、のんきにバーベキューなんかしてやがる。ずいぶんと遅い夕飯だな」


 そうですね――。花は呟きながらディスプレイの時計を見る。時刻はもうすぐ夜の十一時――。


「彼らの出身はウルビランドの港町です。夏になると夜中に漁をする人間が多いので、それで目が冴えているのでしょう」


「なるほど。長年の生活習慣ってことですか」


 花の説明に、藤沢が納得してうなずいた。


「それよりも、砂理ちゃんと田川さんを連れていったアーメドは、あそこの海の家で暮らしています。二人を監禁するとしたら、おそらくあそこでしょう」


 花は海岸堤防の海側に建つ大きな海の家をズームで確認。その映像を二人のディスプレイにも転送した。


「それでは、自分たちが二人を探してきます。飽海さんはここでバックアップをお願いします」


 草間の言葉に、藤沢もすぐにアゴを引く。しかし花はかぶりを振った。


「いえ。わたしも行きます」


 その言葉に草間と藤沢は顔を見合わせ、お互いにうなずき合った。つい先ほどまで涙を流していた花を気遣っての提案だったが、本人が行くと言うのならその意志を尊重しよう――。二人の男は無言のまま、同じ結論を出していた。


「それでは、このまま海岸堤防を盾にして進みましょう」


 草間の言葉に花と藤沢は一つうなずく。そして三人は音もなく走り出した。


 堤防沿いの湾岸道路には照明灯が立ち並び、周囲に光を放っている。しかし、走り去る車は一台もなく、人の気配もまったくない。花たちは淡い光と深い闇の中を素早く駆け抜け、海の家の裏手に忍びよった。


『――クリア』


『こちらもクリア。誰にも見られていません』


 藤沢に続き、草間の声が無線通信で聞こえてきた。二人は花を守るように左右に分かれ、慎重に周囲を警戒している。建物と堤防の間の闇に紛れ、三人は海の家の裏口に近づき、ドアを開けた。すると、砂浜で騒いでいる男たちの声がかすかに聞こえてきた。


 目を向けると、建物の中は薄暗く、ガランとしている。


 かなり広い食堂スペースには、大きな木のテーブルがいくつも並んでいる。周囲は背の低い壁と柱だけの開放的な造りなので、砂浜の様子がよく見える。海の家と波打ち際の間にはたき火が点々と並び、無数の黒人たちがいくつかの集団に分かれて大きな炎を囲んでいる。誰もが焼いたブロック肉にかじりつき、楽しそうに笑っている。


『飽海さんはここで待っていてください』


 草間に言われ、花はテーブルの陰に身を隠す。草間は音もなくキッチンに向かい、藤沢は反対側の小部屋を調べに行く。二人とも移動の音がまったくしない。まるで夜の影そのものだ――。花は息を潜めながら、心の中で感心した。何かの音が聞こえたのはその時だった。ヘルメットの集音マイクが、ごくわずかな音をキャッチしていた。


(これは……水の音……? 水滴?)


 それは液体が静かに垂れる音だった。こぼれた滴がわずかに跳ねる音だった。花はテーブルの陰からそっと頭を出し、周囲を見渡す。海の家に近づいてくる者は一人もいない。それを確認し、ヘルメットの前面を開放して顔を出す。とたんに潮の匂いが鼻をく。しかし同時に、別の匂いも感じ取った。


(なに……? この匂いは……?)


 花はそろりと腰を上げた。やはり周囲には誰もいない。近くにあるのはいくつもの大きなテーブルと無数の椅子だけ。そしてどのテーブルの上にも、汚れた食器や空き缶、空き瓶が放置されている。ハエや羽虫がたかっているところを見ると、おそらく腐った食べ物があるのだろう。


(だけど、これは……)


 花はゆっくりと歩き出した。理由はわからないが、何かが気になる。この匂いがなぜか気になる。花は慎重に進みながら、暗い食堂の中に視線を飛ばす。すると、砂浜に近い方のテーブルに何かが見えた。光が当たらないのでよく見えないが、テーブルの上に黒くて大きな塊が置いてある。花は腰を屈めて近づいた。そしてその正体を知ったとたん、息が止まった。


(えっ……!? た……田川さん……!?)


 花は我が目を疑った。テーブルの上にいたのは田川だった。両目を限界まで見開いたまま、顔を恐怖に引きつらせたまま、田川はテーブルの上に横たわっていた。


 花は震える手で田川に触れた。しかし、触れるまでもなくわかる。田川の呼吸は完全に止まっていた。しかも田川の両腕は、肩から下がどこにも見当たらない。テーブルの上は黒い血だまりとなり、こぼれ落ちる血液が今も床を叩いている。


(な……なんてことを……なんてことを……)


 花は頭の中がまっ白になった。何をすればいいのかわからない。何を考えればいいのかわからない。ただ呆然と田川を見た。見下ろした。田川の頭の上には、巨大な肉切り包丁がテーブルに突き立っている。それがいったい何を意味するのか、理解なんかしたくもない……。


 はっ!


 花は慌てて横を見た。いつの間にか誰かが近くに立っていた。遠くのたき火のかすかな灯りに浮かぶその姿は、背の低い女の子だ。コカイン中毒で入院した、あの六歳の女の子だとすぐにわかった。


「あなたは……」


 花は呆然と呟いた。


 黒人の女の子は小さなブロック肉を両手で握りしめている。それをむしゃりと一口食べると、そのまま花に差し出してきた。花はわけもわからず、その肉を受け取った。すると女の子は無邪気に微笑み、自分の斜め後ろを指さした。


(え……? なに……?)


 花はふらりと歩き、その場所に目を向けた。そこはテーブルとテーブルの間の床だった。見ると、やはり黒い塊が落ちている。とても大きな塊だ。花は周囲の警戒を忘れ、呆然と近づいていく。その瞳からはもう既に涙が流れ出している。もうわかる。わかっている。確認しなくても、もうわかる……。



「すなりちゃん……」



 それは砂理だった。片腕と片脚を失った砂理だった。かわいらしかった顔が、田川と同じように恐怖に歪み、引きつっている。中学二年生の女の子は、両目を見開いたまま動きを止めて、物のように転がっていた。


「ああ……ああああああああ……」


 花は床に膝をつき、砂理の体にすがりついた。黒い血だまりに倒れていた体は既に冷たく、ぴくりとも動かない。花は嗚咽を漏らして泣き出した。我を忘れて涙を流した。


『――飽海さん!?』


『こ……これが人間のすることか……』


 すすり泣く花に気づいた草間と藤沢が駆け寄ってきた。二人は田川と砂理の死体を見て息を呑み、立ち尽くす。すると花のそばに立っていた女の子がたき火に向かって駆け出した。


「だれかきたっ! だれかきたっ!」


 女の子は大人たちに向かって声を飛ばした。黒人の男たちはすぐさまナイフや薪を握りしめ、海の家に殺到してくる。


『くそ。こうなったら仕方ない』


 海の家を半円状に取り囲んだ黒人の集団を見て、藤沢が呟いた。


『俺が奴らの相手をするので、草間さんは飽海さんを守ってください』


『分かりました――』



「……待ってください」



 草間が返事をしたとたん、花が低い声で二人を止めた。もはや涙も心も枯れ果てている。


「わたしにやらせてください」


『いや、でも――』 


「大丈夫です」


 花は藤沢に手のひらを向けて言葉を遮り、立ち上がる。


「お二人にはサポートをお願いします」


 落ち着き払った花の声に、二人の男は一瞬戸惑った。しかしすぐに『了解』と応え、砂浜に向かう花の背中についていく。百人以上の黒人たちは、完全武装した花たちの黒い姿を見たとたん思わず目を剥き、ざわつき始める。花は男たちの十メートルほど手前で足を止め、凛とした声を夜に放った。


「アーメド・アブドルラフマン」


 花の呼びかけに、スキンヘッドのアーメドが集団の中から進み出てきた。アーメドは手に自動拳銃を握っている。おそらく麻薬と一緒に武器も密輸していたのだろう。花たちを取り囲む男たちの半数以上が、腰の後ろから自動拳銃を引き抜いた。


「……アーメドさん。あなたはどうして、砂理ちゃんと田川さんを殺したのですか?」


「おまえたちは最初から気に入らん。だから食った」


 吐き捨てるように答えたアーメドに、花はさらに問いかける。


「食べ物も洋服も、家も仕事も受け取っておきながら、いったい何が気に入らないというのですか?」


「その偉そうな態度が気に入らん。おまえたちはただ黙って、金と土地をワシらに寄こせばよかったのだ」


「わたしたちは、あなたたちを養うために生きているのではありません」


「だったら最初から受け入れるな。ワシらは人間だ。自由に生きる権利がある」


「自分たちだけの自由を求めるのはケダモノです。そんなものは未来の無い、黄昏の自由です」


「黙れ。女が男に逆らうな。この愚か者が」


「愚かなのはあなたたちです。あなたたちは、心優しい砂理ちゃんが差し伸べた救いの手を噛み千切った。そんな残虐な獣にかける慈悲など、もはや一片たりともありません」


 花は感情が死んだ瞳で、人面獣心の鬼畜どもを見据えながら息を吐き出す。そして淡々と音声コマンドを入力した。



「――コマンド。FCS、起動」



 ファイア・コントロール・システム、レディ――セットアップ。



 花と藤沢と草間のヘルメットディスプレイに、アプリケーションプログラムが次々に表示されていく。


「ADL、起動」


 オートマチック・ディフェンス・レーザー、レディ――セットアップ。


「DMFB、起動」


 ディレクショナル・マグネティック・フィールド・バリア、レディ――セットアップ。


「HRG、APM起動」


 ヒート・レイ・ガン・アンチパーソネルモード・アンド・エネルギーコネクト、レディ――セットアップ。


「飽海花。SDRを承認」


 セーフティ・デバイス・リリース――オールウェポンズ・アヴァイラブル・アヴァイラブル・アヴァイラブル。


 三人の武器の安全装置が解除されたとたん、エネルギースーツの黒いボディパーツが変色を開始した。


 全身真っ黒だった三人の姿が、たき火とたいまつの淡い光の中で変化していく。藤沢のスーツは藍色に、草間のスーツは紫色に、そして花のスーツは桜色に染まり、スーツの表面に埋め込まれた無数の小口径レーザー照射装置がすべて開いた。


「……草間さん。藤沢さん」


 花は振り返らずに二人の名前を口にした。戦闘準備を完了した二人は、無言で花の指示を待つ。


「現時刻をって、ネスク内にいる外国人すべてを敵性武装勢力と認定します。全責任はわたしが負います。わたしの合図と同時に、敵をすべて排除してください」


『了解』


『了解しました』


 藤沢と草間も感情が消えた声で花に応える。そして花が腰の銃を引き抜くと、二人も両手に銃を握る。同時にヘルメットの内部ディスプレイに映る黒人たちが次々にロックオンされていく。


「――アーメド・アブドルラフマン」


 花はヒート・レイ・ガンの銃口をゆっくりとアーメドに向けて口を開く。


「砂理ちゃんはわたしの大切な友達でした。田川さんはわたしの大事な仲間でした。二人とも、平和な未来を信じて一生懸命に生きる素晴らしい人間でした。その二人の命を奪ったあなたを、わたしは絶対に許しません。だから、二人のためとは言いません。わたしの怒りと恨みを受けて、あなたはこの場で焼けて死ね」


「黙れ。死ぬのはおまえだ」


 アーメドは怒りに顔を歪めながら、手にした銃を花に向け、引き金を引いた。


 そのとたん、黒光りする銃口が火を噴いた。秒速400メートルを超えるパラベラム弾が十数メートル先の花に向かって空を切り裂き突き進む――。瞬間、弾丸が青いスパークに弾かれた。必殺の威力を持つ銃弾は、青い閃光を放ちながら明後日の方向に飛んでいった。


 アーメドは驚愕して目を剥いた。慌ててトリガーを連続で引き、花に向かって銃弾を撃ち放つ。しかし、無数の弾丸はすべて青いイナズマに弾かれて、夜空や砂浜に吸い込まれていく。


「……死ぬのはおまえだ」


 花はアーメドの言葉を淡々と言い返し、トリガーを引いた。


 瞬間――ヒート・レイ・ガンの銃口から必殺の熱線が放たれた。


 超々高熱の青白い光の筋が、アーメドとその後ろにいた三人の男を瞬時に貫く。さらに夜の海を一直線に切り裂き、水蒸気爆発の柱が天に昇った。


 アーメドは体に風穴が開いた刹那、全身が一気に燃え上がった。同時に爆発した海水がスコールのように降り注ぐ。そして、文字どおり人を食い物にした黒人は、雨の中で灰となって燃え尽きた。


 一瞬後、百を超える黒人たちは怒号を上げた。銃を持つ者は怒りに顔を歪ませながら花たちに銃口を向ける。しかし花は淡々と息を吐き出し、ヘルメットの前面を閉じて命令を下す。


『――攻撃を開始してください』


 草間と藤沢は『了解』と応え、同時にヒート・レイ・ガンを撃ち放つ。


 青白い光線が再び夜を切り裂いた。それぞれの一撃で、射線上の敵はすべて瞬時に燃え尽きた。黒人たちは獣のように吠えながら銃を撃って応戦する。しかし、数百の弾丸は一発たりとも花たちには届かない。すべて青いイナズマに弾かれて飛び去っていく。


 同時に三人のエネルギースーツの表面から無数のレーザーが一斉に発射。スーツに搭載された人工知能が銃を撃った黒人たちを自動で狙い、一瞬で射殺する。


 藤沢は右から、草間は左から、そして花は中央から――。


 それぞれがヒート・レイ・ガンのトリガーを引き、目の前の敵を撃ち倒していく。自動拳銃を持たない黒人たちはナイフや薪を握って花たちに襲い掛かるが、三歩も進まないうちに自動照準のレーザーに全身を貫かれて死んでいく。


 そして、花たちが攻撃を開始してから数十秒後――。


 海水の雨が止むのとほぼ同時に、花たちを囲んでいた敵はすべて死に絶えた。三分の一は灰となって完全に消え去り、残りは海岸に流れ着いたゴミのように転がっている。死体から流れ出した赤い血は、すべて黒い砂浜に染み込んでいく。生気の消えた海岸には、打ち寄せる波の音だけが静かに漂う――。



『――飽海さん。あの子どもはどうしますか』



 不意に藤沢が花に近づいて訊いてきた。藤沢は、大きなたき火の近くに立つ黒人の女の子を指さしている。花にブロック肉を差し出した、あの六歳の女の子だ。


『……子どもに罪はありません』


 花は悲しそうに呟いた。そしてヒート・レイ・ガンを女の子に向けて、トリガーを引いた。青白い熱線の直撃を受けた女の子は一瞬で灰となり、たき火の上昇気流にのって消え去った。


『……ですが、砂理ちゃんを食べたことは絶対に許しません。それに、大山地区にいる外国人はすべて排除対象です』


 花の言葉に藤沢はうなずいた。


『了解しました』


『適切な判断です』


 草間も花に言葉をかける。


『難民が一人でもいれば、その保護を口実に、中国が大山地区の制圧に来るはずです』


『わかっています』


 花はヘルメットの前面を開き、顔を出した。強い潮風が頬を叩き、長い黒髪を吹き流す。草間と藤沢も顔を出して、花を見つめる。


「法条知事がエネルギースーツとヒート・レイ・ガンの使用を許可したのは、それを見越してのことです。……ですが、わたしは迷っていました」


 花は目の前に横たわる死体の山を見渡した。


「どれだけ正当な理由があろうと、人殺しは決して許されることではありません。たとえ大事な人を殺されたとしても、暴力に暴力で対抗してはいけない――。それが、人としてのあるべき姿です」


 再び強い風が吹き、遠くでたき火がパチリと弾けた。


「だからわたしは、大山地区に取り残された一般市民を脱出させたあとのことを悩んでいました。わたしが救助隊に志願しなければ、法条知事は特殊部隊を送り込んでいたはずです。そして一般市民を脱出させながら、難民をすべて殺していたでしょう。わたしはそれを防ぎたかった」


 草間と藤沢は花からそっと目を逸らす。


 大切な人たちを無残に殺された女性がどんな気持ちで言葉を紡ぎ出しているのか、人殺しのプロたちには痛いほどよく分かっていた。


「……ですが、ここに来てよくわかりました。難民たちは笑いながら、人間の首でサッカーをしていました。彼らは気に入らない人間を躊躇ちゅうちょなく切り殺し、その肉を食べていました。大人も子どもも、男も女も関係なく、誰一人としてなんの迷いも持っていなかった。つまり彼らにとって、それはごく普通の日常なのです。そしてわたしは、そんな彼らの本性を知らなかった――」


 花は長い髪をかき上げ、遠くを見つめる。はるか遠い海の彼方に目を向ける。


「土地が変われば文化が違う――。そんなことはわかっていた。わかっていたつもりだったのに、わたしは理解していなかった。わたしたちが日本人であるように、彼らはヨビアン人であり、ウルビランド人であり、イギタリア人だったのです。わたしたちは同じホモサピエンスでありながら、同じ人間ではなかった。そして、同じ価値観を持たない存在が衝突するのは、当然のことだったのです……」


 花は顔を上げて夜空を眺める。黄色い月が、分厚い雲の後ろに消えていく。


「同じ人間なのだから、話せばわかる。わかり合える。お互いに手を取り合い、平和な未来を築いていける――。わたしはそう思っていた。心の底から信じていた。だけどそれは間違いだった。なぜならば、困っている人に手を差し伸べるのは、心優しい人ばかり……。だけど、相手も同じとは限らない……」


 花は地上に目を落とす。そして、砂浜に転がる黒人たちを見つめながら言葉を続ける。


「ここにいる難民たちは、自分たちの国を、自分たちで管理できずに見捨てた人間ばかりです。そんな無責任な人たちに、責任ある態度や行動を期待するのは間違いだった。さらに彼らは、与えられた物を受け取るだけ受け取ると、感謝の気持ちをすぐに忘れ、権利だけを主張した」


 花は奥歯を噛みしめた。もはや涙は出てこない。難民たちに対する哀れみの気持ちはとっくに尽きた。今はただ、ネスクで暮らす優しい人たちを守りたいという、愛の怒りしか感じない――。


「自分たちが楽をしたい――。難民たちはただそれだけのために、救いの手を差し伸べたネスクを裏切り、外国に売り飛ばし、わたしの大切な人たちを無残に殺した。そんなことは許さない。絶対に許さない。わたしはもう、彼らを人間とは認めない。だから一人残らず排除する。それが、彼らの選択した未来です――」


 花はヒート・レイ・ガンを引き抜いた。そして瞳の奥に怒りの炎を燃やしながら、すべての死体を焼き払った。




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