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〜朝〜

※マンガみたいな軽いノリのライトノベルがお嫌いな方は読むことをオススメしません。

 朝。

 と、書いて清々しくそれはそれは目覚めの良い素晴らしい一日の幕開けと読む(少なくとも俺は)。それが、これは何だ。

「わたくしぃ。本日より一ノ宮弥彦(いちのみややひこ)様の愛人とさせていただきますぅ。ギガゴギガガと申しますう。ふつつか者ですが――」

 ちょっと待て。

「はいぃ? なんでしょうかぁ?」

 俺にはどう見ても、あなたがマッチョで海パン一丁でムキムキ全開の日本男児にしか見えんのですが。

「そんなぁ(頬を染める)。ギガゴギガガは、今までそんなはしたないマネは一度も……」

 誰もそんなこと聞いてねぇ。

 つーか、ここ俺の部屋なんですけど。家宅侵入罪なんですけど。どうして俺は朝目を覚ましたらこんな変態筋肉に馬乗りにされているのか知りたいんですけど! と言うか、誰か助けてえぇぇぇ!!

 俺は必死にもがいて変態筋肉をどかそうとするが、

「やだ、弥彦さんったらぁ。そんな今は朝ですぅ。ギガゴギガガは、今までそんなはしたないマネは一度も……でも弥彦さんがいいのならぁ……愛の儀式を(はーと)」

 ひいぃぃぃっ!!! おかあああぁぁぁぁさんっ!! おとうさあぁあんっっ!! 

「あら、そんなに叫んで喜ばなくてもぁ」

 どうして誰もこない!? いつもなら騒ぐと鬼の形相で起こるお袋が何故来ない!? ご近所様は見て見ぬふりですか!?

「じゃあ、早速、儀式を……」

 目を瞑り、顔を近づけてくる『我が純潔の人生の破壊者』。

 これは夢だ。これは夢だ。これは夢だ。これは――(以下略)。

 瞬間、黒い物体が『我が純潔の人生の破壊者』に直撃した。

 ずぶんっ。

「ひぶでっ!!」

 突然に軽くなる体。

一体何が起こったのか。いつの間にか『我が純潔の人生の破壊者』は正面の壁まで吹き飛んでいた。よくよく見ると、顔面が紅色に染まっている。そして、何より窪んでいる。

 た、助かった!

 頭の中で幾千の俺が拍手喝采し、生還をどんちゃん騒ぎで祝った。

 が、安心するのはまだ早い。

上半身を起していた俺は、斜め後ろの気配を察知する。

「なんでぃ。こいつぁ小物じゃあねえか。はっ、出直して来いってんだ」

 それは、間違いなく、いや多分恐らく、聞いたことある声だった。頭の中に浮かぶ人物像。しかし、それは間違いなく、ありえない。

 だって、

 だって、

”兄貴はもう死んだはずだ”

 俺は勇気をふり絞って、斜め後ろに振り向いた。

 兄貴!

「おう。弥彦君。危ないところだったな」

 ……じゃない。

「はっはっは、何を言っているんだ。俺はお前のマイブラザーさ!」

 神様聞いてください。

 目の前には何かの生物がいます。そう、例えて言うなら、あれです、よく生ゴミの近くにいたりする黒い、ゴから始まってリで終わるあれです。はい、こともあろうに人並みに巨大で、それだけでも私は絶叫して逃げ出したいくらいなのに、その悪魔は私にこう言うのです。俺はお前の兄弟だと。祖先にこんな人類最凶の敵はいないはずです。嗚呼、神様私はもう終わりです。一体、私が何をしたのいうのでしょうか? それは私も人間ですから、色々な良からぬことを働いたりはしました。ええ、昨日、校長のカツラ疑惑を暴露しとことがいけないのでしたら、深く反省いたします。ですから、こんな奇天烈な世界は簡便してください。

「弟よ。俺はずっと会いたかった! しかし! これからはずっとお前の側にいられるように神様から蘇らさせてもらったのだ! はっはっは、神様も捨てたもんじゃねえな」

 神よ! あなたは私を見放した!

 つーか、あんた蘇らせる方法を間違えてますよ。これ、人間ではないですから。こんな形で兄貴が生き返っても全然嬉しくないから!

「ふふふ、心配するな。三日しか甦られないとか、そんな制約はない。俺は一生お前と一緒だ」

 そう言って、G化兄貴(以後Gと表記)は世にも気持ち悪い動きをした。ただでさえ、巨大なのに、その気持ち悪さは、俺を発狂させるに充分だった。ちなみに、俺が世界で一番嫌いなものが目の前の化け物なのは言うまでも無い。

 ひやああああああぁぁ!!

 俺は部屋の扉を荒々しく開け、階段を転がるようにして下りた。

 ドタドタ、ドッスンッ。

 ……。

 静寂。

 おかしい。いつもこれくらい騒がしいマネをすれば、おふくろが黙っちゃいないはずなのだが……。しかし、俺はあることを思い出し、玄関に行って二人の靴を確認する。

 やはり、靴が無い。

 最悪のタイミングだった。二人とも、今日は親戚の法事でいないのである。

 つまり、俺は家の中にGと二人きりということになる。

 だが、ご近所さんまでもこないのがおかしい。狭い住宅街でこんな騒ぎはご法度なはずだ。

「なんだマイブラザー。そんなに恥ずかしがらなくても、兄さんはどこにもいかないよん」

 後ろからの声。

 振り返るなっ。振り返ればヤツがいる。

 つまり、この状態から一番の行動は……!

 俺は玄関の扉(横スライド式)に手をかけた。

 が、なんの冗談か、扉はビクとも動かない。

「あらびっくり。この家のあらゆる出口は兄さんマジック(仮称)で全部開かなくした。そして、音もすべて外部には洩れない! 聞こえない! 兄弟水入らずにするためなっ!」

 なんじゃそりゃぁぁあああああ!!

 俺は必死に扉をあらゆる角度で押し、叩き、引いた。だが、悲しいかな動かない。蹴破ろうかとも考えたが、旧式の分厚いガラスで出来た強固なそれを壊せる物がない。

「さあ、兄さんがハグハグしてあげるぞ」

 カサコソ、カサコソ。

 後ろから、聞くだけでぞっとする足音が聞こえる。

 俺は振り返りたくはないが、振り返った。

「うっ……」

 見るだけで吐き気が込み上げる。実際は気絶すらしそうだった。が、それは即ち雪山で眠るのに等しい。あんなのに抱きつかれたら俺は死ぬ。確実に。Gは目前まで来ていた。ただでさえ狭い廊下がGによって余計に狭く感じる。唯一幸いなのが移動スピードが遅いということだろう。いや、逃場がない時点であまり意味が無いか。

 俺は残った理性で何とか方法を考える。最初に殺虫剤を探さなかったのを後悔した。

 スリッパで叩くか!?

 だめだ!

 革靴で叩くか!?

 だめだ!

 ハイヒールで叩くか!?

 だめだ!

って、どれも同じじゃねえか。くそっ、焦るな、クールになれ、クールになれ俺。

 その時、頭の中で閃光が光った(気がした)。

 置き傘で突き刺すか!?

 俺は唯一武器になりそうな、それを見る。

 ピンク色でお袋の名前が書かれたそれの先端は、狂気的なオーラを放ち、「私を使うのよ! 今こそ目の前の悪魔を、抉れ! 突き刺せ! コロセェェ!!!」と言っていた(気がした)

 

俺:だめだ! そんなことしたら君が気持ち悪いGの体液だらけになってしまう!

ピンク傘:ミーだってそんなの怖いんだヨ? デモネ、愛するご主人が危機になってるなら助けるのが傘の本望だYO! 雨だろうと血だろうと液体だろうと被るのが武士ってもんなんだぜええぇぇぇい!! ヒャッ八ハッハッハッハはハアハア!!!

 

 俺はしっかりと肯くと、ピンク傘を傘たてから抜き取った。嗚呼、お前の尊い犠牲は忘れない。少なくとも、三日くらいは。

 ふいにGが何かを言った。

「ふがどりんどまりまどりががぎぎ(かわいい声で)! 死ね」

 瞬間、手元が光った。と、思ったらピンク傘が灰となっていた。

 え〜……。

「ハグハグするのに、邪魔そうだったから消したよーん」

 絶対絶命。

 それ以外に、この状況をどう表せというのだろうか。

 俺の頭はすでにあきらめモードになっていた。

 アハハ、セカイガハイイロニミエルヨウ! メニヤサシイナ!

「危ないですぅ!!」

 突然、場にそぐわぬファンシーな女の子の声。そして、何かものすごいエネルギー波を発射したような轟音。Gの後ろから向ってくる黒ずんだ光線。気がついた時には、風景が真っ白に染まった。俺もGも。

 えっ、うそん。

 体が光に包まれるのを感じる。いや、それ以前にこれまで俺が生きてきた情景が再生されるのを感じる。あ、そうか、俺死ぬのか。思えば、それほど長くはない人生だった(十六年と四ヶ月と二日)。お父様、お母様、この一ノ宮弥彦、親不孝ながらこんな意味不明な展開で先に逝きます。さようなら、さようなら。

「ちぇすとぉぉ!! ですぅ」

 ぐちゃり、と虫を潰したような気持ち悪い音がした。

 あれ?

 光はいつの間にか消え、目の前には黒光りした巨大なトゲトゲの物体とその下に緑の液体を撒き散らす崩壊した何かがあった。簡単に言えば、凶悪な鈍器と虫の死骸。いや、ぴくぴくと触覚が動いているところを見るとまだ生きているかもしれない。

 いや、待て。そこが問題ではない。(いや、むしろ問題だらけなのだが……)

 あのエフェクトなに!? 無駄に俺は人生ふりかえちゃったよ!? 今のあきらかにビーム系の攻撃だったよね!?

 が、一番の問題はそれらの後方にあった。

 たたたっ、と”それ”は壁を伝って(忍者か)、鈍器と死骸を避けながら、俺の目の前までやってくる。

「なんとかギリギリセーフでしたぁ。弥彦さんが無事でよかったですぅ」

 ただ、俺は口をぽかんと開けることしかできなかった。

 目の前に笑顔で立っていたのは、あでやかな桜模様の着物を着た美少女だったのである。

 透き通るような肩まで伸びた金色の髪が綺麗だった。

 俺は少なくとも、この時初めて歪んでしまった現実をありがとうと思った。

 が、俺はすぐに思考を取り戻すと、

「……すみませんが、どちら様でしょうか?」

 と、訊いた。

 少女は悲しそうな顔をすると、

「そんなぁ。さっき自己紹介したばかりですよぉ。もう忘れちゃったなんて悲しいですぅ」

 は……?

 俺は先程までの出来事をプレイバックしてみる。何度も再生し、巻き戻しをするがそれらしいことは一度も……。

”ワタクシぃ。本日より一ノ宮弥彦様の愛人とさせていただきますぅ”

 そんなことは一度も……。 

”ギガゴギガガと申しますう。ふつつか者ですが――”

 まさか。いやそんなことはない。第一容姿が――、

「弥彦さんの新しい愛人のギガゴギガガですよぅ! しくしく……名前も忘れられ、愛の儀式まで邪魔されるなんて初日から酷すぎますぅ……しくしく」

 と、少女はガクリと床にへたり込む。

 マジデすか。

 俺はどうしてよいかわからず、しかし、とりあえずお約束の疑問をぶつけることにした。

 え、え〜と、もう一つ、訊いてもよろしいでしょうか?

 ギガゴギガガ(言いにくいので以後着物少女と明記)は顔を上げると、

「うぅ、なんですかぁ?」

 不覚にも、潤んだ瞳をした今にも泣きそうな顔にときめいてしまった。レッドゾーンにメガヒットでございます。いかん、おかしくなっているでござるよ。

 俺は頭を正常にするため首を振った。しっかりしろ俺。まだ肝心な突っ込みをいれなければいけないんだ。

 と、ところで、あの筋肉が眩しいお方はどこへ行ってしまったのでしょうか?

 着物少女は一瞬だけポカンと不思議そうな顔をして、

「ああぁ! あれは地球用の生命維持スーツですぅ」

 と、思い出したように言った。

 は? 生命維持スーツ?

「はいぃ。あれがないと、三分で死んじゃうんですよぉ」  

 瞬間、着物少女の顔に黒い線のような模様が浮かび上がる。そして、その模様が某ウルトラな人さながらぴこんぴこん、と音を起てて赤く点滅し始め……ってうおおおおい!!

「ふえぇ? どうしたんですかぁ?」

 光ってる! 光ってるって!!

「光って……? きゃあああああああ!!!」

 状況とまったく合わぬ、かわいい悲鳴を上げる着物少女。が、おもむろに着物の帯を解き始めて……ってうおおおい!!

 着物がするりと肩まで落ち、真っ白な肌が露出する。

 ちょ、ちょっと待て!

「なんですかぁ?」

 なぜ脱ぐ!?

「だってそうしないと――(どこから出したのか、先程のマッチョの着ぐるみを手に出す)そうしないとこのスーツを着れないんですよぉ。ああぁ!! もう時間がぁ!」

 俺は欲望を捻じ伏せ、すぐに後ろを向く。ぐっ、泣くな、泣くな俺、大丈夫、人として正しいことはしているさ(泣)。

 さらり。

 着物が床に落ちる音。それだけで、俺の頭にはピンク色の妄想が暴走する。ぐっ、一+一はニ、一+一はニ、一+一はニ、一+一はニ、一+一は……。

 

 こうして、俺のデットラインな一日が始まった。



 【とくにデットラインな一日 朝(と、書いて清々しくそれはそれは目覚めの良い素晴らしい一日の幕開け)〜つづく〜】


 どうも、作者のくーろこです。一言でこの作品を言わせていただけば脳内妄想理不尽系(どんな系だ)ギャクライトノベルでございます。作中で苦労したことはほとんどありません。ええ、そうですとも。すべては妄想の果てに生まれた汚物であります。ですので、基本的には馬鹿丸出しです。

 尚、この作品にはそう言った性質があるため、それらがお嫌いな人にはオススメできません。気分を害すが脳内のある部分がおかしくなります(これは嘘です)。まあ、ここまで読んだなら手遅れでしょうが。

 誤って読んでしまった読者さんも、ちゃんと読んでくれた読者さんにも一言。

 こんな作品を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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