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翌朝、睦美に会いに行くと睦美はおらず、睦美の祖母にケータイの番号とメールアドレスをチラシの裏に書かせてもらい、睦美に渡してほしいとお願いした。
帰りながら美海は、睦美姉と行けなかったらどうしようと不安になった。やっぱり一人ぼっちなんだと笑われるだろうか。
もう少しで自分の家というコンクリートブロックの塀の手前で、誰かが駆けつけてくる気配がして振り返る。すると青ざめた弟が、物凄い勢いで横を通り過ぎ、照家の敷地へと入って行った。
「…美空?」
急いでその後を追うと、玄関前に頭を抱えて「ありえへん」を何度も繰り返し言い、座り込んでいた。美空の視界に美海のサンダルが入り込むと、「何なんアレ!」と、嚙み付いた。
「人間ちゃうで!口からぶぁ〜〜って、泡か分からへんけど、めっちゃ汚いヤツおったで!」
感情を取り乱す美空と違い、美海は「どこにおった?」と冷静に訊く。
「知らん、知らん道や!普通におった!」
美空の話と美海の記憶を照らし合わせて、その正体は蘇鉄の実を食らって毒死した女の霊だと分かった。戦後、食べるものがなくて蘇鉄の実をアク抜きして調理し、飢えを凌いでいたと聞いたことがある。嫁に赤ちゃんが産まれてめでたいので、とにかく何か食べさせてやりたいと、姑が料理を作って死なせたという話を、祖母が、最近あった話のように生々しく喋っていたのを思い出した。
「私もあの細い路地で見たことあるよ。だから通らん」
「言えや!」
気分を悪くしている弟を気の毒に思う一方、自分以外に見えないものが見えている人物が目の前に存在していて、美海は嬉しくなる。
「なに笑っとんねん、性格悪っ」
美空は悪態をつき、祖母の部屋を借りると言って家に入る。そんな態度に、美海は気にせず見届け、遠ざかる美空の背中に向かって小さくおかえりと呟いた。




