表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/28

翌朝起きると、誰もいなかった。

祖母の姿が見えないのは、本来なら当然のこと。神出鬼没で、見える日もあれば、見えない日もある。それは仕方ないとして、いるべきはずの父と、いてもおかしくない弟の姿がないことに、朝から虚しくなった。

 日常に戻っただけ。

誰もいない茶の間で、美海は自分にそう言い聞かせ、台所に向かって冷蔵庫を開ける。そして、朝ごはん代わりに麦茶を体内に流し込み、水分補給をすませると、自室に戻ってベッドの上に横になった。

昨日の電話で、美空にとってここだけが居場所ではないと実感した。母方の祖父母の家と、大阪。美空にはちゃんと逃げる場所があるのだ。どうして自分はそんな当たり前のことに気づけないのか。血が繋がっているからといって、親近感を持って馬鹿みたいと、美海は自分を憎らしく思った。

 大の字に寝そべって目を瞑り、今日の一日の計画を立てる。

涼しいうちに掃除して、お昼になったら何を食べよう。昼は暑いからやはり勉強を午前中にすませ、午後から掃除をしようか。夕ご飯はどうしよう。美空は照家に戻ってくるだろうか。

会いたいわけではないが、美空の顔が浮かぶ。しかし、頭の中の美空は可愛げがなく、美海に向かって「可哀想な犬」と蔑む口調で言われたのを思い出した。そんなに音痴だろうかと自分の疑問に答えるべく、童謡の犬のお巡りさんを、イントロから脳内に流して口ずさむ。

迷子の迷子の仔猫ちゃん。あなたのお家はどこですか。お家を聞いても分からない、名前を聞いても分からない。

「にゃんにゃんにゃにゃ〜ん、にゃんにゃんにゃにゃん」

「何泣いてるわけ?」

「にゃっ!」

 目を開くと、悟が顔を覗き込んでいた。

「だから、勝手に入ってこんでっちば!!」

「一応玄関で挨拶したけどや」

 悟は気にせず、ショルダーバッグからケータイを取り出し「はい」と美海に差し出す。受け取った美海は、それが父親のものだとすぐに分かった。なぜ悟が、自分の父親のケータイを持っているのか不思議に思っていると「俺が交渉したんど」と、悟がしたり顔で話しかけてくる。

「娘を、夜中一人歩かすなっち、お前の父ちゃん叱っといた。美海にもスマホ持たせれっち言ったら、そんな金無いっち言われて、これ渡されたんば、無いよりマシよや」

「え…?」

「今日からそれ、お前のケータイ」

 自分のケータイ?

美海は悟とケータイを交互に見て、本当に?と目で訴える。

「いらんかったらお前の父ちゃんに返す」

「いるいるいる!」

 取り上げられそうになるケータイを大事に両手で隠し、悟から遠ざける。

「大事にせよ」

「うん」

 先ほどまでの憂鬱な気持ちが一気に吹き飛び、ありがとうと感謝して、早速ケータイを開いた。電話とメールと、あとネットで色々調べられたら最高だなと、とりあえずボタンを押して、色々と弄る。楽しそうな美海に、悟は「俺の連絡先、入れといたから」と告げると「えー、いらなーい」と笑って邪険にしたので、悟はまた美海からケータイを取り上げようとし、美海は態度を改め謝罪した。

「分かればいい。あ、あとライン。ガラケーでもできるはずだから、ちょっと貸してみん?」

「ライン…?」

「CMで見たことあるだろ」

「ああ!絵、飛ばすやつ?」

「絵を飛ばすって?ああ、スタンプや」

 悟が操作を手早く進めていくので、それに引き込まれるように美海の顔も近寄っていく。その距離に照れた悟が「近い!」と美海を叱ると、美海はベッドの上に正座して待機した。

 しばらくして「これで電話とか無料になったから」と渡す。美海は両手で受け取り、しばし感動を味わう。これで簡単に連絡ができると思うと、睦美の存在が頭を過った。

「そうだ、睦美姉の連絡先聞かんば」

 美海は立ち上がって部屋を出ようとすると、悟に「おい待て」と制される。

「誰のおかげでケータイ使えるようになったっち思ってるわけ」

「悟だけど?」

「よし。そしたら少しは俺の役に立たんばやっち、思わん?」

「え?」

 愛嬌のある悟の笑顔に裏があると感じた美海は、眉を顰めた。

「舟こぎの人数足らんから、来い」

いままでのお誘い口調はなくなり、半ば強制的に美海は海へと拉致された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ