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まっすぐ家に帰るには、辛かった。

 昨日の夜、自分には睦美姉がいると思ったから、だから睦美姉は島から出て行っていまうのではと、美海は自分を恨めしく思った。

 私も島から出たい、私も島から出たい。

 そんな気持ちがより強く増し、早く大人になりたいと思った。大人にさえなれば、解放されるような気がした。島のしきたりとか、伝統とか、親戚や近所の目とか、そういうものから解放されて、島の外で、自由に生きたい。人の目を一切気にせずに過ごしたい。

しかし、来るのかさえ分からないそんな日はまだ先にあり、毎日美海は孤独に胸が押し潰されそうで、いっそのこと爆弾みたいに弾けてしまえばいいのにと思うのに、心はいつまでたっても砕けない。そんな一日一日が、心苦しい。

 見えない足枷を引きずる美海の足は、雨上がりのコンクリート道から多量の水分を含んだ山道へと入った。なんとなく海が見たくなった美海の重たい足は、泥濘に足を奪われないよう気をつけながら、展望台へと歩く。そして到着すると、その場からでも海は見渡せたが、天井の無い二階から青空と海を広々と見たくて二階を目指す。しかし、途中まで階段を上がったところで「やばいっ」という声が聞こえた。先客がいるらしい。相手も自分の存在に気づいているわけだし、引き返すのも変かと思った美海は、一瞬足を止めたものの、そのまま二階へ上がった。見渡す限りに広がる海を、夜には見えなかった輝く海をみて癒されたい。その気持ちが優った。

展望台はみんなの場所なのだから、変に気を使わなくていいと自分に言い聞かせせて上った美海だが、二階に到着して、それは間違いだったと後悔する。

「…なんだ、照さんか」

 慌てて制服のシャツを着ようとしてボタンをかけ間違えた聖司が、美海を見て、安心の表情を見せた。聖司のすぐ後ろには美海の母校でもある中学の制服を着た女の子が、その制服を着直しているのが分かる。しばらく硬直し、視線を何処に向けていいのか混乱した美海は「ごめんっ!」と勢いよく謝り、その場からものすごいスピードで逃げ出した。しかし逃げ出す途中、乾ききっていない階段の苔を踏んで豪快に滑り、叫んで落ちた。痛くてすぐに立てずにいると、二階から降りてきた聖司が「大丈夫?」と手を差し出す。

 恥ずかしい。

 自分が滑ったことに対してなのか、それが人に知られたからか。いや、それだけではない。美海は分かっている。さっきまであの女の子を触っていたであろう、その手を掴んで立ち上がり「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせるように返事をした。

「ほんと?擦りむいてるけど…」

「平気、平気!」

 笑って気丈に振る舞うと「照さん」と、聖司が人差し指を自分の唇に当て、ひっそりお願いをした。

「このこと、誰にも言わんでね」

 その一言で半信半疑だった聖司たちの行為が、美海の中で確定する。頷く美海を見て微笑んだ聖司は「じゃ」と、二階へ戻った。

 階段を上る足音を聞きながら、美海は回れ右をし、展望台から出る。そして山道へ戻ると、亜熱帯の木々の中を全力で走りだした。

 真面目だと思っていた聖司が、優しくてかっこいい聖司が、やることはやっていた。聖司を恋愛対象にしていない美海だが、中学時代の聖司は女子からモテており、そういえばバレンタインデー当日、後輩の女の子に校門前で待ち伏せされていたなと思い出す。なんとなく聖司はみんなのアイドルのような存在で、誰のものにもならないと思っていた。

「あーーーっ!」

何が聖人の聖を司るで聖司だ!

 美海が走りながら大声で駈けても、驚くのは野鳥くらいだった。


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