10
お祭りまでの三日間、悟が照家に姿を見せることはなかった。その間、美海の心中は複雑だったが、美空が家にいるので話し相手には困らず、普段より寂しさを感じない。美空は時々、テレビを見るため祖母の部屋から出てきた。そしてそのまま持ってきた本を読んでくつろぐので「何読んでるの?」と訊く。すると「ラノベ。ライトノベル」と言い、素っ気ない態度を取ると「読まへんの?おもろいで」と、少し熱のこもった異世界ファンタジーの素晴らしさについて語るので、美空にも夢中になれるものがあるのかと、美海は美空の知らない面を知った。
知らない面を知ったことで、距離が近くなった気がした美海は、もっと縮めようと、地元料理である油ソーメンをお昼に御馳走しようと、慣れない手つきで一生懸命作った。しかし、美空はそれを凝視して「それ、食い物?」と、まるで汚物でも見るかのような態度をとるので、頭にきた美海は、睦美の祖母に油ソーメンの作り方を教えてもらいに行き、夕ご飯にもう一度作って「今度は美味しそうでしょ!」と自慢げに勧めたが、そもそもソーメンが好きではないと判明した。美海は最初からそう言えと罵れば、訊かなかったお前が悪いと言い返す美空。互いに負けてたまるかと、まるで修学旅行の枕投げでもするかのように、楽しく言葉を投げ合った。
お祭りの前日になると、お菓子や飲み物を持って美空と見たいと思い、美海は机上の貯金箱に手を出す。五二一円。へそくりとして貯金箱のお金以外に、お金の入った封筒を、机の引き出しの裏に張り付けている。けれどそのお金は、万が一のために貯めているので使えない。
美海は大きくため息をついて、自分のお金の無さに項垂れた。今回のように、手っ取り早くお金が欲しくなると、ここが田舎ではなく都会だったらパパ活ができるのにと、度々思う。パパ活という言葉は最近見たワイドショー番組で知ったが、ネットで知らない男性と連絡を取り合い、デートをするだけで二千円から五千円は稼げるという。テレビにモザイクをかけられて映った女子高生は、性行為も無いし、ごはんも奢ってくれるし、甘え上手になれば服もバッグも手に入るのだと、自慢げにインタビューに答えていた。けれど、危険な目に合わなかったかインタビュアーが尋ねると、待ち合わせ場所に一人ではなく、複数の男性が待っていたと述べ、それ以上は語らず、いまはパパ活をやめたと告げた。番組は、子を持つ親に向かって注意喚起を促す内容だったが、それでも美海は、ただで美味しい御飯が食べられてお金が貰えるなんてといいなと憧れた。自分を心配する家族もいないし、何時に家に帰ろうが誰も咎める人はいないし、むしろ一人で家にいるより有意義に思えた。
机の上のスタンドミラーを手に取った美海は、百面相で顔の筋肉をほぐし、最後に満面の笑みを顔面に張り付けて、自分を確認した。特別かわいいとは言えないが、そこまで悪くないと評価し、こんな自分でも誰かが必要としてくれるのではないかと夢を見る。今ならガラケーとはいえ、ネットに繋がる手段がある。やってみようかなとガラケーに手を伸ばしたが、悟に知られたら怒鳴られて軽蔑されるかなと、思い留まる。狭い田舎だ、相手がクラスメイトの父親の可能性もあり、すぐに噂は広まるだろう。
悟とは、ずっと幼馴染でいたい。
美海はガラケーを持たずに玄関へ行き、父のハブ取り棒を握りしめ、近くの山の中へと勇ましく入る。叢をつついたり、枝にぶら下がっていないか見上げたりと、ハブ取りを試みたが、見つけることさえ出来きず、日が暮れる前に帰宅した。もしかすると父は凄い人なのかもしれないと、転んで作ってしまった膝の擦り傷を消毒しながら、ほんの少しだけ感心した。




