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第5話 族長さんはデリカシーのない方でした。

 ガチャっという、扉の開く音にそちらを向くと、これまた渋いオジサマが立っていた。

 ふぇー。

 貫禄のある人だなぁ。

 この人が族長かな?


 呆けている私とシルを見てオジサマが此方に歩いてくる。

 そして、椅子にドカッと腰かけた。


「いやぁ! スマンスマン! 待たせたな! クッソ面倒な仕事が溜まっておってな! サボろうとしたんだが、セフィに捕まってしまってな!」


 豪快に笑いながら、オジサマは話しかけてきた。

 あれ? 貫禄のある知的で素敵なオジサマに見えたんだけど?

 あれ?


「それで、シルフェルスよ。どうだった?」


 ひとしきり笑った後、オジサマは、さっきの様な真面目な顔をしてシルに問いかける。


「はい、族長。やはり小鬼族は森の中にまで入り込んでいます。今のところ、進化個体は見かけていない為、はぐれか斥候か。今しばらくは猶予があるかと思います」


「そうか。どれくらいありそうだ?」


「一月か二月か。日に日に見かける数が増えている為、食糧的な部分から見ても、あまり悠長に構えている訳にもいかないかと思います」


「そうか。打って出るか、待ち構えるか。地の利や戦力を考えると、山に行くのは得策とは言えんが。まぁこの件は後で詰めていくとして」


 オジサマが私の方を見る。

 慌てて背筋を伸ばして頭を下げる。


「シルよ、このチンチクリンは何だ? 人族に見えるが? 嫁か?」


「族長! 失礼ですよ! 彼女は森でゴブリンに襲われていた為、保護したのです。シュン、挨拶は出来るかい?」


 シルが私の方を向いて話を促す。


「あ、はい! 初めまして。伊達 駿といいます。えっと日本に居たんですが、気付いたら森の中にいて、シルに助けていただきました」


 オジサマは片眉を上げて、私を見てくる。

 日本って言うのはやっぱりまずかったかな?

 でもシルに話しちゃった以上は、隠しても仕方ないからなぁ。


「ふむ。嬢ちゃんよ、えらく流暢に話すが、それはどっかで習ったのか?」


 オジサマは私の不安とは別の部分を指摘してきた。


 え? どゆこと?

 普通に日本語で話してるだけなんだけど、何かおかしいのかな?

 ていうか、そういえば普通に会話できてるよね。

 普通に考えたらおかしいよね。


「え? えっと、普通にお話してるつもりなんですが、どこかおかしいですか?」


 でも私としても、普通に話してるだけだから、これ以外に答えようがない。

 オジサマは訝しげな顔をする。


「嬢ちゃん。ちょっと聞きたいんだが、アンタはニホンとかいう、聞いたこともないような国から来たのに、こっちの言葉を理解して、しかも流暢に話してもいる。普通に考えて、ありえねぇって話だ」


 ビクッと肩を竦める。

 オジサマから何ていうか、殺気の様なものを感じる。

 ゴブリンなんかよりよっぽど怖い。


「族長! 止めてください! 彼女が敵の手の者なら、わざわざ怪しまれるような事を話す理由がありません!」


 シルがオジサマと私の間に身体を挟んで、隠してくれる。

 殺気がおさまって、身体が少し楽になる。


「シルよぉ。お前は腕もたつがまだまだ若い。周りが全てお前みたいな甘ちゃんだとは思うなよ? まぁ、ゴブ公がこんな搦め手を使ってくるとは俺も思っちゃいないがな」


 オジサマは肩を竦めて、やれやれといった風にそう言った。


「嬢ちゃん悪かったな。ちょっと今此処はピリピリしててよ。オジサンいじめちまった」


「い、いえ。怪しいのは私自身そう思いますから、気にしないでください」


「そう言ってくれて助かるぜ」


「それで族長。族長もニホンという国は知らないって事ですか?」


「あぁ? そうだなぁ、俺も何でも知ってるって事じゃないからな。聞いたことないもんは知らねぇよ」


 まぁそうだよね。

 明らかに世界が違うもんね。


「そうですか。では、彼女が帰れる方法を探しながら、それまでは僕の家に置いてあげても問題ないでしょうか?」


「ん? そいつは構わねぇが。さっきも言ったが、俺は怪しいとは思ってるから、お前が監視として付くという条件付きになるぞ?」


「構いませんよ。ということで、シュン。少し嫌な思いをするかもしれないけど、僕の家で暫くは故郷に帰る手がかりを探してみないかい? 勝手に話を進めてしまったから、シュンが良ければだけど。」


「え? もちろん! 私はむしろとても助かります! シルに迷惑がかかることの方が心配なくらいで」


「大丈夫だよ。迷惑だなんて思わないから、兄だとでも思って、遠慮しないで接してほしい」


「シル……お前……」


 オジサマが複雑な顔をしてシルの事を見ている。

 さっきまでの豪快なオジサマとは思えない。

 痛みに耐えるような顔だ。


「族長。気にしないでください。そういうつもりはありませんから。ただ、この子の力になってあげたいだけですよ」


「そうか……よし、嬢ちゃん! 遅くなって悪かったが、改めて。俺はこの集落の族長で、名をソルトロッソってもんだ! 宜しく頼むぜ!」


 オジサマはさっきまでの表情が嘘のように、快活な笑顔を浮かべて自己紹介してくれた。


「それで、嬢ちゃん。さっきの俺の殺気でチビってねぇよな?」


 豪快に笑いながら、ソルトロッソオジサマはそんな事を言いやがった。


 この人はデリカシーのない人だ。

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