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第8話 盗賊:終了

 *


 その後――


 ――男は防戦一方だった。あれ? 何かあるんじゃないの?


「や、やるじゃねェか、ニイちゃん」


 シルの直剣から放たれるカマイタチを大袈裟に避け、肩で息をしながら男は言う。けど、とっても雑魚っぽいよそれ。


「えーっと……?」


 シルは相当に気合を入れてカッコつけたこともあり、ちょっと気まずそうに頬を掻いてる。わかる、わかるよその気持ち。


「はぁ……ズール。もういいだろう? アンタはガチンコで正面切って戦うには向いてないんだからさぁ」


 女の人が立ち上がって肩を(すく)める。あの男の人ズールっていうのか。小物臭しかしない名前だ……

 そのまま女の人は小屋を出て、シルとズールの間に立った。

 シルの方へ向き直り――


「お兄さん。ここらで終わりにしようじゃないか」


 ――不穏な空気が流れる。緊迫した気配に思わず喉がなる。







「いやぁ、悪かったね! ちょっと試させてもらったよ。小鬼族(ゴブリン)の大侵攻を止めたってのも嘘じゃなさそうだ。あっちの嬢ちゃんも中々面白い感じだしね」


 ええ⁉︎ 何⁉︎ どゆこと⁉︎

 いきなり女の人が表情を崩したことにガクっとなる私。


「えっと……ご説明をいただけますか?」


 シルも困惑の表情が隠せないでいる。


「あぁ、すまないね。アタイはエリーゼ。エリーでいいよ。細かい話をする前に、一度嬢ちゃんの縄を解こうか。アタイとしてはあのままでもそれはそれでそそるものがあるけど」


 ヒィ!

 こっちに視線を移して、ジュルっと舌なめずりするエリーさんの目線で背筋がゾワッてなった。


 *


「ぷは! シル!」

「ちょっ⁉ シュン⁉ 大丈夫? 怪我はない?」


 縄と猿轡(さるぐつわ)を外されて思わず抱きついてしまった。恥ずかしい。


「キュッ」

「スーちゃん! ありがとね。シルも。怪我はないよ。精神的には磨耗したけど……」


 思わずエリーゼさんをジト目で見据える。


「アッハッハ。悪かったね。でもアタイも依頼を受けてやったことだ。怒りの矛先はそっちに向けとくれ」


「でも、そっちのズールさんでしたっけ? その人には髪の毛引っ張られたんですけど?」


 私がそう発言し、指差すと。シルは直剣を抜き、エリーゼさんは首がカクンと音を立てるかのように動いた。


「え? 姉御? ニイちゃん? 目が怖い……ぜ?」


 *


「全く。髪は女の命なんだ。その辺の乱暴は許しゃしないよ」


 パンパンと手をはたくエリーゼさん。そしてボコボコにされたズールさん。とりあえずシルはその手に持った直剣をそろそろ収めてほしい。


「えーっと、それで依頼ってことでしたけど……どういうことなんです?」


 シルが聞けそうにないから代わりに聞く。一応聞いたところでシルが思い出したようにこっちに戻ってきた。


「そうだねぇ。依頼主から金も頂かないといけないし、説明も面倒だ。直接本人から聞いとくれ。アタイもアンタ達と一緒に行くよ」


 エリーゼさんはそう言って不敵に笑った。


「え? えぇ⁉︎ いやいや、ちょっと待ってくださいよ。状況が全くわからないのに一緒にっていうのはちょっと……」


 シルが慌てて断りを入れる。シルの動きが面白かったのかスーちゃんは真似して手と首をプルプルしてる。なるほど。この子はこうやって周りの動きを真似して覚えてるのか。


「なんだい兄さん。そんなことじゃ器が知れるよ? 男ならドーンっと構えておかないと」


 ケラケラと笑うエリーゼさん。そこまで悪い人って感じはしなくなったけど、それでもシルが断るのはわかる。さっきまで襲ってきてた人と、急に一緒に行動するなんて普通は考えられない。


「えっと、エリーゼさん――」

「エリー! もしくはエリーさん、だ!」


 この世界の人はフルネームが嫌いなんだろうか……


「エリー……さん。シルの言いたいこととしては、信用できるかどうかもわからない人と急に一緒に行動はできないってことだと思います。私もそう思いますし……」


「ふむ。それもそうだね。ヤダねぇ、最近は荒事ばかりでちょっと大雑把になってたみたいだよ。とりあえず信用されるかどうかはわからないけど」


 そういってエリーさんは、胸元から何かを取り出した。


「これは……ウィスタリア王国の紋章?」


 その手にあったのは、王国の紋章とやらが入った一枚のカードだった。


「そうだよ。これは依頼主から渡されてるもんだ。一定期間で燃え尽きるモンだが、これで分かったろ? 依頼したのは――ウィスタリア国王さ」


「な⁉︎ ウィスタリア国王が何故⁉︎ それよりも王国より勅命を受ける盗賊というのはどういう事ですか⁉︎」


 シルが思わず立ち上がり問いかける。


「あー、もう。兄さんはもっと冷静かと思ってたんだがねぇ。さっきも言ったが全部説明するのは面倒なんだよ。だからアタイも一緒に国王に謁見しようって事だ。恨み言も質問も直接本人にしな」


 エリーさんはこれ以上は話さないといった風に顔を背けた。

 ひとまず、シルは紋章の入ったカードは偽物じゃないと判断したようだ。


「えっと、そういえば部下の方々を気絶させてるんですが、そちらは……」

「あぁ、そっちは別にいいよ。どうせ勝てないと思ってたし、命があるだけ儲けモンだろうさね」


 シルが少し申し訳なさそうに言った言葉に、あっさりした答えをエリーさんは返した。


「ひとまず今日は夜も遅いし、この小屋を使っておくれ。アタイは簡単に旅路を整えたら明朝ここにくるからさ」


 エリーさんはそう言って、ズールさんを引きずって小屋をあとにした。

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