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第7話 盗賊

「あなたたちがシュンを開放していただけるのであれば、これ以上は何もしません」


 シルは弓を引きしぼり、狙いを定めている。狙いの先は左腕を弓に射抜かれ、血を滴らせている男だ。

 男の表情は私の方からは見えないが、大人しく従おうという様子には見えない。


「ほぉ。コイツはまた。この子も色男だねぇ……お兄さん? 開放しなかったらどうなるって言うんだい?」「ンンーッ⁉︎」


 赤髪の女の人は、中腰のままシルの方を向き、私の顎に手を添えてそう言った。その触り方――なんかゾワゾワするので、やめてほしい!


「ッ! あまり女性には手をあげたくないんですが……大人しくしてもらうことになります!」


 ギリッと弦が音を立てて、矢の先端が赤髪の女性を向いた。

 その時だった――


「ニイちゃんよォ。あんまコッチを無視して話をしてんじゃねェ、よ!」


 ――男の方が動いた。右手にはいつの間にかナイフが握られている。

 男がナイフを振り下ろし、シルに迫る。

 だがシルは冷静だった。振り下ろされるナイフを髪の毛を切らせるだけに留まらせ、弓の軌道を男に変え放った。

 しかし、この距離で取り回すにはシルの弓は大きかったらしく、男は矢を側転で躱す。


「やはり、あなたは他の方に比べて腕がたちますね」


 シルはそういいながら弓を手放す。そして腰に備えていた直剣を抜く。そして、目線だけをこちらに向ける。


「おや? どうしたんだい? お姉さんに見惚れるのは仕方ないけど、お兄さんの相手はソイツだよ。安心しな? この嬢ちゃんには手を出さないし、アタイがそっちに手を出しもしないよ」「フッ! んんふっーん!」


 赤髪の女の人は、シルが何を考えてるのか見透かしたように答える。アッ! もう! だからその手つきやめてってば!


「お優しいんですね。それなら、僕としてはその優しさでシュンを放して頂きたいんですが?」


 シルは女の人に答えながらも警戒を緩めていないみたい。意識は男と女の人両方にまだ向けている。


「ソイツはお断りするよ。色男のお願いなら聞いてあげたいんだけどね。あいにくこの子はアタイのモノになってもらうことに決めたからね。盗賊としては一度自分のモンにしたお宝を他人に譲るのは恥ってモンだ」「ンフッ⁉︎」


 ひゃっ⁉︎ 舐めた⁉︎ 今このお姉さん私のほっぺた舐めた!

 うぅ……シル、早く助けて……


「――盗賊には盗賊の誇りがあるってことですね。それでは、少し痛い目を見てもらいますよ」


 シルは女の人が私を傷つけることはないと判断したのか、男に視線も戻して直剣を構え直した。


「終わッたか? 俺としては気にいらねぇから殺したいところだが、お頭が気に入ったみたいだからな……半殺しで勘弁してやる――よッ!」


 男がシルに迫る。あ、ちょっと! だからやめてってば! シルが危ないのに!

 お姉さんがいちいち私にちょっかい出してくるのをもがきながら、シルを応援する。

 男は一足飛びにシルの懐に飛び込み、逆手に持ったナイフを横薙ぎに振る。

 シルは首筋を狙うナイフを直剣の柄を使い受けた。

 でも何か違和感を感じる……なんだろ……?


「⁉︎ ぐっ!」


 シルは男に前蹴りをかましてバックステップで距離を取る。でもナイフは受けたのになんで痛そうな顔を――


 私はシルが苦痛の顔をした理由がわかった。同時に、感じた違和感の正体も。

 男の左腕に刺さった矢が消えている。いや、正確には消えているわけではない――シルの右足には矢が刺さっていた。


「ケヒヒッ。そんな真面目な戦い方が通じるのは魔物か騎士くらいなモンだぜェ?」


 男はナイフをジャグリングのように片手でお手玉しながら余裕げに笑う。笑い方が相変わらずムカつくわ。

 シルは足に刺さった矢を直剣で切りとばし引き抜く。これじゃあシルの得意なスピードを活かした戦いは難しくなった。どうしよう、どうしたら……私に出来ることはないの?


「シュン、心配しないで。すぐに助けるから」


 私の焦りを見透かしたようにシルがいつもの優しい微笑みを向けてくれる。この人は……


「ヒュー。ニイちゃん余裕だなァ。ちょっとおじさんムカついてきちゃったなァ」


 男は口元は笑いながらも、その目は笑っていなかった。


「いえ、ちょっと僕も最近は狩りがメインだったもので……人との本気での戦いというものをするには、気が抜けてたみたいです――」


 シルは男に向き直り、表情を引き締め直した。そして、その体に――風を纏い始めた。


「失礼しました。僕は。ルレージュ大森林はソルトロッソが治める村一番の戦士。シルフェルス。森の民、森の戦士として、その誇りにかけ――貴方を倒させていただきます」


 そう宣言すると、シルの瞳は強く意志を込めた瞳に変わった。

 そして、吹き荒れる風はシルの足と手に持つ直剣に集約する。


「へェ。ニイちゃん面白い技使うじゃねェか。ソイツは加護と魔法を併せて使ッてるッてとこか。それで? その手品で俺に勝てるッてか?」


 男は余裕をもって、シルを煽っている。

 気をつけて、シル。その人まだ何かある――


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