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第2話 ジ○リの世界かよ。

 少女は考える。


 何故、こんな所にいるのか……

 どうしてこんな事になったのか……


 今日の晩御飯は、久しぶりに大好きな、すき焼きだったのに、ご飯を食べて、お風呂に入って、アイスを食べて、SNSや動画を見て、宿題をやったら、ふかふかのお布団で眠る。


 ただそれだけ。

 いつも通りの一日を送るはずだった。


 ほんの少し退屈だけど、あったかい日常を謳歌していたかっただけなのに。


「どうしてこうなった!」


 彼女は深い森の中、激しく吼えた。


 少女が目覚めた時、其処は深い森の中だった。


 えーっと、私は一体何がどうなってこんな所にいるんだっけか?

 確か、朝起きて、テレビの占いを見て最下位で落ち込んで、登校するときにパンを買って、学校で下らない話をして、つまらない授業を受けて、部活でシャトルランやりまくって、震える子鹿になった後輩を介抱して、そんで、晩御飯のすき焼きを楽しみにおうちに帰ろうとして、それから……


 思い出した! あのクソジジイ!

 助けてあげたのに、よくも!

 私のすき焼きが!


 はぁ……


 それで、此処は何処で、どういう状況なのだろうか。

 周りを見回してみる。


 木、木、木、木、木、木


 見渡す限り、鬱蒼とした樹木に覆われている。

 テレビで見た事のある樹齢何百年、とかって木より遥かに大きいんじゃないかと思われる木が、沢山生えている。

 ト○ロとか、もの○け姫とかに出てきそう。

 ジ○リかよ。

 そのくせ不思議なのは、これだけの木が生えているのに、周りは明るいのだ。

 これだけの木と葉っぱがあるのだから、普通は影で真っ暗になりそうなものなのに。


 一先ず、冷静になって周りを見てみたものの……

 うん、これはよくわからん。

 てか、正直冷静になろうとしてるけど、なれるわけがない。


 なんだこれは。

 何故に帰りにホームレスのジジイを助けたら、こんな森に放り出されなきゃならない。

 神様どうなってるの。

 この世に神なんて居ないのか。

 だからこうなるのか。

 てか、朝の占いが当たりすぎでしょう。

 もうお金取っていいよ、あの占い。


 涙目になりながら、ふと耳に届く音があった。

 んー、なんだろ、この音、行ってみるか。

 このまま此処にいても仕方ないし。


 立ち上がり、お尻に付いた泥や葉っぱを払い落として、音のする方へ歩いてみる。


 にしても、おっきい木だなぁ。

 ファンタジーの世界みたい。

 うん? よく考えたら、何処の国にこんなに大きな木があるんだろ?

 富士の樹海? アマゾン?

 考えながらも、足は止めずに歩いていく。


 程なく、音の正体がわかった。

 水だ。水の流れる音だ。

 目の前には、綺麗に澄んだ水が流れていた。

 そういえば、喉も渇いた。


 この水、飲んで大丈夫かな?

 なんか、どっかで生水には寄生虫がいたりして、そのまま飲んじゃダメとかって聞いた事がある気がする。


 うーん……まぁ、これだけ綺麗なんだし、大丈夫大丈夫。

 少し悩んだ末、ゴクゴクと水を飲む。


 何これ。超美味しい。凄い美味しい。

 コンビニで売ってるミネラルウォーターとか比べ物にならない。

 何これ。


 水の美味しさに、感動していた私は、気づいていなかった。

 背後からくるソレに。


 ガサッという音に振り返ると、其処には緑色で醜悪な顔をした小さな生物がいた。


 えっと、あれ?

 これってなんだっけ?

 小人じゃなくて……

 あ、そうだ、ゴブリンだ!

 ゲームやマンガで出てくるやつ!

 良く出来てるなぁ。


 そんな間抜けな感想を思い浮かべている私の前で、ゴブリンは醜悪な顔に、より醜悪な笑顔を浮かべて、ギャリンという音と共に、何か光るものを取り出した。


 ナイフだ。


 正確に言うと、ダガーだろうか。

 ゴブリンは獲物を構えて、獲物を狙っているのだ。


 そう、私だ。


「ひっ」


 鈍い私も流石に理解した。

 いや、理解なんて出来てないけど、この状況だけは理解した。

 何故だか解らないけど、目の前にはファンタジーの世界にいるゴブリンがいて、私はそんなゴブリンに狙われているのだ、と。


 逃げる為に立ち上がる。

 走ろうとするが、怖くて後ろを向くことができない。

 刃物を持った相手に背中を向けるなんて出来るわけがない。

 それ以前に、足が震えて、言う事を聞いてくれない。

 立っているので精一杯だった。


 ガクガクと足を震わせている私に対して、ゴブリンは一歩一歩近づいてくる。


 こわい、コワイ、怖い、恐い、こわい、こわい


 ゴブリンが目の前まで来てしまった。

 それでも私の足は動いてくれない。

 ゴブリンは醜悪な笑顔を貼り付けたまま、ダガーを振るう。

 痛い。

 ゴブリンは遊んでいるのか、嬲るつもりなのか、軽く腕を切りつけてきた。血が出ている。

 かすり傷程度ではあるが、腕に傷がつく。

 たかがかすり傷程度なのに、途轍もなく痛い。


 いや、痛く感じる。

 恐怖が痛みを引き上げている様だった。


 思わず腰が抜けてしまう。


 ゴブリンは、それを見てとても愉快そうな顔でニタニタと笑っている。

 気持ち悪い。


「い、いや。来るな。来るな。来ないで!」


 私はズリズリと後ろに下がりながら、叫んだ。

 ゴブリンはニタニタと笑みを浮かべて、ヒョイヒョイと踊るように近づいてくる。

 何か言っているようだが、耳に入ってこない。


 こわいこわいこわい。


 唐突に後ろに下がれなくなった。

 木にぶつかったのだ。


「ヒッ!やだやだやだ」


 ゴブリンに追いつかれる。

 ゴブリンは腕を振り上げて、ダガーを振り下ろそうとしている。


 もうだめだ。

 思わず私は目を瞑る。

 次の瞬間には、私はあのダガーに突き刺されて殺される。

 嫌だな、こんな訳の解らない状況に放り出されて、訳の解らないまま……


 死ぬ。


 お母さん、お父さん、妹、飼い猫、友達、最後に皆にも会えずに死ぬ。

 もっと沢山楽しいこともしたかったし、恋もしたかった。

 美味しいものも沢山食べたかった。


 あ、そうだ、最期にすき焼き食べたかったな、せめて死ぬならすき焼き食べさせて欲しかった。

 連れてくるならすき焼き食べてからでも良かったと思うのよ私。

 あのクソジジイ、死んだら取り憑いて苦しませてやる。


 にしても、死ぬ時ってこんなに時間がかかるのか、走馬灯とか言うんだっけ?

 時間が凄い遅くなってスローモーションみたいになるっていうもんね。

 でも苦しいのが長くなるのは嫌だなぁ。


 んー、でもやっぱり遅すぎない?

 どうなってるの?


 恐る恐る目を開けてみる。


 目に入ってきたのは、矢が刺さり、血を流して倒れているゴブリンの姿だった。

 え? 何これ。どうなってるの?

 これさっきのゴブリンだよね?

 何で矢が刺さってるの?


「君、大丈夫かい? 怪我は? あ、腕を怪我しているね。生憎今は治癒の魔法が使えないから、この薬草を塗るといい」


 混乱している私に、目の前にいる男の人は緑色の塗り薬の様な物を渡してくる。

 受け取ろうとしたが、手に力が入らずに取り落としてしまった。


「ごめんね。とても怖い目にあったんだね。手当ては僕がしよう。じっとしててね。少し滲みるかもしれないけど」


「痛っ」


 凄い滲みる。

 痛みで少し意識が戻ってきた。

 この人が助けてくれたんだ。

 良かった。ホントに良かった。


「うわっ! 痛むかい!? ごめんよ! ルレージュの葉はとてもよく効くんだけど、滲みるのが嫌なとこだよね」


 男の人はアワアワと慌てながら、早口で話している。

 どうやら、涙が流れていたようだ。

 そのせいでこの人はこんなに慌てているんだろう。


「ふっ、うっ、うっ、うわああぁぁぁん!」



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